掌編小説・『100円ショップ』
夢美瑠瑠
掌編小説・『100円ショップ』
(これは、昨日の「100円玉記念日」にアメブロに投稿したものです)
掌編小説・『100円ショップ』
いつものスーパーの裏手に小便をしに行った。
軽犯罪法に触れるのは承知の上であり、そういうことは往々にして人生に生じる。
少し陰になった奥まった一角に入っていくと、卵型の扉があって、きらきら輝く電飾が飾ってある。
「?」
とりあえず用を足してから扉に近づいてみると、銀色のプレートが嵌まっていて、『100円ショップ・きょうりゅう屋』とレリーフがされている。扉に耳を当てて中の様子を探ると、「クスクスクス…」と女の子の笑う声がする。
思い切って扉を開けて中を覗くと、「いらっしゃあい」と、さっきの女の子が微笑んでいる。
サンタの扮装をした、金髪碧眼の10歳くらいのかわいらしい少女だ。
「ドラクエ」のテーマを交響曲にアレンジした曲がBGMに流れている。
「ここは100円ショップなの?」と訊くと、「ええ。全部100円だけどね、売っているのは恐竜の卵よ」と、思いもかけないことを言う。
「えっ恐竜?おもちゃの卵で、恐竜のおもちゃが入っているわけ?」と、重ねて訊くと、神妙な顔つきになって、「ううん。ここは四次元のファンタジーワールドの入口なの。中には悪魔やら妖精やらモンスターがいっぱい!だから自分用の恐竜の護衛がいないと冒険できないの。だから入場料が100円で、恐竜の卵を買ってもらって、それを育ててから冒険に出るのよ!」と、ますます面妖なことを言う。
「うーん。面白そうだけど…恐竜って育てるのが大変なんだろ?」
「もう100円出したら「きょうりゅうのエサ」が買えるわ。それを食べたらぐんぐん大きくなってたちまちゴリラくらいになるの。そうしたら背中に乗って冒険できるようになるから…」
…とりあえず200円出して恐竜の卵とエサを買うことにした。
「卵」は虹色にキラキラ光を放っていて、全体に蛍光色を帯びていた。普通の鶏卵よりちょっと大きい。
「エサ」はサソリのような形状の、エビ茶色の昆虫?の干物みたいな奇態な代物だった。強精効果かなんか有りそうだった。
「卵はどうすれば孵化するの?」
「お湯に3分浸けるのよ」
「まるでラーメンだね」
… …
かぐや姫のような美しい色彩のうろこをした恐竜のベイビーが産まれて、生意気に小さい炎を吐いた。
僕の髪の毛が少し焼ける匂いがした。
「わっつ!これは本物だーすごいなあ。君はいったい何者?」
「私は…」
「えっつ?聞こえない。なんだって?」
「私は…」
… …
気が付くと寝床の中にいた。
汗をびっしょり搔いていた。
「なあんだ。夢か…それにしてもリアルな夢だったなあ」
今のことがすっかり夢だったことわかっても、にわかに信じにくいほどにその「ファンタジー」の現実感はまざまざとしていた。そうして!「あっ!」。驚いたことに僕の前髪は少し焼けて縮れているではないか!
とんとん、と肩を叩かれて振り向くとそこにはさっきのドラゴンがもうゴリラくらいに成長して首を傾げて血のようなクリムゾンレッドの瞳でこっちを見ていた!
「ひゃああああ!」
タマムシかハンミョウのように虹色に光り輝く、精悍な竜は、低いがよく通る、雷鳴の轟(とどろき)の序曲のような声音で厳(おごそ)かにこう告げるのだった。
「ご主人様。さあ冒険に出かけましょう。私の名はハンドレッド。さあ、何なりとお申し付けください」
…僕は気絶した。
<了>
掌編小説・『100円ショップ』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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