07_美少女とカレー
俺の家のキッチンで見知らぬ(訳ではないはずだが)美少女が料理を作っている。
野菜を洗う音
皮をむく音
野菜を切る音
肉を炒める音
どれも普段の家では聞くことがない音だった。
俺は手伝うと申し出たが、彼女が『大丈夫だから、テレビでも見てて』と言われてキッチンから追い出されてしまった。
作ってもらっている方が、リビングでふんぞり返っているのはいかがなものか。
ただ、料理経験がない俺が出しゃばっても邪魔にしかならないだろうし、ずっと見られると彼女もやりにくいだろうから、おとなしくリビングでテレビを見始めた。
確かに、テレビはついているのだが、内容が全く入ってこない。
なんかいいな。
こういうの。
『新婚』ってこんな感じなのだろうかと、あり得ない想像をして一人楽しむ。
「セリカくん、春休みっていつまでなんですか?」
「春休み? 4月6日だったかな?」
「ふふふ、はっきりしてないんですか?」
ウケてしまった。
新学期が近くなると誰かがメッセしてくれるだろうと思っていた。
「しばらく一緒にいられますね」
何その超魅力的な内容。
きっと、俺は今相当間抜けな顔をしていただろう・・・
「あ、カレー出来ました!」
キッチンを覗きに行ったけど、料理が出来た時点でキッチンはほとんど片付いていた。
ほんとに料理をする人の使い方だ。
ご飯を炊き忘れたみたいなお約束もなく、完璧にカレーが作られていた。
「あ、運ぶのくらい手伝うよ」
「はい、じゃあ、お願いします♪」
やべえ、彼女の声なのか、しゃべり方なのか、なんでもしてあげたくなる魅力がある。
何でも、どこにでも運ぼうかという気になるよ。
俺が2皿のカレーをテーブルに運ぶ間に、彼女は冷蔵庫からサラダを取り出して持ってきた。
しかも、そのサラダが、レタスをちぎっただけではなく、中央にかぼちゃとヨーグルトと何か野菜が和えられている物も載っていて、手際の良さが凄すぎた。
「お待たせしました」
堀園さんもテーブルについた。
「じゃ、じゃあ、食べようか」
「はい」
うわー、笑顔かわいい~。
「いただきます」
「いただきます」
堀園さんがいただきますの時、手を合わせてスプーンを親指と人差し指のところで挟んで『いただきます』って言うのかわいい。
あと、育ちがいいんだろうなぁって伝わる。
さて、肝心の味ですが・・・市販のルーを使えば、カレーをまずく作るのは難しい。
あまり不安はないのだけど、『お約束』って可能性もないことはない。
(ぐ~)カレーの匂いに触発されたのか、お腹が鳴った。
そう言えば、俺は昼食べたっけ?
どうしても、一人だと準備も面倒になって段々食べなくなっていくんだよなぁ。
一口、パクっと・・・
!!!
う、うまい!
市販のルーってこんな感じだっけ!?
うまい!
うまい!!
うまい!!!
気付けは皿の半分は食べていた。
「うまいよ!堀園さん!」
「お口に合ってよかったです。お代わりもありますから」
何?女神なの?
すげえうまい。
「このカレー、何か特別なことしたの?」
「何でですか?」
「いや、すごくおいしい」
「それは良かったです。箱に書いてある通りに作りました」
マジか。
カレールーメーカーの手柄なのか!?
「ごちそうさま」
結局、俺はカレーを3杯も食べた。
もちろん、サラダ込みで。
サラダは、良い具合に口の中が辛くなったのを、ニュートラルに戻す感じの味で、ヨーグルトの酸味が口の中をすっきりさせてくれた。
危うく無限に食べるところだった。
それくらいうまかった。
カレーっていつもうまいけど、こんなにうまいカレーはそうそう出会えるもんじゃない。
こんなの食べたら店で食べられないな・・・
「ミスカレー上手」の称号を贈ろう。
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