チャイ

チャイと言えば、インドを思い出す人が多いのではないかと思う。スパイスの入ったミルクティーで、インドで有名な飲み物だからだ。私はチャイが好きで、スタバでもよくチャイティーラテを頼む。そして、シナモンが香る甘い紅茶を飲むと、アメリカで過ごした日々が思い出される。私にとって、チャイはアメリカのホームステイ生活の思い出の味の一つだ。

 

 高校2年生のとき、私はアメリカに留学をした。約10ヶ月ほどの滞在で、その間はホームステイをしていた。ホームステイには種類が2つあって、元々ホストチェンジ、つまりホストファミリーを変えることを前提としているものと、ホストチェンジは行わず同じ家に留学中ずっと滞在するものがある。私のホームステイは後者だったので、10ヶ月間お世話になるはずだった。


 ところが、ホームステイも半ばを過ぎたころ、私はホストチェンジを余儀なくされた。ホストファミリーとのトラブルや家庭の事情がある場合に、やむを得ず起こる場合がある。私の場合は性的な被害だったため、緊急性が高かったようで、すぐにホスト先から避難することになった。そのときに一番私のお世話をしてくれたのが、学校の司書教諭だった。


 その司書教諭は、私から話を聞くとすぐに学校から留学の斡旋団体に連絡をさせてくれ、次の日にはホストファミリーの家を出る算段をつけてくれた。荷物を取りに行く際も車を出してくれ、ホストファミリーとの話も全て対応してくれた。こんなことになったのは私のせいではないと言ってくれ、家がなくなった私の一時的に滞在させてくれた。


 それからしばらくの滞在期間中、私は毎日司書教諭の車で学校へ向かった。司書教諭の家は、学校まで1時間ほどかかる場所だったので、その間私たちはたくさん話した。そのお供は、いつもチャイだった。司書教諭の家で初めてチャイを飲んだとき、私が気に入ったので、彼女はいつも私のために家にチャイを置いてくれた。朝、タンブラーに入れてチャイを温めて、車に乗って出発するのが日課だった。


 私はそのチャイと司書教諭と話すことが大好きで、通学の時間が1日の中でもお気に入りだった。その後、しばらくして、私の友達がホストファミリーになってくれることになり、私は司書教諭の家を離れたのだが、その少しの滞在期間は、私のかけがえのないとても大切な時間になった。


 今から思えば、チャイは私が少しでもリラックスして過ごせるように、また私が受け入れられていると感じることができるようにという司書教諭の優しさだったのだと思う。チャイを飲むと、私はそんなアメリカでの優しい時間が思い出されて、いつもとても暖かい。

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