　現世（うつしよ）と冥府が分かたれぬ頃

　冥耀君（めいようくん）は中原の姫を娶（めと）った。

　光凜帝（こうりんてい）の妹。婢妾（ひしょう）の母の形見の薬研（やげん）を大切にしており、薬研公主（やげんこうしゅ）とあざなされた。

　が、婚姻は譎詐（けっさ）であった。

　光凜帝は時を置かず冥府に攻め入った。公主は故郷に棄てられたのだ。

　戦火数歳。

　百万の屍をまえに、冥耀君は現世と冥府を分かつこととした。

「来（こ）よ」

　冥耀君は公主を誘（いざな）い、冥府と現世の境、月震宮（げっしんきゅう）に封（ほう）じた。

　譎詐に始まっても情（じょう）は真（まこと）であったとみえる。

　足繁く通ってくる。

　冥耀君に謎は多い。

「はて面妖な」

　気づけば歳を取らぬ己（おのれ）を不審に思い、公主が夫に閨（ねや）で問うても

「よいよい」と笑うばかり。

　光凜帝は現世の地下に巨大な墓陵を造り、死してなお冥府に降りなかった。

　すなわち、逃げたのだ。

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