57_栞と佐伯

「学校でのセリカはどうでしょうか?」


しらねーよ!野郎の生活なんて!

俺は女子しか見てねー!


「セリカくんはクラスでもムードメーカーで・・・」


「ご主人様って、ムードメーカーだったのですか?」


「いや、知らん。そんなこと一度も言われたことがない」


そこ!うるせえんだよ!

こっち来ないなら、どっか行ってろ!

そこで、イチャイチャすんなよ!


「栞(しおり)さんは、セリカくんの後見人なんですね。失礼ですが、まだお若く見えますが・・・」


「はい、セリカの従姉(いとこ)で。今年28です」


めちゃくちゃ若いじゃないか!

しかも美人!


「・・・」


「・・・」


間が続かねー!


よし!鳥屋部(とやべ)はヤバいヤツ決定。

とっとと退散して次の家に行くか!


「それでは、そろそろお暇して・・・次の家に行きませんと」


って、次の家は堀園(ほりぞの)ん家(ち)だよ!


「堀園(ほりぞの)、お前んちに案内してくんえーか」


「はい、私のおうちはここです」


「はぁ!?」


慌ててリストを見る。

男女リストが別々になっていて、女子の方しか見てなかった。


たしかに、堀園(ほりぞの)と鳥屋部(とやべ)の家の住所が同じだ!

どうしてこうなった!?


「引き続き、堀園(ほりぞの)さくらの後見人、小井沼(こいぬま)栞(しおり)です」


どういうことだ、これー!?




「ご主人様、あんまり話が弾みませんね」


「そうだな・・・なんかいい手はないかな?」


「そうですね、あれを出しましょう」


堀園(ほりぞの)が冷めたコーヒーを引いて、ティーカップを持ってきた。

そして、なんかすごく良いにおいの飲み物を持ってきた。


「あのー、今日は寒いで紅茶に少しだけブランデーを入れてみました。どうぞ」


家庭訪問だぞ!

酒を出すなよ!酒を!


目の前の小井沼(こいぬま)さんが一口飲んだ。


ごくり。

うまそうだな。


「ささ、先生もどうぞ」


「あ、いや、俺・・・僕は・・・」


結局飲んだ。

俺は意思の弱い男ですから・・・



■■■30分後


「さくらちゃん!もうね!ストレートで持ってきて!ストレートで!」


「俺は焼酎がいいんだが、焼酎ないか!?堀園(ほりぞの)」


「はーい、ブランデーと焼酎ですね」


ブランデー入りの紅茶は思いの外好評で、2人とも数杯飲んだ。

ついに、ストレートになってしまい、もはやそこにいるのは、教師と保護者ではなく、2人のダメな大人とそれを見守る高校生2人だった・・・


「先生、ご職業は?」


「はあ、僕・・・教師やってます」


それはそうだろう。

今日、家庭訪問なのだから。


「小井沼(こいぬま)さんは・・・」


「嫌です、先生、栞(しおり)って呼んでください♪」


「じゃあ、栞(しおり)さん・・・うん、可愛い名前ですね」


「そんなこと初めて言われました!」


「先生、ご趣味は?」


「JK観察です。そのために教師になりました」


「キャー、ダメな人―!『キューン』ってしました!」


「ホントは女子高に勤めようと思っていたんですが、1校も受からずに、しょうがないので今の学校に・・・」


「ダメっぷりが『キュンキュン』します!」


ダメな大人はテーブルについて、届いた酒に手を伸ばす。


「さくらちゃん、1杯だけ注いで!1杯だけでいいから!」


「あ!俺も!俺も!」


「構いませんよ」


「きゃー!さくらちゃんのお酌してくれたお酒が飲めるなんてー!」


栞(しおり)がキャーキャー騒ぐ。


「はあはあ、俺、何か興奮してきたー!」




2人のダメな大人は、単なる飲み会の様相を呈してきていた。

一方、キッチンに戻ってきたさくらとセリカは・・・


「おかえり」


「はい」


「何かされなかったか?」


「はい、大丈夫です」


「それにしても、今日は家庭訪問じゃなかったのか?」


「そうですけど」


「これは噂に聞く『合コン』と言うやつでは!?」


「そうかもしれませんね」


「「・・・」」




■後日談

「鳥屋部(とやべ)!鳥屋部くん!いや、鳥屋部さん!」


教師、佐伯(さえき)が生徒、鳥屋部(とやべ)の後ろから呼び止める。


「昨日の事は、学年主任には、どうか内密に!なにとぞ!なにとぞ!」


両手を合わせて、更に頭を下げている。

教室の近くだったので、廊下を歩く生徒たちは、ぎょっとしていた。


「「「あの、佐伯が、セリカのご機嫌とってる・・・昨日何があったんだろう・・・」」」

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