其の四

 翌日、学校に行くと、校門警備隊の連中がおかしい。校門から玄関にかけての道を歩いていると何やらこっちを見てヒソヒソ噂話をしている。すると、公安調査庁の一学年下の雪風昌福が玄関で俺に敬礼して来た。敬礼仕返して、「何事だ。」と尋ねた。如何にも気まずそうな面を下げている昌福に少年は走っていった。「此処じゃマズイので、ちょっと此方へ。」校舎に入り、B棟の公安調査庁の部屋に入った。「さて。」カチャと昌福は扉を閉めた。さっきまでタダのアホヅラ下げた昌福の表情が固く締まり、髪を上げて本気モードに入った。額の刀傷が見えた。流石、公安調査庁の奴だ。硝煙の阿修羅を潜って来ただけはある。「長官、朝から長官の変な噂で持ちきりです。」やはり、深刻か。「では、どのような噂か。」気が付けば少年も腕を捲って、傷だらけの腕を晒していた。「それがですね、」昌福は口籠った。「昨日1630頃、神祇官官房付の不知火殿を救命されたのですね。」「嗚呼、それがどうした。」「校内で長官が不知火殿の救命の際、長官が不知火殿に狼藉を働いたと噂する輩がおりまして、そして卸売で長官の写真付の呪いキットの売り上げが倍増したと報告が入っております。」「何だ。流言飛語か。」だが昌福は声を荒らげた。「何だでは御座いません、長官!我が内務省公安調査庁は予算人員非公開の特務機関でありますぞ!確かに白沢の旦那が長官であることすら非公開でありますが、特務機関の長がこうも流言飛語の的にされることの重大性を御自覚してください!」

 「なあ、昌福や。」「はい。」暫く沈黙が流れた。「俺は何回死の淵を見たと思うか。」少しキョトンとした顔を昌福はした。「お前は確かニ回だったな。」「はい、反生徒会組織への潜入の際に疑われて一回、路上でウチの女学生に痴漢したオッサンに逆ギレされて刃物を振り回されて一回。額の傷は其の時のものです。」「でもお前は其のオッサンの時にヘマして肺までナイフ届いちまったなあ。」「お恥ずかしい限りで。」昌福は過去の失敗をほじくり返されて少し恥ずかしそうにした。「まあ、それでお前も漢になったよ。」「あざっす。」あからさまに嬉しそうに言った。コイツは感情がすぐに顔に出るのによく生き残ったものだ。「まあ俺の身の上話なんかお前にしてなかったな。この際話してしまおうか。」「ではどうぞ。」

 これは少年が生まれて間も無い時の話だ。少年はとある紛争地域の戦災孤児だった。そこで反政府ゲリラの軍人、オヤジさんに拾われた。拾ってくれたオヤジさんに恩を返すため、其れ以降少年は軍人としてのキャリアをスタートさせた。

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