第13話

 我に返って、前を向くと、またもや大きな建物があった。


 柵で囲まれていて、入れない。


 隣には、『薬局』と書かれた建物が。


 …ということは、あの大きな建物は病院?


 病院とも限らないが、そんな気がした。


 不思議と安心感があった。


 ここにいれば、何からでも守ってくれそうな…


「…あれ?」


 足元に一枚の写真を見つけた。


 眼鏡をかけた茶髪の女性…私の家にあった写真と同じ人だ。


 女性と私が写っていて、カフェのコーヒーを飲んでいる。


 ―私、コーヒー好きなのよ。特に、カプチーノね。加奈ちゃんは?


 ―カフェラテが…好きです。


 ―へぇ~、カフェラテね。今度、飲んでみようかしら?


 写真から話し声がする。


 私は確かこの人を「先生」と呼んでいた。


「…ウ…ア…」


 …またうめき声がした。


 どうして、あの化け物は私の位置がこんなにも明確に分かるのだろうか…


 視界の端に赤い何かが見える。


 私は、泣きそうになりながら、薬局の横を通り、病院らしき建物の裏に回った。


「ア…ウ…ウ…」


 まだうめき声がする。


 でも、周りに化け物はいない。


 きっと、この近くをうろついているんだろう。


 …でも、これじゃ、ここから動けない。


「…ア…」


 うめき声が近くに着たり、遠くに行ったりする。


 すごく不安になる。


 逃げ道は無い。


 今度こそ、見つかったら終わりかもしれない。


 急にヒリヒリしていた部分がズキンッと痛む。


 私は、きゅうっと丸くなった。


 怖い。疲れた。


「もう…助けて…」


 声になったかすらも分からなかった。


 …そんな時だった。


「…いたっ!」

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