あなたは死にました。次の生に向けて準備してください。

三国洋田

第1話 あなたは死にました


「神様!神様ー!!大変ッスよ!」


「何よ。そんなに慌てて、いったいどうしたの?」


「人間が絶滅しそうッス!!」


「な、なんだってーー!?」


「あ、人間だけではありませんでしたー!他の生物たちも絶滅しそうッス!」


「もっとひどくなった!?どうしてそんなことに!?原因は、いったいなんなの!?」


「生まれ変わる予定の魂たちが、生まれるのを拒否しています」


「拒否!?魂って、そんなことができるの!?」


「できるみたいッス」


「生まれ変わらせているシステムに、そんな仕様はないのに!?」


「なぜかできるみたいッス」


「神の作ったシステムに、存在しないことをやってのけたと!?」


「そういうことになるッスね」


「魂って、すごいのね!!」


「とにかく、そのせいで少子化になってしまいました。これは、もう魂のストライキッスよ!」


「魂のストライキ!?なんだか、ちょっとカッコイイわね!!」


「そんなことを言っている場合ではないッスよ!!神様、どうしますか?何か対策はありますか?」


「ええと、そうねぇ、どうしましょうか?」








「というわけです」


「どういうこと!?」



 突然だが、俺は死んだらしい。


 そして、今の俺は魂だけの状態で、役場のような建物の中にいる。


 なぜそんなことが、分かったかというと目の前にいる、白髪でクールな感じの美人の受付嬢に、こう言われたからだ。


「お疲れ様です。あなたは死にました。今のあなたは魂です。この場所の説明は必要ですか?」


 そして、説明を求めたら、なぜか神と天使だという妙なコンビの漫才の映像を見させられた。


 なんでも、あれが事情説明らしい。


 ちなみに、この受付嬢も天使だそうだ。

 背中に羽みたいなものが付いているけど、ちょっと信じられない。



「この映像を見ても、分からなかったのですか?」


「はい、いまいち……」


 突然、死んだと言われて混乱しているところに、アレを見せられてもな。


「やれやれ、理解力の低い人間ですね」


「ハァ!?」


 いきなりあきれられた!?


 さらに暴言まで吐かれた!?


 口が悪いぞ、コイツ!


 もっと言葉を選べよ!


 せっかく美人なのに、これでは台無しだな。


「要するに、あなたのような魂たちが、大人しく生まれなくなってしまったから、対策を立てたといったところです」


「何かを行った覚えはないのだけど……」


 そうだよな?


 あれ?なぜか昔の自分のことが、あまり思い出せないな。


 どうでもいいことは、思い出せるのだが。


「自分自身が、どのような境遇で生まれるのか選べなかったことに不満があるのでしょう?親ガチャだと文句を言っていたのでは?」


「それは、あったような気がするけど……」


 それについては、心当たりがある気がする。


 なんとなくだが、そんなことを言った気がする。


 いや、今、ハッキリと思い出した。


 親ガチャは是正すべきだと、主張したことがある。


「そう思うだけで生まれなくなるのです。そして、そのような魂への対策を用意しました」


「はぁ、それはいったい、どのようなものなんだ?」


「準備期間を用意しました」


「準備期間!?なんだか面白そうだ!どんなものなんだ?」


「その期間中に生まれる準備をしてもらいます。そうすれば生まれの不平等を少しは解消できるでしょう。多分」


「なるほどな」


「まだ何か質問はありますか?」


「全生物が絶滅しそうな状況は改善できているのか?」


「今のところは、できていると言える状況です」


「そうなのか。良かった……」


「まだ何か?」


「いや、もうないよ」


「では、まずは、あなたがどのように生まれるのかを決めます。来世設定ガチャで」


「来世設定ガチャ!?嫌がらせなのか!?親ガチャを嫌っているって、分かっているのだろ!?」


「はい。嫌がらせですよ」


「認めちゃうのかよっ!?」


 神や天使は性格が悪いのかもしれない。

 気を付けた方が良いかもしれないな。


「はい。正直な話、こちらとしては大迷惑ですから」


「うわぁ、とっても素直な天使だなぁー」


 素直なら良いってわけではないがな!


「私は善良で優秀な天使なので、当然です」


「うるせぇよ!」


「それでは始めます。これらの設定を決めます」


 突然、空中にディスプレイが出現した。


 そこにゲームのような派手な演出が映し出される。


 ところで、これって必要あるのか?


 無駄なところに力を入れているなぁ。

 いや、ここは細部までこだわっていると褒めるべきなのか?


 そして、設定項目の書かれた9つの来世設定ガチャが出てくる。


 星、種族、性別、頭脳、身体、外見、親、超能力、制限時間。


 これらを決めるのか。


 って、超能力だと!?


 超能力が使えるようになるのか!?


 これは面白くなってきたぞ!!


「それでは、各項目について説明します。能力の数値は1が最低で、10が最高です」


 星   ……出身地です。

 種族  ……どの種族に生まれるのかです。

 性別  ……雄か雌かです。種族によっては他のものになる場合もあります。

 頭脳  ……頭の良さです。

 身体  ……身体能力の高さです。

 外見  ……外見の良さです。

 親   ……親の能力や財力などです。

 超能力 ……特殊な力です。なしになることもあります。

 制限時間……準備期間の制限時間です。これがなくなったら強制的に生まれます。生前の行動を元に計算されます。累積ありです。


 超能力は必ず手に入るわけではないのか。

 残念だな。


 それにしても、大雑把だな。


 その星の、どこに住んでる親から生まれるのか分からないのか?

