11話:「幼女(?)マーリン」
確認事項を確認し終えた大和は、颯爽と町に繰り出した。時刻はまだ朝早くということもあり人通りは少なかったが、自分の家の前を掃除する人や身支度を整え、仕事場に行く人の姿はちらほら見かけた。
向こうの世界にいたときは、海外旅行はおろか国内旅行すらしたことがなかった大和にとって、この【ラマル】という異世界にやってきてからは、初めての海外での観光をしているような気分だった。
「うわー」とか「へえー」という感嘆の声を上げながら、ジェスタの町を散策する大和だったが、突然腰の辺りに何かがぶつかった衝撃が走った。
「うわ! なんだ? 何かぶつかったのか??」
振り返って見るが、そこには誰もいなかった。さっきの衝撃の正体が何かわからずに不思議に思っていたが、その原因となった人物が声を上げたことで、大和は理解した。
「いったぁーい、ですの……」
「うん? なんだ?」
甘ったるい高い声がしたので視線を下に向けると、そこには一人の少女が尻もちをついた状態で顔を歪めていた。
どうやら先ほどの衝撃の正体は、彼女がぶつかってきたことによるものだったようだ。
彼女を一目見た感想は、グリーンという言葉が頭に浮かんだ。というのも、彼女の着ていた服のほどんどが緑、正確には明るい黄緑で統一されていたためだ。ライトグリーンという表現でもいいのかもしれない。
何よりも特徴的だったのが、スカートの中の下着も横に緑と白ラインが交互に入ったいわゆる縞パンだったということだ。
よく見ると、その身なりは魔法使いや高位の魔導師が身に着けている魔力が籠った服のようだ。お決まりのとんがり帽子も雰囲気が出ている。
全身をエメラルド一色で統一した服は、気品と女性服特有の可愛らしさが漂っていた。
「だっ、大丈夫かい? お嬢ちゃん??」
なぜ大和が【お嬢ちゃん】という呼称で彼女を呼んだのか、それは彼女の見た目があまりにも幼く見えたためだ。
年は12から14歳といったころだろうか、小学生と言われてもおかしくないほど彼女の容姿は幼かった。
だがしかし、見た目の幼さ故だろうか顔のパーツ自体は整っており、リナとはまた別の魅力を感じさせる雰囲気を持つ女の子で、まだまだ発展途上だが胸の膨らみは確かなものがあった。
「だっ、大丈夫ですの、ちょっとぶつかっただけですの」
「そっか、ちゃんと前見て歩かなきゃだめだよ? じゃないと人とかにぶつかって危ないからね」
「ごっ、ごめんなさいですの……」
自分が叱られていると思ったのかしゅんとなる彼女。その態度に胸がきゅんとする大和、それをごまかすように質問をした。
怒っていないことをわかってもらうために、彼女に手を差し出しゆっくりと彼女の体を起こしながら、そしてできるだけやさしい口調で彼女に問いかける。
「なんで、そんなに急いでいたのかな?」
「あっ、実はこの先にあるお店で働いてて開店準備をするところですの。今日は少し寝坊したので、急いでたんですの」
と彼女が指さす方をみると確かにお店があり、その店先に何かの液体が入ったフラスコがモチーフの看板が掛けられていた。
RPGでいうところの雑貨屋あるいは道具屋だろうか、どんなアイテムがあるのか気になった大和は、このお店に行ってみることにした。
「こっちですの」
案内され入ったお店は木製できた雑貨棚に所狭しと、いろいろな雑貨や大小さまざまな瓶に入れられている薬などが陳列され、まさに道具屋と呼べるべきものがそこにはあった。
「開店の準備をしますので、ちょっと待っててほしいですの」
「うん、わかったよ」
そう言って、彼女は自分の体格に似合わない少し大きめのとんがり帽子を帽子掛けに掛けると、何かの羊皮紙の整理を始めた。
帽子で分からなかったのだが、彼女の髪の色もまた緑であった。その緑に対するこだわりは、某大物おしどり芸人夫婦を思わせるものだった。
髪型はおかっぱに近い感じで、大人の女性がこの髪形をするとどうかなとは思うが、彼女がこの髪形であることになんの違和感もなく、言わば彼女専用の髪型なのではと錯覚するほどその髪型はとても彼女に良く似合っていた。
そういう風に考えていると、まだ彼女の名前を聞いていなかったので、自己紹介をすることにした。
