差別的差別

エリー.ファー

差別的差別

 その日は雨が降っていた。

 多くの民族が集まっており、その中から長をきめる予定だった。

 会議は難航した。

 それもそのはずだ。決まれば一生が約束されるし、その一族も安泰。さらには、その民族までもが称えられる。

 誰もがなりたいのだ。

 どんな手を使ったとしても、である。

 まず、参加者は総勢千十八人。

 そのうち、五百人ほどが会場に辿りつく前に殺された。何者か、ということにはなっている。この会議が行われる時に発生する殺人については深く追求しないというのが決まりである。

 これもまた、人間の意思である。大いなる神からの啓示なのだ。

 人は死に、人は生きる。それが会議の始まる前に起きた。ただ、それだけだと。

 そう、無理やり納得する。

 そんなわけもない。

 会議が始まる前夜。宴がある。

 ここで、また二百人ほど殺される。

 会議が始まる前に残ったのは、三百二人だった。

 皆、血まみれだが笑顔だった。

 とても高潔な儀式なのである。長が決まれば、それから先の生贄をどの民族から出すべきかを一々悩まなくも済むのだ。面倒ないざこざ。すべてが解消される。

 場合によっては、長にすべてを押し付けてもいいのだ。逃げられるような立場ではない。いずれ、自分の身にもふりかかることなのだと認識してもらわなければ、長を名乗る資格などあってないようなものである。

 民族の中には、ヘラズというものがいる。

 このヘラズは、戦闘のみを生業にしている。

 狂っているのだ。

 戦ってこそ、人間であると。民族であると。臓物が飛び出て、肉が引きちぎれ、骨が折れ、泣き、叫び声がこだまする。そうなってこその誇りであると信じている。

 彼らは特殊過ぎて、たいていが民族の中でもつまはじきにあっている。

 しかし、この会議の時はとても大切に扱われるのだ。

 当然だ。

 殺し合いにはうってつけの人材。誰かが死んでこそようやく価値が生まれる命の使い方。

 民族は歌う。民族は殺し合う。民族は歓喜する。民族は憂う。

 このままでいいのかと。

 いいわけがないのだ。

 しかし。

 それを繰り返して今日に至ってしまった。やめるならもっと早く、未来でやめる予定なら今日が一番早い日だ。間違いない。戦うべきなのだ。

 民族同士ではなく、民族を縛る文化から。

 外の世界の人間が、驚き、興味を持ってくれるから維持しようなどという程度の低い文化など必要ないのだ。時代によって変化するものを、無理にとどめておく必要もないのだ。

 皆、分かっているのだ。

 アルデゥルランデボスの神々がいて、災いがふりかかるであろう。

 そんなわけないのだ。

 そんな神は存在しないし、いたとして、災いは全く無関係だ。

 学問が、教育が、文明が、発展が、すべてを証明した。

 今更、何が良くて何が悪いのかなど考えるのも馬鹿らしい。運が悪かった、ということに理由付けを求める進歩のないバカと、必死に説明しようとする大切な寿命を無駄に消費することだけに長けたお喋りたち。

 消えてなくなってしまえばいいのだ。

 何も中身などないのだから。

 それで飯が食えるか。

 ゆっくり餓死をしているというのが、今の状況ではないか。

 作り出すのだ。

 神を。言葉を。貨幣を。宗教を。

 いや。

 その頂点に、もう立っているということか。

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