河原の手の話
初夏の夕、我が家から半里ほど離れた河原まで散歩に出た。
ころんころんと下駄の音を石畳に響かせて河原まで来ると、手が生えていた。
右手、左手、男の手、女の手、子供の手、年寄りの手。
ああ、もうそんな季節か。
水量の減って河原の乾くこの時期、河原には一斉に手が生える。
河の泥を養分に育った手は、生き生きとして、さわさわ河風に揺れている。
と、手売りの婆が手を摘んでいた。
ぺくぺくと、小気味よい音を立ててひとつひとつ手で摘んでいる。
「精が出ますな。手摘みは大変でしょう」
「手は手摘みが一番ぞな。人のぬくみで安心させて、ぺくっとやるんさ」
婆はブツブツ呟きながらもひたすらに摘んでいる。
今年の手は良い出来だな、と思った。
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