第3話 春に隠るる姿ぞ愛しき
兄が身罷りしは春の宵
花影に月の隠るる夜のこと
遺骸は廃屋に捨て置かれしと聴く。
帝より賜りし名笛「残雪」は失われ、
私は悲嘆の淵にて病みついた。
笛音の蘇りしは花散る都
花吹雪に霞む夜のこと
雪のごとき庭の桜を見上げ
懐かしきその音に耳を澄ませば、
遅れ聞こえ来るは塙大納言賊害の報せ。
兄に再会せしは晩春の隠寺
桜葉のさや鳴る夜のこと
誦経に厭いた耳に笛の音、
水墨の景色に倦んだ目に兄の姿
私の胸に宿りしは千の問い
月光がすべてを顕す夜のこと
「塙の大臣が笛を妬んで我を殺めた」
「ならば兄者は笛がために蘇りしか」
兄は静かに否と笑う。
死は生涯隠されし我が願いを顕じた。
愛しき弟よ、我は汝が欲しいのだ。
差し伸べられたその手を、私は
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