親不孝
おかずー
親不孝
当たりだ。彼女を見るなり、
彼女は有名なアイドルグループに所属しているといわれても疑う余地のない今風の甘い容姿で、栗色の長い髪を揺らしていた。制服の胸元が程よく膨らんでいる。
「こんばんわ。ヤマダさん、今日はきてくれてありがとう!」
人当たりも良さそうだ。
「外、寒かったでしょ。わっ、手、冷たい」
彼女は孝弘の手を取って、廊下を進んだ。孝弘は彼女の短いスカートから延びる太ももを見ながら、早くも股間に力が入るのを感じた。
「ではここで靴を脱いでください」
部屋に入って靴を脱いだ。布団が一つ敷いてあるだけの狭い部屋だった。
「あらためまして、アケミです。今日はよろしくお願いします」
アケミはそう言って孝弘の唇に自分の唇を軽く重ねた。ほとんどの女がうがいをした後でなければキスなどしてくれないのに。
やはり当たりだと孝弘は思った。
「ではさっそくですけどシャワー浴びましょっか。私はどうしましょう。とりあえず服は着たままにしますか」
特に制服が好きということではないが、いきなり裸になるより、プレイ中に脱がしていく方が楽しめる。アケミの口ぶりからも、他の客も同様にしていることがうかがえる。
黙って首を縦に振ってから、服を抜いだ。靴下と下着は脱がせてもらった。
アケミは透明のエプロンを身に着けていた。プラスチックの素材で、制服が濡れないようにするためだろう。
二人でシャワールームに入る。シャワー中、孝弘は立っているだけだった。アケミが皿洗いをするように手順よく孝弘の体を洗っていく。孝弘は股間を固くしながら、アケミの体を観察した。最後にイソジンを使ってうがいをしてから部屋に戻った。
布団の上で向かい合う。アケミがふふっと笑った。それが合図になった。孝弘はアケミの唇を吸いながら、体に触れた。制服が濡れていた。
最後はアケミの口内で果てた。アケミは最後の一滴までしっかりと受け止めたあと口を離した。始まりと同じように、ふふっと笑ってからティッシュを取り出した。
孝弘は布団の上で仰向けに寝転ぶ。程よい倦怠感と、大きな満足感を得た。十分ほどの行為を振り返りながら、やはりアケミは当たりだったと思った。
「気持ちよかったですか?」
アケミが口の中のものを吐き出したあと、体育すわりをしながらたずねた。うん、と孝弘は素直に答えた。
「よかった。ヤマダさんは仕事帰りですか?」
「そう。これから飯食って帰る」
「えっ、ごはんまだなんですか。おなかすいたでしょ。なに食べるか決めてますか」
「どうしよう。この辺っておいしいご飯やさんとかあるの?」
「すみません、私この辺りのことはあまり分からなくて。この辺りで食べることがないですから」
「ご飯とかはどうするの?」
「仕事中はあまり食べないですね。コンビニでお菓子買って、ここで食べるくらいで」
「ここで?」
「外でお客さんに会ったら気まずいから」
アケミは指で頬をかいた。
「あっ、でも、この前、お客さんが言ってたな。おいしい定食屋さんがあるって」
「この近くで?」
「親不孝通りを駅に向かって進んで、四つ目の交差点を右だって言ってたような」
「親不孝通り?」
聞きなれない単語が出てきたので思わず聞き返した。
「知らないんですか? この前の通りって親不孝通りって呼ばれてるんですよ」
アケミはバラエティ番組でも見ているかのような乾いた笑い声をあげた。
なんで。孝弘は聞き返す前に気付いた。
前の通りは、この店を含めて何十という風俗店が並んでいる。おそらくはそこで働く女性たちが親不孝だということから名づけられたのだろう。誰が言い出したのか。客か、第三者か、あるいは働く女性が自ら言い出したのかもしれない。
孝弘は改めてアケミの裸体を見た。一万円を払えば誰でも触れることができる体だ。
「そろそろお時間ですね。シャワー浴びましょう」
アケミに促されるまま再び二人でシャワールームに入った。アケミは裸体のまま孝弘の胸や腹部や、そして陰部をやはり皿洗いをするみたいに手順よく洗った。
店を出て親不孝通りを駅に向かって歩いた。呼び込みの男が声をかけてくる。
「お兄さん、どうですか。今なら可愛い子すぐいけますよ」
孝弘は右手を左右に振って断る。そのあとも幾人もの男に声をかけられたが、同様にしてやり過ごした。四つ目の交差点を右に曲がると、アケミが言った通り定食屋が見えた。孝弘は店の前で少しだけ立ち止まり、結局は定食屋を通り過ぎてそのまま駅に向かって歩いた。
親不孝 おかずー @higk8430
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