第11話 託された想い

『んん……?ここは?』


 気が付くと目の前に床に三角座りで座っている人が見えた、見える範囲を見渡してみると見慣れない家の中だという事にはすぐ気づいた、ただ視線の位置がかなり低いような?


『これは夢?』


 普通夢は認識出来ないものだが何故か夢だと理解できた、体が勝手に動いてる……自分は何か動くものの目線から夢を見ているのかな。


「わうん……」


 鳴き声が聞こえた、犬か狼のような鳴き声?自分の住んでる世界にもペットや従魔に出来る犬魔獣や狼魔獣がわうがう言っているので違和感はない、この目線の正体は多分犬か何かなのかもしれない。


「かえで……なんでこうなっちゃったんだろう……?」


 かえで?私の名前だ、今見てる視線の犬のような動物の名がかえでって名前らしい、偶然なのかな?

 この人は暗い顔をしながらもかえでであろう動物の頭を撫でている。


「川に流されたかえでを助けてもらってすぐに高雅くんが川に流された時、私は何もできなかった……あの時すぐに手を伸ばせていれば間に合ったかもしれない……亡くなったらもう触れる事さえできない……」

「くぅん……」


 コウガくん……?ご主人様の名前……?え、なにこれ……名前がまた同じ??しかも川に流されて無くなった……?

 もしかしてこれ……ご主人様が転生してくる前の世界?しかも転生直後と窺えるような会話内容に感じる。


「かえでも高雅くんにいっぱい遊んでもらってたのにね……もう遊べないんだよ」

「……」


 このかえではいっぱいご主人様に可愛がられたんだな、ご主人様が動物好きなのも分かる気がするくらい、このかえでにいっぱいの愛情が注がれてるのが伝わってきた。

 だからこそ心が苦しくなる、この動物の感情が私にも伝わってくる。


『このかえでもご主人様が大好きだったんだね』


 ……かえで【も】?


『いやいやいや、私たちはまだ出会ったばかりで!?まだ好きってことは……』

『ことは……』

『……』


 顔が熱くなってくる、気になっている……だけではなくなってきているような気がする……

 かえでが飼い主に寄り添い大人しくしている、たまに手を舐めて慰めているようにも見えた、飼い主がかえでを抱き締める。


「ごめんね高雅くん……ごめんねかえで……」


 大粒の涙が溢れ出している、かえでも涙が出ているのか視界が少し見えにくくなった、かえでの感情も爆発する。


「わうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん」


 どんどん流れ込んでくる、ここにいる飼い主とかえでの想いが、感情が、全て流れてくる、私に託すかのように。


『……みんなの想い、受け取ったよ』

『私は……!』


 覚悟を決めた、この2人の分まで彼と幸せになることを。



 視界がかえでから離れてかえでの姿が見えるくらい浮き上がった、視界が少しずつ眩しくなってくる、目覚めかもしれない。

 かえでと飼い主を見てみると、かえでが私を見つめていた。


『この世界のかえで……私が見えているの……?』


 かえでは頷いた、目はずっと私と合っている、眼からとてつもない意志を感じた。


「あとはまかせた」


 って言っているように感じた。


『まかせて……かえで、私カエデが二人の分まで幸せになるから……』


 そう言うとかえでの口元がわずかに動き、わうと言ったかのように見えた、伝わったのかな……?

 そしてかえでは瞼を閉じ、一粒の涙を流した。


 それを見た私は、眩しい光に包まれ目が覚めた。




「おはようカエデ、涙が出てるが……嫌な夢を見たか?」


 ご主人様が私が起きたのを確認したのか挨拶をしてくれる、私泣いているみたいだ。


「大丈夫、嫌な夢じゃないよ……大事な夢だった」

「大事な夢?」


 ご主人様が不思議そうな顔をしている。


「私ね、夢を見たの。多分……これ事実の事だと思う」

「事実…?」

「私以外にかえでって名前の動物に覚えはない?」

「!?」


 ご主人様の目がぎょっと見開いた、やっぱりあれは事実なんだね。


「ご主人様がかえでって子を助けて川に流された……そして転生してこっちに来た……違う?」


 ご主人様が信じられないような顔をして口をあんぐりと開けてた。


「なっ!?俺まだその話は誰にもしてないぞ!?なんでそれを!?」

「会話を聞いたのよ、かえでの中からね。かえでって子の目線で今の状況も見てきた。かなりご主人様に好意持ってたみたいね、かえでも……かえでの飼い主も。」

「梨沙とかえでが…?」


 ご主人様の顔が切なさへと変わっていく。


「多分ご主人様が転生して間もないくらいでしょうね、飼い主りささん?とかえでが慰め合って泣いていたわ……二人の感情が溢れ出して夢で一緒にいた私にも伝わってきたわ」

「……」


 ご主人様が黙って私の話を聞いてくれている、切ない顔なのは変わらない、こっちに転生してしまっている為に凄く複雑な想いなのね。


「私、かえでに託されたの。ご主人様を任せたってね」

「……!?」

「だから……私は1歩踏み出すことに決めた、二人の分までご主人様に尽くすことに決めたの、私の気持ちを二人が後押ししてくれた感じだけどね」

「……」

「私たちが初めて会った日の数日前から、私の人生は大きく変わった。村にドラゴンが現れ村が壊滅、命からがら逃げてきてガルムさんに拾われて、転生して落ちてきたご主人様を私が救った、ご主人様は前世で自分を犠牲にかえでの命を救って転生してきて私に救われた、二人のカエデ……これって運命だと思わない?」


 偶然には出来過ぎてるのよ、これは私たちが出会うべくして出会った、そういう運命だったとしか思えないの。そしてこの私の気持ちが一瞬でご主人様に向いたのも……


「確かに偶然には出来過ぎてる……よな」

「ご主人様もそう思うでしょ?そしてご主人様と出会ってたった数日……一瞬でご主人様へ私の気持ちが動いた、数日共にしてご主人様に買ってもらったあの付近から、一緒に居たい尽くしたいって思うようになった」

「……」

「ご主人様……いいですか……?」


 ご主人様に近づいて反応を待つ、想いはちゃんと伝えた、ご主人様が私をみる、頭を優しく両腕で包み込み抱き締めてくれた。


「向こうの二人の分まで、カエデを守ってみせる。一緒に居よう」

「ありがとう……」


 二人で抱き締め合う、その間には……りささんとかえでがいるような……そんな気がした。


『??スキルの条件クリア、スキルを解放、変身を習得しました』(コウガ)

『加護、託された想いが追加されました』(カエデ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る