「そうだ、自己紹介がまだだったね。俺は小橋大和。よろしくね。君はなんて名前なんだい?」
「マーリン。アングラーズ・マーリンですの」
「マーリンか、いい名前だね」
「ありがとうですのん♪」
と言って、ニコっと太陽のような笑顔を向けてくるマーリン。その顔が妙に照れ臭くて、咄嗟に視線を上に逸らしてしまう。
ここでふと疑問に思ったことがあり、マーリンに質問を投げかける。
「そういえばここのお店って他に人はいるの? まさかマーリンちゃん一人でやってるわけじゃないよね??」
「そうですの、マーリン一人でやってますのん」
「ええっ、だってマーリンちゃんまだ子供じゃないか」
という言葉を聞いた直後、彼女が眉を吊り上げ答える。
「ヤマトさん、なにか勘違いしてますの。マーリンはこう見えて、300年以上生きている魔女ですのん」
「ええ! さっ、さんびゃ……ええ!!」
まさに耳を疑うとはこのことだった。目の前にはどう見ても小学生にしか見えない幼女だ。だが、彼女自身の口から語れた年齢は、300歳を超えているというものだった。
「まっ、まさかそんな……だってどう見たって俺よりも年下じゃないか!」
「マーリンの一族は、ある一定の年月を生きるとそれ以上老けることはないですの」
確かに小説や漫画・アニメの世界では、見た目と実年齢が違うキャラクターは存在するが、実際目の前でその実例が出てきてしまうと、どうリアクションしていいかわからなくなってしまう。
そう思っていると、マーリンがその空気を読んだのか、おどけた態度で大和に話しかけた。
「欲を言えばもっと年を取りたかったですの。特にここがもう少し大きくなって欲しかったですの」
そう言いながら、マーリンは自分の胸をポンポンと叩く。そこには二つの小さな膨らみがあり、彼女の見た目とよく合った大きさであった。
「でもマーリンちゃん可愛いし、胸なんてなくても十分魅力的じゃないかな?」
「なななななに言ってまままますのん」
その言葉を聞いたマーリンが顔を真っ赤にし、上目遣いで見つめてくる。
「そっ、そんなことないですのん。男の人は、みんなマーリンを子ども扱いするですのん。それは、やっぱりマーリンの見た目が子供だからですのん。実際ヤマトさんもマーリンの年齢を聞く前に子ども扱いしてたですのん」
「確かに最初はそうだったかもしれない。でも会ってまだ短いけど、マーリンちゃんの魅力はそういうものじゃなくて、もっと別のところにあるんじゃないかな?」
「例えばどういうところですのん?」
「笑った顔」
「えっ?」
「笑った時のマーリンちゃんの顔が太陽みたいにキラキラしてて……ああ、なんかこう守ってあげたいなすごくかわいいなって思ってさ」
「!?」
そう大和が告げると、マーリンは目を大きく見開いた後、今までにないくらいに顔を真っ赤にする。
「だからマーリンちゃんの魅力に気付いてくれる男がきっといるはずだから、そんなに悲観することないんじゃないかな?」
「ヤマトさん……」
そう言って、マーリンは潤んだ瞳で大和を見つめる。その眼差しは彼女の見た目とは裏腹に、妖艶に満ちた雰囲気を漂わせ、一瞬彼女が大人の女性特有の色気が垣間見えるほどだった。
「……」
「……」
その後、数秒間大和とマーリンの視線が重なり、二人の思いも重なろうという刹那。“バタン”という音が店の中に響き渡り、二人を現実の世界へと引き戻した。
そして、何事かと店の入り口に目をやると、そこには見覚えのある女性がそこにいた。
「はあ、はあ、はあ……」
肩で呼吸をしながら、膝に手をつき俯く女性。どうやらここまで走ってきたようだ。その顔を視認した大和は、その女性に呼びかける。
「おお、リナじゃないか。どうした? 何かあったのか??」
膝に手を付いたまま、顔だけこちらに向けるリナ。そして、呼吸が整ってきたのだろう彼女が口を開く。
「やっ、やっと見つけたあああああ!!」
そう叫びながら、大和に向かって飛び掛かってくるリナ。果たして大和の運命や如何に?
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