旅先の水遊び
翌日、はなちゃんに乗った僕たちは領主様たちや騎士団の皆さんと早速アトラスシティーを出発することにした。
なんでも二週間後の誕生祭までには到着したいとのこと。
そのためか進むペースが昨日よりも速くなったように思う。
「はなちゃん、これからもついていけそう?」
「パオ」
大丈夫、そう言うようにはなちゃんは軽く鼻をあげた。
「それにしても巨体の割に動きが軽快なのだな。我々騎士団の馬に着いていけるとは驚きである」
ベイルガードさんが目を丸くしているけど、はなちゃんは一歩も大きいから急ぐときは割とスタスタ進むんだ。
舗装された平坦な道を歩くことしばらく、僕たちは近くを流れる川のそばで一度目の休憩を取ることになる。
「パオン!」
休憩に入るなり川に駆け込んで水しぶきを盛大にあげるはなちゃんに、ロゼちゃんが歓声をあげた。
「まあ! 豪快な入水ですのね!」
「驚くのはまだ早いよ、ロゼちゃん。ほら、見てて」
僕の予想通り長い鼻を使って汲み上げた水をごくごく飲んだ後、はなちゃんは鼻で全身に水を吹っ掛け始める。
「きゃあ~!」
飛び散るしぶきにもロゼちゃんは嬉しそうに歓声をあげた。
「はなちゃんは水浴びが大好きなんだよ」
「そうなのですね~。わたくしも一緒にしたいですわ! ――アリシア、少しこちらに来てくださいます?」
ロゼちゃんが呼び掛けると、領主様の馬車からメイドのアリシアさんが駆けつけてくる。
「いかがいたしましたか、ロゼ様?」
「アリシア、今すぐわたくしの服をお脱がせくださいまし」
「かしこまりました」
快諾したアリシアさんがロゼちゃんの服を脱がせ始めたので、僕は慌てて背中を向けた。
スルリスルリと布の擦れる音がして、なんだかドキドキしちゃうよ~!
どぎまぎしてたら、急に後ろから手を捕まれた。
「ユウキちゃま、一緒に水浴びをしましょ」
「へっ!?」
手を引っ張られた拍子に、僕はタオルを巻いただけのロゼちゃんを見てしまう。
体つきがルナちゃんよりもさらに幼いのにタオル一枚だけでこの色気は何!?
「どうかなさいました?」
「う、ううん。なんでもない。僕も水浴びしようかな」
「それならほら。脱いで脱いで、ですわ」
ロゼちゃんに促されて僕もパンツ一丁の姿になり、一緒にはなちゃんの元に向かう。
「はなちゃ~ん!」
「パオン!」
僕たちの姿を見るなり、はなちゃんが嬉しそうに鼻を振り上げた。
その瞬間飛び散る豪快な水しぶき!
「きゃ~!」
「うひゃあ!?」
外が暑くなってきたからか、川の水の冷たさが気持ちいいなあ。
「やったなあ!」
僕も負けじと水をかけると、はなちゃんがさらに鼻から水を吹き出す。
「きゃはは!」
「うひぃ!」
「パオ!」
僕たちが楽しく水遊びをしていたら、今度はルナちゃんまで湯浴み着姿で駆け込んできた。
「ルナも入れてくださ~い!」
そう告げながらルナちゃんもザバザバと川に駆け入って水しぶきをあげる。
「ルナちゃんも一緒に遊ぼ!」
「はい!」
僕が差しのべた手を取ったルナちゃんが、元気よくニッコリ笑った。
そんな様子を見ていたロゼちゃんが、口元に手を添えて上品に微笑む。
「お二人ともお仲がよろしいのですね」
「うん! 僕たち親友だからね!」
「そ、そうですね。ルナたちは親友なのです」
一瞬ルナちゃんの顔が曇ったように見えたのは気のせいかな?
だけどすぐににかっと笑うルナちゃんに、ロゼちゃんも仲間に入ろうと駆け寄る。
「わたくしもユウキちゃまたちとお友達ですわ」
「うん!」
「はい!」
「お~い! オレも混ぜてくれよ~!」
そこへさらにパンツ一丁のワイツ君も乱入してきた。
だけどワイツ君の目はルナちゃんの身体に釘付けみたいで。
「……あんまりジロジロ見ないでくださいワイツくん」
「え~! そんなのユウキだけずりーじゃん!」
嫌そうに眉を潜めるルナちゃんに、ワイツ君は口を尖らせる。
「まあまあ、ワイツ君も一緒に遊ぼうよ! ね、はなちゃん」
「パオ」
こうして僕たち四人は、はなちゃんと一緒につかの間の休憩を過ごしたんだ。
そんな僕たちの様子を、ベイルガードさんと領主様が微笑ましそうに眺めている。
「うちの息子もルナちゃんと仲良くできてるようで何よりである」
「そうだな、騎士団長よ。私の娘もあんな楽しそうにしているところを見るのは初めてだ。今まで近い年頃の友達がなかなかいなかったからな……」
「ハハハ、子供はああして楽しくしてるのが一番ですなあ」
何話してるかはよく聞こえないけど、なんだかあのお二方も楽しそうに見えるよ。
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