迷走魔術師、大会に出る

はじ湖

第1話 トラウマ

「そこだ、メイタロウ! 早く!」

「……!」

「早く術を撃て! じゃないと、」


 聞こえたのは誰の声だっただろう。

 震えたのは誰の体だっただろう。


 握る手の平。結ぶ汗の玉。

 動けない自分。動かない視界。

 開いた唇の端で、自分でも訳の分からぬことを呟く。


 視界の向こうの誰かが、高く杖をかかげた。

 術が完成して、それを放とうとしているのだ。


 すべてを塗り潰すような闇の魔術が、こちらへ向かってくる。


「メイ!!」


 再び誰かが叫んだ。それが最後だった。


 視界が真っ黒に塗り潰される。

 大きな音を立てて、防壁魔術が派手に飛び散った。


 闇はすべてを押し潰し、未来への淡い期待さえ根こそぎ絶ってしまった。

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