聖夜の惨劇〜とあるプレゼント交換での出来事〜
さこゼロ
黒いサンタがやって来る⁉︎
格安カラオケ店のパーティルーム、
とある大学の団体客が、クリスマスパーティを開いていた。
スピーカーから流れるクリスマスソングをBGMに、女性七人が円に並んでプレゼントを順に回していく。
そんな彼女たちの楽しそうな様子を、同じく七人の男性が固唾を飲んで見守っていた。
プレゼント交換でフィーリングカップル!
今回のパーティの目玉企画である。
男性陣が選んだプレゼントを女性陣がランダムで受け取って、そのセンスが気に入ればフィーリングカップルの成立となる。(建前はそうだが、大抵フィーリングカップルは成立する)
その後お付き合いにまで発展するかは、フリートークの結果次第、腕の見せどころという訳だ。
そんな中、スピーカーから流れていたBGMが、ピタッと唐突に終わりを遂げる。MC担当の先輩カップルが、演奏停止ボタンを押したのだ。
「は~い、そこで終了!」
明るい感じの女性の声が、マイクを通して部屋に響く。
「今、手元にあるのが運命の一品です。皆さん、一斉に開けてください!」
続けて発せられた男性の声をキッカケに、女性陣がガサゴソとプレゼントを開き始めた。
しかし集められたメンバーとは若干異なり、溢れんばかりのイケオーラを放っていた。
明るい茶髪は、三つ編みのハーフアップ。クリッとした大きな瞳には、ハニーシャインブラウンのカラコンが付けられていた。
本人も周りとの空気感の違いに気付いており、男性からの視線を一身に浴びながらも、そのテンションはかなり低い。
そしてこのあと更に、彼女のテンションに追い討ちをかけるような出来事が待っていた。
(何コレ、意味が分かんない…)
ガサゴソと開いたプレゼントから、黒いサンタの人形が出てきたのだ。
(マジで最悪なんですけど…っ)
愛綾はサンタの人形を包み袋に戻すと、心底盛大な溜め息を吐いた。
そのとき彼女の視界の片隅に、隣りの女性の手にあるネックレスが映り込む。
スマイルラインに施された、ピンクゴールドのネックレスだ。
(あのネックレス、センスいいじゃん! お通夜オンナには勿体ない)
お通夜オンナ、
愛綾が勝手につけた、隣りの女性の愛称である。
クリスマスパーティだと言うのに、黒いレースのショールを羽織った黒のワンピース姿。更には俯き加減のその姿勢のせいで、大きな眼鏡をかけているのに、黒髪ロングの目隠れキャラと化していた。
するとそのとき愛綾の脳細胞に、ナイスなアイデアが湧き上がる。
「ねーねーアナタ、私の貰ったプレゼント、今のアナタにピッタリだから、そのネックレスと交換してあげる」
「……え⁉︎ あ、でも…」
「いいから、いいから」
愛綾は半ば強引にネックレスを奪い取り、自分のプレゼント包みを押し付けた。
それからネックレスを手に立ち上がり、猫撫で声を響かせる。
「このネックレス、凄くセンスがいいです! 誰のプレゼントですかー?」
注目度の高かった愛綾の発言に、男性陣が焦ったように騒ついた。
そんな中、ひとりの男性が立ち上がる。
「あ、あの、自分は…」
紺色ジャケットに白のスラックス。冴えない中でも更にイモ。少しくらい地味でもセンスが良いならと思ったが、いくら何でもコレはない。
「あー、パスパス」
愛綾は右手をヒラヒラ振って男性陣に背中を向けると、女性グループのひとりに視線を向けた。
「レンレン帰ろ! やっぱりアッチのパーティに行けば良かった」
「謝罪。ウチのリサーチ不足」
その声に立ち上がったのは、黒髪サイドテールのひとりの女性。愛綾を覗き見る大きな瞳には、ロシアンベルベットブルーのカラコンが付いている。
「レンレンは良いの出た?」
「趣味じゃない。でも質は良いから出品する」
「わお、有効活用!」
「あ、あのー…」
そのときMC担当の男性司会が、戸惑ったような声をあげた。
「あ、私たち帰ります。あとは皆さんで楽しんでくださいねー!」
愛綾は笑顔でそれだけ告げると、悪びれもなく部屋を出る。
それから隣りを歩く、自分より小柄な少女の頭をコツンと小突いた。
「レンレンのせいだかんね」
「再度謝罪。いくら有名大学でも、クリスマスに合コンなんて、売れ残りに決まってた」
「確かにそーだわ! 私も気付けってやつか」
レンレンの核心的な分析に、愛綾も思わず、目から鱗が落ちる。それからゆっくりと、小さな溜め息を吐いた。
「あーあ、この後どーしよっか?」
「場所は把握済み。まだ終わってないから、アッチのパーティに参加出来る」
「ホント⁉︎ じゃー行こ行こ!」
それと同時に、愛綾の脳裏に閃きが降る。
「あ、私、このネックレスしてこっと」
「確かにそれ、センスいい」
「でしょ!」
親友の賛辞に気を良くしながら、手に入れたネックレスを首に着けた。
それから愛綾は、エレベーターの呼び出しボタンをポチッと押す。
ここのカラオケ店は雑居ビルの三、四、五階。下に下りるなら、エレベーターか階段を使わなければならない。
「今日はエレベーターを、使わない方がいい」
そのとき突然、背後から声を掛けられ、愛綾は驚いたように振り返った。
するとそこには、隣りの席のお通夜オンナが、俯き加減で立っていた。
「何それ、さっきの報復のつもり?」
愛綾は腰に手を当て、相手を見下したような視線を向ける。同時にポーンと音がして、エレベーターの扉がガーっと開いた。
「どーせやるなら、もっと気の利いたセリフを吐きなよ。まあ会場間違ったお通夜オンナには、ちょっと難しかったか」
嘲笑うように言い残し、背中を向けて、愛綾はエレベーターに乗り込んでいく。
やがてレンレンの操作で扉が閉まり、ゆっくりと機体が降下を始めた。
その瞬間、
何かに引っ張られるように、愛綾の身体が背中から扉に
更にエレベーターの降下に合わせて、ネックレスが愛綾の喉をどんどんと締め付けていく。
「がっ、く、苦し…レンレン、助け…っ」
あまりに突然の惨状に、レンレンは立ち尽くしたまま動けない。
やがて、その時が訪れる。
煌びやかな光に色付く街の聖夜に、ひとりの少女の絶叫が何処までも響き渡っていった。
了
聖夜の惨劇〜とあるプレゼント交換での出来事〜 さこゼロ @sakozero
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