 頭の良さや、身体能力の高さって、どのような基準で数値化されているんだ?

 曖昧な項目だらけだ。


 神や天使というのは、大雑把な性格をしているのか?


「それでは、来世設定ガチャを開始します」


 またゲームのような派手な演出が起こる。


 本当に無駄に凝ってるな。


 あ、結果が出たようだ。


 星   ……地球。

 種族  ……ししゃも。

 性別  ……雌。

 頭脳  ……4。

 身体  ……2。

 外見  ……1。

 親   ……10。

 超能力 ……なし。

 制限時間……3秒。


 え?


 な、なんだと……


 ししゃも!?


 魚のアレか!?


 卵がプチプチとした食感で美味しい、あのししゃもなのか!?


 俺、ししゃもになるの!?

 いや、ししゃもをバカにしているとか、見下しているわけじゃないけどさ。


 急に、ししゃもになれと言われると戸惑ってしまうぞ。


「このようになりました」


「ちょっと!?なんだよ、これは!?」


「来世のあなたです。そう説明したはずですよ。理解できなかったのですか?理解力が低いですね」


「いちいち暴言を吐くなって!って、そうじゃなくて、他にもいろいろとツッコミどころがあるけど、とりあえず、制限時間が短過ぎるでしょ!?」


「生前の行動を元に計算されますから、あなたの方に問題があるということです。自分のことなのだから、分かるでしょう?それとも、やはり頭が……」


「だから暴言をやめろって!!いや、それはどうでもいいけど、それにしても短過ぎないか?3秒しかないんだぞ?」


「これでは仕方ないのでは?」


「あの、俺、なんで死んだのか、よく覚えてないのだけど、それどころか生前のことが、あまり思い出せないのだけど」


「ああ、なるほど、おそらく頭部を激しく損傷したせいでしょう」


「ええっ!?」


 頭部を激しく損傷!?


 何をやったんだ、俺!?


「仕方ありませんね。生前の資料をどうぞ。ついでに生前の評価もどうぞ」


 そんなものがあるのか。


 こういうところは神とか天使っぽいな。


 せっかくだし、読んでみようか。


 名前は、野賀地やがち 正也せいや

 地球出身、日本国の会社員、独身。


 そうだったのか。

 このあたりは、まったく思い出せないな。


 他には、家庭環境とか趣味とか、いろいろと書いてある。

 このあたりも、まったく思い出せない。


 死因は頭部外傷。

 やはり頭をやられたのか。


 次は、制限時間算定基準?

 ああ、これで制限時間が決まるのか。


 ええと、目立った善行、悪行はなし。

 死亡前夜に夜更かしをして、寝不足になり、歩行中に不注意で転倒。

 頭部を激しく打ち付けて死亡。


 死因が自業自得なうえに、周囲に迷惑をかけたことにより評価は大幅に下がる。


 そ、そんな!?


 寝不足でこけて、頭をぶつけて死亡!?


 これが俺の死んだ時の状況なの?


 何やってんだよ、俺!?

 しっかりしろよ、俺!?

 マヌケ過ぎるよ、俺!?


 あまりにも恥ずかしくて、もう生きていけない!!

 って、もう死んでいたんだった。


 ああ、なんてくだらないことを考えているんだ、俺!!


「思い出しましたか?」


「いいえ。思い出したくもありません」


「まあ、どうでもいいでしょう。どうせ死んでますし」


「もっと言い方ってもんがあるだろっ!?」


 いちいち腹立つ言い方だな。

 ショックを受けているのだから、少しは気を遣ってくれても良いだろ!!


「他に質問はありますか?」


「これから何をすれば良いんだ!?」


「3秒では聞くだけ無駄かと」


「ひど過ぎるっ!?」


 確かにそうだけど、もっと他に言い方あるだろ!

 結局、準備期間があっても、何もできないのかよ!?


 ひどいだろ!?

 意味ないだろ!?


「なんとか制限時間を延長できないのか?」


「3秒では聞くだけ無駄かと」


「ひど過ぎるって!?」


 あ、そういえば、制限時間に累積があるって、書いてあったような……


「では、開始します。生まれたい時は、『神様、もう生まれることにします』と心の中で唱えてください。声に出しても良いですよ。それでは、カウントダウンを開始します。3、2……」


 よし、こうなったら、すぐに生まれよう。


 たった3秒でも、次のために残しておこう。


「神様、もう生まれることにします」


 体が宙に浮くような感覚とともに、俺の意識は途絶えた。



 ここはどこだ?


 周囲に魚がたくさんいる。


 そうだ、思い出した。


 どうやら俺は、ししゃもとして生まれたようだ。


 あれ?

 記憶があるのか?


 さっきまでのことが、すべて思い出せる。


 生まれ変わっても、記憶を受け継ぐようになったのか?

 これはありがたいな。


 さて、せっかく魚になったのだから泳いでみようか。


 おお!

 これはすごい!!


 ものすごい速さで泳げるぞ!

 これは楽しいな!!


 ん?

 これはなんだ?

 急に周囲の景色が変わった!?


 え?

 これって、まさか……


 俺の意識は、そこで途絶えた。

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