東京アヴェンジャーズ
風庭悠
Prologue 01:杏璃。
アキ兄は
実は俺も大変お世話になったクチで、小学校高学年で酷いイジメに遭って不登校になった俺は中学時代、アキ兄の家に下宿させてもらっていたこともある。
遺されたのは新東京の裏道に面したバイク修理屋「
うちの両親が杏璃を引き取ることになっていたが、当の杏璃は頑なに実家から離れようとはしなかったのだ。
「あんな治安の悪い街に女の子一人で住まわせるわけにはいかない。」
4年間同居して兄妹同然の仲、といっても10歳も離れているのでほぼ「
「杏璃を連れてくるまで、お前も帰ってこなくていいからな。」
Fラン大学を卒業したものの定職に就かず、テキトーなバイトをしつつぶらぶらしていた俺は
「狂ってんのは
杏璃は一度その大きな目を丸く見開いてから言い放った。ぐうの音もでないようなこと言うなよ。
「杏璃、正論というのは時に人を傷つけることもあるのだよ。よって、お前は俺の
「いやよ。だってパパが帰ってくるまでお店を守んなきゃだし、猫たちの世話もあるし。」
通夜でも葬儀でも涙一つ浮かべない「
「じゃあどうすれば一緒にウチに来てくれるんだよ?」
俺がため息まじりに尋ねると杏璃はにっこり笑った。異世界人の血が入っているせいか彼女は超がつくほど美少女なのである。
「簡単よ。瑛士のお嫁さんにしてくれればね。」
「法律上はできませんー。」
「いや、事実上なら今からでもすぐできるっしょ。」
生々しいこと言うなよ。 思わずワンテンポ返答が滞る。
「そんなことしたら俺が親父に殺されるし社会的にも死ぬわ。それに杏璃ならこれからいくらでもハイスペックな男が寄ってくるから、こんなFラン卒のクズ男をからかっちゃだめだかんね。」
彼女が俺に懐いているのは幼少期に俺に面倒を見てもらっているからだ。大人の俺が勘違いしてはいけない。
「それよりもさ、パパから瑛士に『形見』があるんだけど。」
「形見?」
「うん。事故の日の出かける前に突然『俺になにかあったら瑛士にこれを渡してくれ。俺の形見だから』って。」
「俺にか?」
「うん。」
なんだろう?鍵だ。キーホルダーには見覚えがある。ガレージの事務所の金庫の鍵?いや、お金ではなく「劇物」を保管する方の保管庫の鍵だったはず。
「杏璃は見たのか?」
杏璃は首を横に振った。だが、アキ兄が自身の運命を予期していたような行動をとっていたことも杏璃に彼の生存を確信させている
二人で
中には簡単なメモと脱脂綿にくるまれた石のようなものが入っていた。きれいな石だが宝石と呼ぶほど光り輝いているわけでもなく、研磨前の原石のようにも見えた。メモにはこうある。
「このメモを見たということは俺になにかあったってことだな。これを握ってフィアト=ルクスと唱えてくれ、あとはおいおい説明される。」
ここで怪しいと思えばよかったのかもしれない。でも、アキ兄に対する俺の信頼の方がずっと勝っていた。
「フィアト=ルクス。」
俺が石を握ってそう唱えた瞬間、網膜を焼かんばかりの閃光が俺を包む。なんや、爆発でもしたんか?熱はまったく感じないがあまりの光の衝撃に俺も杏璃も気を失った。
二人が目を覚ますと辺りは少し暗くなっていて、すでに夕方のようだった。
「あれ?寝てた?」
気だるい感覚が身体に残っている。
「あ、瑛士、なんか身体が縮んでない?」
杏璃が素っ頓狂な声をあげる。
「縮む?」
まだ頭がぼーっとしている。杏璃の声もわんわんとこだまするように聞こえるし、車酔いみたいな気持ち悪さがある。
「あの、すいません。」
ガレージのシャッターをたたく音がした。だれか尋ねてきたらしい。
「はい。」
杏璃が少しふらついた足取りでシャッターわきのドアを開ける。不用心に開けたことからどうやら知り合いの声なのだろう。
「
杏璃の声には少々の驚きと戸惑いが混じっていた。
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