時間
紗音。
一日目
朝四時、目覚ましが鳴る。
目覚ましが鳴ったとともに急いでタイマーを止める。そろそろ冬が来ると言わんばかりに肌寒い朝に、上着を片手に布団からそっと出て部屋を出る。
台所に辿り着いたら、顔を洗い眠気を覚ます。そこからは大忙しだ。夫が起きる前に朝食の準備とお弁当作りを始める。夫は和食系の朝食が好みなので、窓を開けて換気をしながら魚を焼く。魚の横で味噌汁を作り始める。
次に
朝七時、義息の部屋に行き、起きるように声をかける。その間に、夫はスーツに着替えて朝食を食べるのだ。夫がご飯を食べているのを確認したら、私はベットに横たわる姑を起こしに行き、トイレへ連れていく。姑がトイレにいる間に、夫は家を出て会社へ向かうのだ。トイレが終われば姑は朝食を食べに向かうので、リビングへ姑を支えながら連れていく。
「今日の味噌汁はしょっぱいわね、早く死ねってことかしら??」
「すみません、少しお湯を足しますね」
姑は毎日、違うことを言う。薄ければひもじい思いをさせるつもりかと怒り、濃ければ殺す気かと文句を言う。この前は炊き立てのご飯が熱くて食べれないと言い、ご飯を冷凍庫に三分間入れるよう言われたのだ。
「どうしてこう何もかもどんくさいのかしらね……こんな嫁をもらって、あの子も不幸よね」
いつもの決まり文句を言って、姑は上機嫌にリビングを後にした。朝ごはんの後、部屋に戻る間は私に触られるのが嫌なのだそうだ。
朝八時、ドタバタと階段を降りる音が鳴り響く。
「おい、ばばぁ!!なんで起こさないんだよ!!」
どうやら義息は寝坊したようだ。頭はボサボサで、制服は乱雑に着られている。
「お弁当、ここにあるから。朝ごはんは食べれそう⁇」
「うるっせーな!!時間ないんだから食えるわけないだろ!!」
リビングを走り回りながら、学校へ行く準備をする義息の後ろをきゃっきゃっと楽しそうに付いていく子犬がいた。
「あーもぅ、今時間無いから邪魔っ!!ばばぁ!!」
義息は子犬を軽く足で蹴飛ばすと、そそくさと学校へ向かっていた。子犬は悲しそうな声を上げるが、私がご飯の準備をするとすぐに振り向き、ご飯を食べ始めた。
この子犬は義息が飼いたいと言って夫が買ったのだ。しかし、世話はおろか可愛がるのも一週間あったかどうかで、後の世話はすべて私に丸投げしたのだ。
だからと言ってこの子犬は私に懐くことはなく、触ろうとすれば吠えて嚙みつくこともある。おかげで買ってから一度もお風呂に入っていない子犬はとても汚いのだ。
朝九時、姑に付き添いながら玄関へ向かう。デイサービスのお迎えが来る時間なのだ。他人の前では、とても優しく気遣い屋を演じるのだ。そして、私についてあることないこと話をしたようで、お迎えに来たデイサービスの人は冷ややかな目で私を見る。
昼十二時、家の電話から娘の携帯に連絡をする。授業が終わり、お昼休みになって娘から折り返しの電話が来るのを待つのだ。
「
「うん……時間がある時に着替えだけしてるから大丈夫」
娘は高校生になった当初、朝帰りをするようになってしまった。今では家に帰ってくることの方が珍しくなっていた。
「風邪、引かないようにね??お母さん、早苗のことが心配だから少しでもいいから顔を見せに帰ってきてね」
夕方四時、姑がデイサービスから帰宅と同じくらいに義息も学校から帰宅する。ゴミや汚したタオルなどを玄関に置いていくので、拾って洗濯籠に入れる。
掃除や洗濯は一通り終わっているので、後は夕食の準備をすれば今日の一日が終わる。
義息は朝のことがあり、私を無視して部屋に籠ったので、今日の夕食は食べないようだ。夫が多めに渡しているお小遣いがあるので、コンビニで夜食でも買ってくるのだろう。
姑と夫の夕食は肉じゃがとひじきの煮物、炊き込みご飯に赤味噌の味噌汁だ。姑と夫は一日に同じものは食べないのだ。残り物なんてもっての外だ。そのため、作り置きができないので、毎日の献立を考えるのが大変なのだ。だが、朝と違って夜は時間が優雅に感じるのだ。
子犬も夕食の時間帯がわかるのか、私が準備するより前にお皿の前でご飯が来るのを、今か今かと待っているのだ。
夜九時、夫が帰宅してご飯を食べてお風呂に入る。お風呂に入っている間に、片づけと明日の献立を決めるのだ。夫がお風呂から出たら、急いでお風呂に入る。十時以降はシャワーの音がうるさいと姑に言われたので、時間になる前に入らないといけないのだ。
夜十時、寝室に入り目覚ましをセットする。明日も朝は寒いだろうから、上着はすぐそばに置いておくのだ。
いつもなら私が部屋に入る時点で夫は寝ているのだが、今日は珍しく起きていた。
「なぁ、話があるんだ」
いつも私の存在を空気か何かのように無視している旦那が珍しく声をかけてきたのだ。
「何かあったの⁇」
姑と同居を始めてから、旦那は私と話をするのを避けるようになった。同居した当初は慣れない介助に愚痴を言ってしまっていたせいかと思っていたが、いつの間にか私を視界にも入れなくなっていたのだ。
「離婚したいんだ」
「えっ……」
なんとなくもう駄目なんだと思っていた。だが、それでも歪ながら夫婦として、家族としてやっているのだから、その決断をしてほしくはなかった。
「……少し、考える時間が欲しいわ」
「……彼女が妊娠したんだ」
すっと血の気が引くような気がした。
「まさか……あの女とまだ続いていたの……⁇」
夫は小さく頷いた。
義息の生みの親である浮気相手のあの女……あの時、別れるから今まで通り一緒に暮らそうとお願いしたことは嘘だったのか。
義母の体調が
身体のどこだかわからないが、ぷちっと何かが途切れた音がした――
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