異世界を作る

爪木庸平

第1話

「明日の異世界どうしますー?」

 アシスタントの私は机に向かったまま先生に声をかける。単なる疑問として聞いたというより、単調な作業時間中の眠気を晴らすために雑談を振ったというだけだ。どうするかなんて聞かずともわかる。先生の思いつきのままデタラメな指示が振ってくるのだ。今日も明日も。

「んん、君は今なんの作業をしてるんだっけ」

「世界観考証ですよー。今日中に世界の構成案を書き出して元世界の文献をリサーチして、理解可能なアイデアにまとめます」

「なるほど。まだ全然だね」

「全然です」

 世界観考証とは、異世界転生した人間が最初に、あるいは徐々に理解していく異世界の成り立ちについての設定だ。異世界の成り立ちと一言に言っても、宇宙の誕生から物理法則や生態系、文化や宗教に至るまで、一貫したものでないといけない。いや、破綻した世界観を作り上げることも理論的には可能なのだが、理解できない世界にしてしまうと転生者の魂がぶっ壊れてしまうらしい。

「考えてみれば転生者の魂が壊れないために考証してるってことは世界観を考えるより転生者の魂について研究した方が合理的じゃありません?」

「いやー。それはちょっと大変だよ。我々の上位存在ならそういったことも可能だろうけど、我々の実力じゃちょっと。我々が魂と呼んでいる現象にしたって、元世界から異世界へ転移した時に明らかにバグってしまった人間を観察して仮説を立てたに過ぎないからさ」

「あー。まあ人の心ほど不思議なもんはないですからね」

「明らかにバグってしまった人間が極端に世界の法則を乱していたらそれをチートと呼ぶし、一般化した技術へと昇華したら魔法と呼ぶ」

「まあ魔法とかチートの定義も手元の資料じゃバラバラなんで、それはあくまで先生の解釈ということになりますね」

「私が創造主なんだから私の解釈が一番だろう」

「でも待遇が悪ければ私は先生の所を出て他所へ移りますよ。給料上げろー」

「まったく」

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異世界を作る 爪木庸平 @tumaki_yohei

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