朝の生首(生首シリーズ第1話)

 また一日が始まってしまう。無為で退屈な毎日。もう十年ちかく続けたろうか。

 目覚めたあとの最初の儀式は「顔を洗う」こと。そろそろだろう、と思っていたら案の定、カオアライグマがやってきて顔を起こされる。

「いつも済まないね」「仕事ですから」「毎日、気味悪くないかね」「いろんな方がいらっしゃいますから」「歌でも歌おうか」「終わってからにしてください」

 彼は湯を張った洗面器のそばに私の顔を置き、洗ってくれる。額、目尻、鼻の脇、口元はもちろん、耳の裏、そして首の断面。血の繋がらない従姉が縫ってくれた首の皮の縫い目に彼の毛深いちいさな手が触れると、こそばゆい。

 そう、すべては彼女のおかげだ。本来なら首を伐られれば滅びてしまうはずの私がこうやって首だけで存在していられるのは。そして彼女は毎晩、水晶の匙で私に彼女自身の血を飲ませてくれる。ひと匙、ひと匙。口づけのように。

「君の血を吸おうか? 歳を取らなくなる」

 私は最近、すこし毛の艶がなくなっきたカオアライグマに声を掛ける。

「なにごとも終わりがあるのがいいんですよ」

 顔を洗い終わった彼は黒目がちな目を瞬かせてそう言った。


ご注意

「カオアライグマ」は柊らし(https://kakuyomu.jp/users/rashi_ototoiasatte)さんのオリジナルキャラクターです。

本作は、「吸血+生首+カオアライグマ」のみっつの要素を使用した競作短編企画として書かれました。

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