10話:「確認すべき大切なこと」
リナが部屋を後にしてすぐに、大和は今の自分の状況を確認すため、いろいろと試すことにした。
まず彼が疑問に思ったこと。それは“自分がこの世界でどれくらいの強さなのか?”ということで、これは至極当然の疑問だ。
自分の強さが、タワー・ファイナルにいたときとどう変化しているのか、はたまたそのままなのだろうかそれが今わからないため、次のステップに行くためにもこの世界での自分の強さを確認する必要があった。
「とりあえず、ゲームの時と同じでメニュー画面を開いてみるか」
そう言って、大和はタワー・ファイナルと同じようにメニュー画面を開くため、空中で指をポンと叩く動作を行った。
すると、ピッというゲームの時と同じ効果音でメニュー画面が現れた。
「おっ、出ないかと思ったけど出たな。どれどれ、今の俺のステータスは……っと」
開いたメニュー画面のステータスの項目をチェックする。
ちなみにタワー・ファイナルのゲームシステムについて少し説明すると、大和がプレイしていたこのタワー・ファイナルの最高レベルは255で、HPとMPが上限99999、他には攻撃・防御・素早さ・魔力・技力といった項目があり、この5つのステータスの上限は999である。
つまりは、このゲームの最大ステータスは。
レベル255
HP99999
MP99999
攻撃力999
防御力999
素早さ999
魔力999
技力999
ということになっている。
5つのステータスに関しては、攻撃力は物理攻撃で与えるダメージ量。防御力は、物理攻撃に対する耐久力。素早さは、敵より早く動けるかどうか。魔力は、魔法攻撃と魔法防御、強化効果&弱化効果の魔法に対する持続力と抵抗力。技力は、スキル使用時のダメージ量と回復量といったような感じだ。
当然この5つのステータスが高ければ高いほど、強いということになる。さらに、これとは別に職業またはジョブと呼ばれる役職があり、初心者がゲームを始める際に基本職となる7つの職業から職を選びゲームを開始する。
職業には、クラスが存在しそれぞれ初級職・上級職・最高職が存在する。クラスを上げるには特定の条件を満たし、特定のアイテムを集める必要がある。それを踏まえた上で、大和の現在のステータスは以下のように表示された。
職業:パラディン(最高職)
レベル255
HP75346
MP55933
攻撃力867
防御力790
素早さ680
魔力754
技力710
「ふーん、ゲームにいたときと変わらないな。よく異世界物のアニメとかで、主人公はチートレベルの強さだけど、このステータスは強いのかな?」
大和の現在の能力はこうなっており、この世界において今の彼の強さを一言で表現するなら“化け物”である。
特質すべきは彼の持つ職業【パラディン】である。このパラディンという職業は、強い肉体能力と高い魔力を兼ね備えた職業で、いわゆる魔法が使える剣士または剣が使える魔導士という位置付けになっている。
しかもこのパラディンになるための条件は厳しく、タワー・ファイナルのプレイヤーの数は数十万人と言われているが、この職に就いているのは大和を含めても10人いるかどうかというレベルのものだ。
異世界物のアニメのように、例に違わず大和の能力もまたチートレベルのようだが、本人はまだこの世界で戦っていないため、このステータスが強いのかどうか理解していなかった。
この時点で、自分強さを理解していればあのような出来事に巻き込まれずに済んだかもしれないということを今の彼は知る由もないだろう……。
「あーあ、ステータスまだまだカンストできてないなあ」
先ほども説明したが、ステータスの上限は99999と999なのだ。ではなぜ大和はレベルMAXなのにもかかわらずカンストになっていないのか、それはゲーム制作者の目論見である。
ゲーマーにとってステータスをすべてカンストにするというのは、やり込み要素の一つである。
このタワー・ファイナルというゲームは、ある特定のクエストに出現するモンスターを狩ることによって、プレイヤーの能力の最大値をアップさせるアイテムがドロップする仕組みになっている。
大和がこの世界に来る前に戦っていた【幻獣ヴァルボロス】が、その最大値をアップさせるアイテムをドロップするのだ。
それ故に、能力値上昇アイテムをドロップさせるモンスターが出てくるクエストは、中位・上位プレイヤーにとって人気クエストの一つになっている。
「このゲームを始めて4年だけど、まだカンストしないとかどんだけ長い間やればカンストするんだ?」
苦笑いを浮かべながら、自分のステータス画面を見つめる大和。
「ランキング1位の【ぷるぷる饅頭】さんですら、カンストしてるのはHPと素早さだけだって言ってたしな……」
と呟きながら、ぷるぷる饅頭さんとクエストを受けたときを思い出し、懐かしい思い出に顔を綻ばせる。
「さてと、ステータスは確認できたけど、アイテムとかはどうなってるんだ?」
次に確認するべきなのは、現在の所持品のチェックだ。消費アイテムや貴重なレアアイテム、あるいは装備品や所持金等々、今後の生活に必要なものがあるのかどうか確認しなければならない。
