36_栞さんとお姫様抱っこ
栞(しおり)さんは、ウイスキーを。
俺とさくらはジュースを飲みながら、ちょっとした料理とおかしで『宴』を楽しんでいた。
お酒が入ると、栞(しおり)さんは饒舌で、昔のことを話しまくるので、さくらが前のっめりで食いついた。
俺の小さい時の話とかを聞き出していた。
俺の居心地の悪さよ。
笑って、食べて、飲んで・・・少し大人の気分だった。
栞(しおり)さんは最初のうち、かっこよく飲んでいたのだが、段々ソファから降りて、床に座って、ローテーブルに突っ伏していた。
「さくらちゃん、ご飯上手!」
「ありがとうございます」
「掃除もしてるの?」
「はい。お掃除好きです」
「さくらちゃん、いい子!」
「洗濯は?」
「お洗濯も好きですね」
「さくらちゃん、最高!最 of the 高!」
栞(しおり)さんは、酔うとなんでも褒めてしまう人みたいだ。
見ていて面白い。
「あれ?さくらちゃんのお部屋は?さっき見たけど、なかったわ」
「私はずっとセリカくんと一緒なので、お部屋は不要です」
「じゃあ、寝る時は!?」
「セリカくんと一緒です」
「ちょっと待ってよ!セリカくん、さくらちゃんと一緒に寝てるの!?」
ああ、なんか話がまずい方向に・・・
「そんなの・・・」
ああ、なんて言われるんだ・・・最悪だ・・・
「そんなのズルい!私もさくらちゃんと寝る―!」
栞(しおり)さんがさくらに抱き着いて、頬ずりしている。
なんか、なんか、見てはいけないものを見ているような気になってきた・・・
鼻血出ちゃうかも。
栞(しおり)さんは完全に酔っぱらっていた。
最後は、独り言みたいなことをつぶやくようになってしまった。
「あーあ、今日はセリカくんを堕とそうと思ってたのにぃ・・・」
こう何度も言われると、本気だったのではないかと思い始めてくる。
ちょっと怖いわ。
「わらしなんれ・・・られもみれらい・・・」
もはやなんて言っているのか分からない。
小さい時から面倒を見てくれたり、かっこいい印象の栞(しおり)さんだったが、社会に出るというのは色々大変そうだ。
「彼氏・・・ほしいの・・・甘えさせたいのぉ・・・」
昼過ぎから始まった『宴』は、夕方4時前に栞(しおり)さんが寝落ちするという形で終焉を迎えた。
俺とさくらはジュースなので、眠くなったりはしないのだ。
「セリカくん、栞(しおり)さんをどこか寝かせてあげられないですか?」
「ああ、父さんのベッドなら空いてる」
「運べますか?」
「うーん、どうだろ」
ゆすっても起きないので、ゆっくりとお姫様抱っこして2階に連れて行く。
あああ、やわらかい!
そして、何か良い匂いがする!
小さい時からお姉さんだった栞(しおり)さんなのに、今では俺が抱きかかえられるほどになってしまった。
俺が成長したってことだろうか。
「セリカくん!」
「ひゃ、ひゃい!」
「後で、私もお姫様だっこ、してくださいね!」
なぜそうなる!?
「においと感触の上書きです!」
訳の分からないことを言われてしまった。
さくらが、先に進んで、ドアなどを開けてくれる。
父さんのベッドも布団をめくってくれたので、ゆっくり寝かせることが出来た。
「では、栞(しおり)さんは、高級そうなスーツを着込んでいたので、脱がせてかけておきたいと思いますので、セリカくんはリビングに行っててください」
「あ、はい」
「何か、残念そうですね?ご一緒しますか?」
「いえ、お任せします」
結局、栞(しおり)さんは何だったんだろう?
突然学校に来たりして。
教科書を運ぶために車を出してくれた風じゃかなったし。
じゃあ、俺は車の中の教科書を出したいんだけど・・・開けられるのかな、あれ?
テレビを見ながらのんびりしていたら、さくらが戻ってきた。
両手を前に伸ばして『んっ』と俺の方に向けてきた。
最初は、意味が分からず、『え?』って返事をしていたら、さくらが口を尖らせて言った。
「セリカくん、お姫様抱っこしてください!」
「ええ!?あれ、本気だったの!?」
「もちろんです!でも、『重い』と言ったら怒ります!」
色々注文が多い。
急な来客にも対応してくれたんだ。
お礼の意味も含めて、お姫様だっこさせていただきましたよ。
「きゃあ!きゃあ!きゃわわ!わわわ!」
と訳の分からない歓声をあげていたが、顔は笑っていたので、概ね喜んでくれていたようだ。
すごく柔らかくて、めちゃくちゃいい匂いがするし、最後の方は首に抱き着いてくるので、俺は気が気じゃなかった。
俺はきっと既に、この子がいないとダメになっている気がする。
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