Episode 02:ダイヤモンド・ダスト
あの時は本当について行きたいと思った。だからいつもアキ兄の真似をしていた。それだけで強くなれたと思い込んでいた。
⋯⋯だから助けてくれよ。俺じゃなくてあんたの娘を。前を向いていたアキ兄が不意に振り返った。
「ちげぇよ。杏璃を背負った気でいるなら瑛士、お前が一歩踏み出せ。」
アキ兄が特攻服をとると俺の肩にかけた。
「お前に全部預ける。なんとか使いこなせ。俺がこれまでお前に教えて来たことを踏まえればできるはずだ。じゃあ、俺行くわ。」
いや、ちょっと待ってくれよ。アキ兄が自分で責任を持ってやらんのかい?乗りかかった船から降りるとか、らしくなさすぎる。
アキ兄の表情が少し険しくなって俺はそれだけでちょっとビビる。
「悪りぃ。俺は死んだことになってるからさ、⋯⋯いや、身体の方は死んでんのか。頼める相手がお前しかいなんだ。それにあまり時間が残ってねーんだよ。でも背負うと決めたのはお前の意志なのは間違いないだろ?なら
それにだ。思ったより様になってんぞ、
俺はそこで息を吹き返した。いや、現実に引き戻されたという感じか。しかし、どんだけ損したんだよこいつら。
先程まで俺を
「この野郎、恐怖で行き過ぎて壊れたか。」
俺を蹴上げる足にも力が入る。
その時だった。金属製の鈍器で床を打つような物音がして、俺を蹴っていた男が驚いて跳ぶように
「こいつ魔法が使えるぞ!」
俺を囲んでた連中がざわめく。さー、俺も先ほど覚醒したばかりですので使いこなせるかどうか。所詮はアキ兄に預けられた「借り物」の力。
あの「賢者の石」とやらが関係しているのだろう。アキ兄は生きているのか死んでいるのか?俺に力を預けた目的⋯⋯気になることは山ほどあるが、まずはここを脱出し、杏璃の安全を確保するのが先だ。
体格のがっちりとした男が出てきた。いかにも強そうだ。彼は上半身裸になると強化系魔法を使う。上半身がみるみるうち筋骨隆々となる。うへぇ、捕まったら色々大変そう。いや、もう俺を捕まえる気マンマンだし。
「小僧、お前の魔法は?」
相手が尋ねる。俺は身体から突き出たブレードをつかむとそれは棒状になる。どうしても相手とは距離を取りたい俺。
「名前は知ってるけど言いたくない。」
身体は中2(14歳)だけど中身は若造ながらそこそこ大人だ。彼は低い姿勢から俺に向かって一直線にダッシュ。俺は頭部目がけて棍棒を振り下ろすも、身体をぶつけられた衝撃で後ろへ飛ばされる。
ああ⋯⋯踏んだ場数が全く違う。やすやすと俺を後ろから羽交締めにした男は
「名前と術式は名乗るのがマナーだぞ。」
と余裕の表情。
「では、お先にどうぞ。」
俺が苦しげに言うと
「俺は
と締め上げてくる。関節でも折るつもりなのか。いや、技かけながら名乗るのもマナー違反じゃね?
しかし、彼がいくら力んでも一向に俺の腕は折れない。でも痛いんだよね。ダメージないけど痛い。俺の苦悶の声と北村氏の力む声が響き渡る。
絞め技が効かないのがわかると今度はコンクリートで固められた床に俺を叩きつける。痛い!これは痛い!でもダメージは軽度。
先程の絞め技で息を荒くする北村氏に俺は名乗る。
「俺は飛鳥井瑛士。術式は⋯⋯。」
「聞こえねぇぞ。」
「ダ、ダイヤモンド・ダスト⋯⋯です。」
周りが一斉に笑いを噴く。
「ちゅ、中2かよ!」
俺が締められてまだ痛むみぎを上げると、特攻服が現れる。俺はそれをまとう。
「炭素を操る能力か。そんな力、この街で使えるのか?」
北村氏が再び構えを取る。
炭素は結晶させればダイヤモンド並みの硬度にもなるし、繊維状に結び合わせれば金属より硬くしなやかに曲がる。
そろそろ頃合いだ。使い方はわかっても使いこなせるわけじゃないことはよくわかった。そして、「炭素魔法」ならではの「中2技」が存在する。このように限定された密閉空間、敵しかいない状況。なので炭素の微細な結晶を空気中に均一に拡散させる。中2なら一度はやってみたいヤツ。
誰かがタバコに火をつけた。あ、それフラグです。
一瞬、目の前が真っ白になり爆炎と爆風が巻きおこる。ドン、という地響きと共に。⋯⋯そう、「
俺ももれなく吹き飛ばされる。捕まっていた倉庫の外へと投げ出される。痛い!熱い!
あれれ?粉塵爆発ってあんまり威力がないんじゃなかったっけ?とりあえず杏璃の学校へ急がなきゃ。
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