闘鶏のエセー

沢河俊介

腐り果てる夢

2体の石像は語り合った。腐り果てる夢を。

石像の作者は数世紀前にこの世から腐り果てて消えた。


2体の石像は目の前にある坂の向こう側まで駆けていって

海から昇る朝日を見たかった。


いつも石像の前を走って行く少女のように

髪をなびかせて、乳房を震わせてあの坂を登り、

少女のように腐り果ててみたいと願った。


ある日、芸術の神が、この2体に今夜限り動くことを許した。

ただし、夜明けまでに戻らないと二度と動けないようにするという条件付きで。


人々が寝静まった夜、石像たちは動き出だした。

二人は走って坂道を登った。

髪をなびかせ、乳房を震わせて。


そして彼女たちは眩しさに目を細めながら見た。水平線から昇る太陽神を。


何世紀もの間、同じ風景ばかり見てきた彼女たちにとって、

陽の作り出すあらゆる物の奥行は、はじめて彼女たちに鼓動させた。


朝が来た。


二人は元の台座へと引き返えすことを思い出した。


坂道を駆け下りる脚はしびれ、重さを感じ、石へと変わりはじめた。


ああ、ついに、2体はバランスを失い、ゴヂンと転がって


ばらばらと砕けた。


朝日を浴びた大小の石片は、戯れながら坂道を転がり落ちていった。

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闘鶏のエセー 沢河俊介 @on_the_kakuyom

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