Prologue 03 :瑛士。

 彼の着ているのはいわゆる特攻服とっぷく。前身ごろが縦半分に白と黒。後ろ身ごろも縦半分に黒、白となっていて金糸で前は英語、後ろは漢字で刺繍されている。これは初代から変わっていないそうだ。


 草笛家では5月になると武者飾りみたいに飾られていた。


 いや、待てよ。武楽邪吼ブラックジャックの特攻服は一般が黒、支部長、支部幹部クラスが白、本部の幹部クラスが白黒だったはず。もしかしてこの子、エライ人なのかもしれない。


 話をしてみたかったが、マフラーを直管にしているため、爆音で全く聞こえないので話どころではない。


 深夜零時過ぎ、インターチェンジにはコーンがおかれ、許可車以外通行禁止の看板が。勝手に封鎖して警察が怒らないのか、と普通は思うのだがここには警察の権威は及ばないのだ。派手にローダウンした車が黒く短い特攻服に身をまとった一般構成員の振る誘導棒(光るアレ)の指示に従って入っていく。ギャラリーだ。


 レースは外回り(右周り)で行われるので内回りが観客とイベントのスペースになっているのだ。工場が稼働しない金曜土曜の深夜だけ完全封鎖されるのだ。


 玲士くんは外回りに入るとスタート地点近くのパーキングエリアに入る。ここがピットエリアになるのだ。結構人が多い。10チーム以上は来てるだろう。


 玲士くんのバイクが駐車場の一角に入ると皆さんでお出迎え。玲士くんの背中をよくよく見ると「十二代目総長」の刺繍が。マジか。


 当然、総長が連れてきた「珍客」に耳目が集まる。

「こいつは初代総長アキさんのお身内の方だ。今日は見学に来た。」

ただ、俺の姿を見て期待外れだったのか、反応は薄めだ。


 レースはなかなか本格的で2時間で何周走れるかを競ういわゆる耐久レース。ヘルメットもライダースーツも着ないのは強化魔法のおかげだ。1チーム1台でのポイント制、賞金もしっかりと出るそうで当然ネット配信もやっている。


 へえ、俺も大学時代ピット作業やったなぁ。

「バイク屋の親戚」ってことで俺も手伝う羽目に。俺の作業の手際の良さにみんな驚きの声をあげる。

「うま!チビさんうまっ!」

いや、褒めてくれんのいいけど「チビさん」はやめて。俺は「エイジ」だ。もう10年以上機械を相手にしてるしな、年季が違うのよ。というかお前ら無駄な動きが多すぎ。


 うーん。主人公のチート能力としては歴代で5本の指に入る地味さだろう。じゃあここは手際のよいタイヤ交換の仕方をレクチャーしちゃうぞ。


 ライダーは副長のシュガーくん。本名佐藤だからシュガーくん。怖いからいちいちつっこまないけど。本人はそれでいいのかい?レースは3位でピットイン。


 「行くぞ!」

 俺たちの出番。バイクをスタンドにかけてタイヤを一気に交換。なんと3分で交換終了。プロは10秒とかの世界ですが、アマチュアというか族のレースなら十分に早いでしょうよ。実際、シュガーくんはトップでピットアウト。そのままトップでチェッカーを受ける。


 あー、気持ちいい。これぞメカニックの醍醐味だわ。シュガーくんと玲士くんを中心に喜びの輪が。


 周りの子たちはやや不満げ。ピット作業の力量の差が勝敗を分けたことにみんな気づいてないことを不満に思う気持ちはわからんでもないが。

「ピット作業で1分切るまではデカイ顔はできねーぞ。」

「ウス。」

みんな目に闘志をたぎらせていた。良い子たちや。


 翌日のレースも勝利。メカニックたちが完全に俺の言うことに耳を傾けるようになっており、昨日よりもさらにタイヤ交換と給油のタイムが15秒早かった。若いから飲み込みがいいんだろうな。


 もうみんなキラッキラした目で俺を見ている。最初は獰猛な野良猫みたいな感じだったけど、学んで成長を実感すると、どんどん意欲が湧いてくるのは教えていて嬉しい。


 毎週は勘弁だけどたまにくらいなら技術指導してもいいか、そう思っていた。ただ、玲士くんは俺を家まで送った後、

「来週も行こうか?」

軽く聞くと首を横に振った。

「付き合わせて悪かったな。綺麗なもんばっかじゃねぇんだ。このまま店を続けてくれんなら世話になると思う。」

 

ただ、否応無しに俺は武楽邪吼ブラックジャックに巻き込まれていく。まるでアキ兄が俺を引きずりこんでいくかのように。

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