大和はステータスの項目から所持品の項目に切り替え、現在所持しているアイテムを確認した。すると、幸いなことに所持品もすべてゲームをプレイしていた時と変わらず所持しているようだった。
「タワー・ファイナルのお金がこの世界でも使えるといいんだけどな……。これは後で町の人に聞いてみよう、うん」
とりあえず確認する内容を一通り確認し終わると、メニュー画面を閉じ、朝寝ていたベッドに腰を下ろして天井を見上げた。
「はあー、これからどうすればいいんだろうか? 元の世界には家族もいるし、できれば戻りたいんだけどな。こういうのって、パターン的には魔王を倒すまで帰れませんみたいなノリなんだろうな。神様とか女神様とかが出てきてさ“この世界を救えるのはあなたしかいません”みたいな調子のいいこと言ってさ……でも、俺の場合何の説明もなしだもんな
普通の人ならパニックになるぞ」
と呟きながら、今一度大きなため息を付く大和。
「そんな泣き言を言ってる暇があったら、できるだけ情報を集めるべきだな……」
と言いながら、何かを思い出しだようにもう一度メニュー画面を開く大和。
「そうだ、装備のクイック登録ってどうなってんだろ?」
クイック登録というのは、クエストごとによって有利になる装備を素早く交換できるようにあらかじめ登録しておいた装備を選択することにより、素早く装備を変えることができる便利機能である。わかりやすく言えば、お気に入りというやつだ。
装備品の項目を選択し、そこにクイック登録という項目を確認した大和は、安堵の表情を浮かべる。
「あったあった、これ便利なんだよな。初期の頃はなかったけど、タワー・ファイナルを始めてからちょうど一年経ったときの大型アップデートで実装されたんだよな。えっと、とりあえずいつも使ってるこれとこれとこれとこれで登録しておくか」
そう言いながら、大和はとある装備をクイック登録しておく。これでいきなり戦闘が始まっても、この装備ですぐに戦えるようになった。
「オッケー、これで問題はない」
クイック登録を終えた大和は、先ほどリナと二人で食事をしていたテーブルに視線を向け、残された食器類を眺める。
「そう言えば、片づけを頼まれてたんだっけ? よし、やるか」
膝をぽんと一つ叩き、立ち上がる大和。そして、リナが朝食を持て来たトレイに食器を乗せていく。
「確か、隣の部屋に運べばよかったんだよな?」
そう言いつつ、リナが朝食を作るために入っていった部屋のドアを開ける。そこには、やはり食事を作るための台所があった。
入って正面には食器を入れるための棚があり、右側には加熱するためのかまどが設置されていた。左側の壁には加熱するための鍋やフライパンといった調理器具が立て掛けてあり、一般的なヨーロッパの台所という印象を受けた。
「あれ? シンクとかはないのかな?」
食器を洗うための場所がないことに疑問を持った大和だったが、とある場所を見つけたことでその疑問は解決する。
「ああ、ここで食器を洗うのか」
そこは木製のタライの中に水が張られており、その中には使った食器が沈められていた。おそらく水につけておいて汚れを浮かしておき、洗いやすくするためだろう。
「じゃあ、ここに入れておけばいいか」
大和は使い終わった食器をタライに移し、トレイを食器棚の下にある食材を加工するスペースに立てかけておいた。
「これでいいかな?」
一仕事したと、満足そうに頷く大和。
「さて、リナの頼みも済んだし、町に出て情報収集と行きますか」
そう言って、自分の今の装備している装備を見ると、革のズボンに布の服というタワー・ファイナルを始めて最初にもらえる初期装備だということに気付いた。
「うーん……せっかくだから着替えるか」
そう呟きながらメニュー画面から装備を選択し、とある装備に着替えた。その姿は、まさに剣と魔法を使う魔法剣士にふさわしい格好で、軽装ながらも魔法耐性が付与され、なおかつ防御力もそこそこという装備だった。
上から順番に装備名を上げると。
頭:ソーサラーピアス
体:ソーサラーマント
腕:騎士の軽小手
腰:騎士のズボン
足:軽足の靴
という感じで装備を選択した。ちなみに、ソーサラーという名前で装備を統一もできるが、○○シリーズで統一してもステータス補正がかかるというものはない。
ただ大和が機能面とファッション面を両方重視した結果、このような装備のチョイスになっただけである。
「よし、これも一応クイック登録しておくか。町で歩くときによく着そうだしな」
そう言いながらクイック登録に今の装備を登録する大和。そして、最後にはやはりというべきか武器を選択する。
「やっぱこれかな? 魔剣士の剣!」
特に攻撃力が高い武器ではないが、名前がカッコいいという安直な理由から選んだようだ。魔剣士の剣を腰に装着し、装備が整った大和は、ふうと息を吐き出す。
「では、出発進行!!」
そう呟くと、町へとつながるドアに手をかけ外に出る大和。そして、バタンとドアを閉じ、リナから借りた鍵でドアを施錠し、町へと繰り出した。このあとやってくる出来事など知る由もなく……。
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