ルナちゃんを取り戻せ!

襲い来るシーフゲッコー集団

「な、何だあ!?」


 飛び降りてきたトカゲは生々しいピンク色で、その縦長の瞳は僕たちを狙うようににらんでいる。


「シーフゲッコーだよ、そいつら毒を吐くから気をつけて!」

「はい!」


 セレナさんの警告で身を引き締めるのとほぼ同時に、シーフゲッコーが一斉に飛びかかってきた。


「グケケケケ!」

「グギギギギ!」


「ルナちゃん、しっかり掴まってて!」

「は、はいっ!」

「行くよはなちゃん!」

「パオーン!」


 正面から飛びついてくるシーフゲッコーたちを、はなちゃんが長い鼻でなぎ払う。



「はあっ!」


 後方からセレナさんも弓矢で援護してくれた。


「グゲッ!?」

「グギィ!?」


 一度に三匹も射抜くなんて、やっぱりセレナさんってすごい。


 だけどシーフゲッコーは次々と崖から飛び出してくる!


「グケケケケ!」

「グギギギギ!」


 口から毒を吐きながら迫るシーフゲッコーを、僕たちも魔法で牽制することにした。


「ブレスブリザード!」

「パオオオオ!!」


 はなちゃんの鼻から吹き出す吹雪のような冷気で、シーフゲッコーの何匹かを瞬時に凍りづけにする。


 だけど残りの八割くらいはそれも即座に避けて、また毒吐き攻撃を仕掛けてきた。


「マジックシールド!」


 シーフゲッコーの吐く毒を、はなちゃんが耳を広げて張った魔法のバリアで防ぐ。


「ウインドサイクロン!!」


 後ろを見ればセレナさんが小さな竜巻みたいなのを起こし、シーフゲッコーたちを巻き込んだ。


「グゲエ!?」

「グギィ!!」


 これが効いたのか、シーフゲッコーたちが一瞬怯む。


「今だよはなちゃん! ストーン・ショット!」

「パオオオン!!」


 僕の指示ではなちゃんが鼻から石の弾丸を乱射し、シーフゲッコーを次々と撃ち抜いた。


 よし、これならいける! 僕たちの敵じゃないね!


「あと少しだよはなちゃん、頑張って!」

「パオン!」


 数が減っていくシーフゲッコーを前に僕が意気込んだ時だった、一匹のシーフゲッコーが隙を突いてはなちゃんの顔面にへばりつき、その目に毒を吐いた。


「プオオ!?」

「はなちゃん落ち着いて!」


 慌てた僕の指示も今のはなちゃんには届かないのか、身体を激しく揺さぶって苦しそうに暴れだす。


「オオオオオオオオン!!」

「ちょっとはなちゃん!? ――うわあ!!」

「きゃあーっ!!」


 暴れるはなちゃんの背中から僕とルナちゃんが振り落とされてしまう。


「う、うう……っ」


 落下の衝撃でうめくのもつかの間、気がつくと僕とルナちゃんをシーフゲッコーたちが取り囲んでいた。


「グケケケケぇ」


 ニヤリと笑みを浮かべるように口角を吊り上げるシーフゲッコーたち。


 まさか僕たちハメられた……!?


 唖然とする間もなくシーフゲッコーたちが僕とルナちゃんにまとわりつく。


「いやっ、離れて~~!!」


 シーフゲッコーたちにもみくちゃにされて悲鳴をあげるルナちゃん。


「やめろ! このっ、このぉ!!」


 苦し紛れにナイフを振り回してみるけどシーフゲッコーたちは怯む様子もなく。


 そうこうしてるうちに一匹が口から煙幕みたいなものを吐いた。


「ううっ! 何も、見えない……!」

「ゆー君! ルナぁ!! ゲホゲホ!?」


 当たり一面に広がった煙幕が晴れる頃には、シーフゲッコーたちはこつぜんと姿を消していた。


「あれ……?」


 さっきまでの騒然が嘘のように静まり返った光景を呆然と眺めていると、セレナさんが悲痛な声をあげる。


「ルナが、いない!!」

「そんな!?」


 セレナさんの言うとおり、辺りを探してもルナちゃんの姿はどこにも見当たらない。


「まさかシーフゲッコーに……!?」


 衝撃の事実に、僕は膝をがっくりと膝を落とす。


「そうだ、はなちゃんは!?」


 はなちゃんに顔を向けると、彼女は横倒しになってズリズリともがいていた。


「プオオ! バオオオオオオ!!」

「落ち着いてはなちゃん! どうしたの!?」

「待って、ここはお姉ちゃんに任せてっ」


 前に出たセレナさんがはなちゃんを見つめると、こんなことを。


「奴らの毒で苦しんでるみたい。毒消しがあるから試してみるっ」


 そう言ったセレナさんはポケットから紫色の小瓶を出して、はなちゃんに歩み寄る。


「よしよしはなちゃん、ここが痛いんだね?」

「ブロロロ……」


 セレナさんが優しくなでると、暴れていたはなちゃんが大人しくなった。

 やっぱりセレナさんってすごいなあ。


 それからセレナさんははなちゃんの目に毒消しをピトンと注した。


「……プオ?」

「良かった、治ったみたいだね」

「ありがとうございますセレナさん。ほら、はなちゃんもありがとうだよ?」

「パオン」


 鼻をあげて感謝したはなちゃんは、続いて申し訳なさそうに喉を鳴らす。


「ブロロロ……」

「はなちゃん……。違うよ、油断した僕が悪いんだ」


 そう、はなちゃんに乗ってる自分は無敵だと心のどこかで思っていた。


 その慢心による油断が今回の失敗を招いたんだ……!


「――うなだれてる暇があったらルナを探さないとだよ、ゆー君」

「それも……そうですね」


 落ち着いて的確な言葉を投げかけるセレナさんだけど、その表情はいつになく険しくて。


 そうだ、クヨクヨしてる場合じゃない。早くルナちゃんを助けないと!


「はなちゃん、ルナちゃんの匂い分かるよね?」

「パオ!」


 僕を乗せるとはなちゃんは長い鼻を地面にかざして匂いを探り始めた。


 ルナちゃん、無事だといいんだけど……!

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