第69話 side 天満梨花③
少しでもわかりやすくするためにside 天満梨花②の後半を全部削除して、こっちに内容を移しました。展開が少し変わっています。
=============
本日5回目の更新です。お気を付けください。
===================
8月。
今まで住んでいたアパートは危険だといわれ、卯月さんのマンションに引っ越しをさせられた。
理由は真理ちゃんが危険だと言ったかららしいけど、詳しくは卯月さんも教えて貰えていないらしい。
勝手に家を出るなと言われているので、仕事以外では外に出ることが出来ない。
出る時も、必ず卯月さんと一緒だと説明を受けた。
ピンポーン、と。
卯月さんの家のインターフォンがなった。
荷物かな?
モニターを見ると、真理ちゃんだ。
「梨花ちゃん!」
玄関のドアを開けると、真理ちゃんがいきなり抱き着いてきた。
「ど、どうしたの真理ちゃん?」
「ごめん。ごめんね……」
「……どうしたの?」
私は、ギュッと真理ちゃんを抱きしめ返した。
「梨花ちゃん。このまま私といると、梨花ちゃんを危険に巻き込むと思う」
「……うん」
「もしかすると、たくさんの男の人に酷いことされる可能性もある」
「……怖いね」
「うん。だから選んでほしい。このまま私と危険な目に会うか。お別れするか」
「私は真理ちゃんと一緒にいるよ」
「え、即答?」
「うん。即答」
「でも、本当に危険なんだよ」
「いいよ。私は真理ちゃんといるよ。何があっても」
「そんな事言われたら……私、甘えちゃうよ」
「いいよ。もっとたくさん甘えて」
――
「……じゃあ甘えちゃうからね」
真理ちゃんは家に入ってくると、そう言った。
「うん。もちろん」
「少し待ってて。今、話す内容をまとめるから」
真理ちゃんは、ルーズリーフのノートを広げてしばらく書き込んでいた。
「始めてもいい?」
「いいよ」
「じゃあ始めるね」
私は黙って頷く。
「まず、春にも言ったけど、私は一橋達也と関係を持ったので、死ぬ心配はないからね」
「うん」
「でも、あいつは女の子と見たら誰かれ構わず襲い掛かるようなヤツだから。本当に気を付けて」
……真理ちゃんは、そんな人と……。
「ごめんね」
「なにが?」
「そんな人と、して来いとか言っちゃって」
「だから大丈夫だって。アイツ。私にだけは優しいから」
本当かな。
でも『実はもうやめて欲しいと思ってる』なんて、口が裂けても言えない。
私が言い出したことだから。
私は真理ちゃんに『自分の人生をめちゃくちゃにした男に抱かれて来い』と言った。
後から考えて、あまりにも酷い事を言ってしまったと後悔した。
でも、その人に抱かれない限り、真理ちゃんは死んでしまうらしい。
真理ちゃんは死を受け入れているようで、私は怖かった。
真理ちゃんを失いたくなかった。
辛い決断をさせてしまった。
本当にごめん。
だからせめて、私は真理ちゃんの期待に応えようと思う。
真理ちゃんの望むことすべてを、叶えてあげたいと思う。
「梨花ちゃん。引っ越しをしよう」
真理ちゃんが言った。
「引っ越し?」
「うん。実はマンションを買ったの。カルペディエムって名前が気に入って」
「カルペディエム?」
「うん。一日一日を大切に生きろって意味があるんだって」
「そうなんだ。いい名前だね」
「梨花ちゃんには、そこに優太君と一緒に住んで欲しい」
「桜田さんと?」
「うん。駄目かな?」
「いいよ」
「ありがと。これが詳細」
一枚の用紙。
「私は一橋達也と幸せになる。梨花ちゃんには、このカルペディエムに優太君と一緒に住んで、優太君を守ってもらいたいの」
「……わかった。いいよ」
「もちろん。落ち着いたら別れて貰ってもいいし、二人の相性がよかったら、そのまま続けて貰ってもいいからね」
「……」
あれ?
なんで?
私は、気付いてしまった。
真理ちゃんの手のひらの数字が、春の時よりもごっそり減っていることに。
「梨花ちゃん?」
そうか。
真理ちゃんは死ぬつもりなんだ。
私を騙して。
でも、そうさせたのは私だ。
「真理ちゃん。桜田さんの事は必ず守るよ」
私は言った。
「ありがと。梨花ちゃん」
――
数日後。
私と真理ちゃんはカルペディエムに、一緒に住むことになった。
私がお願いしたからだ。
私がマンションに到着すると、真理ちゃんがメイド服を着て待っていた。
真理ちゃんは、スケッチブックにマジックで、
『真下木乃理です。よろしくね』
「え。誰?」
「優太君が来た時の為の練習だよ」
「あ……そうか……」
たしかに真理ちゃんのままだとまずいもんね。
「名前は真下木乃理。あと、優太君の前で喋るわけにはいかないから、筆談でね」
それから二人で部屋の掃除をして、荷物を運び込んで、夜はちょっと美味しい物を食べた。
筆談しながら食べる食事は、ちょっと変わってて面白かった。
でも、真理ちゃんの部屋はベッドが一つだけだった。
「真理ちゃん。他の荷物は?」
「おいおいね。今は寝るベッドがあればそれでいいよ」
でもその日からしばらくしても、真理ちゃんの部屋はベッドが一つのままだった。
――
そして、いよいよ桜田さんと出会う日を迎えた。
真理ちゃんが用意してくれた制服に着替える。
私が勉強した成果を見せる時だ。
褒めたり頼ったり、脈ありサインを出し、距離を近くする。
相手の目をジッと見て、話を親身になって聞く、笑うときは口に手を当てて。
名前を頻繁に呼んで、わがままを言ったりする。ボディタッチは多め。
胸の谷間を活用して、色々なものを胸の谷間から出す。
よし。頑張ろう。
真理ちゃんは、スケッチブックに、
『全力で優太君を潰しにいくからね』
と、書いた。
全力はやめてほしい。
――
桜田さんは、優しそうで、少しだけ神経質そうな感じの男の子だった。
真理ちゃんの浮気を知った桜田さんは、真っ青になって、あまりにも可哀想な様子だった。
思わずキスをしてしまうぐらいに。
桜田さんは、ショックを受けすぎて、ずっと地面を眺めていた。
何か、言ってあげないと。
「こういう時、人は2つの行動に出がちです、相手にめちゃくちゃに復讐してやろうとするか、自分を責めて苦しむか。あなたは後者なんですね」
うまくできたかな。
少しでも、桜田さんの辛い気持ちを和らげられただろうか。
ねえ真理ちゃん。
これ、本当にやらないと駄目なの?
私は、桜田さんとバンジージャンプをして、写真を交換し、それからIMのアドレス交換をした。
それから3日間。
私は桜田さんと一緒に過ごした。
でも、ステータスオープンって、本当に言うとは思わなかったな。
思ったよりも面白い人なのかも。
――
『おかしい』
真理ちゃんは、わざわざスケッチブックに書いていた。
『どうしたの?』
私もスケッチブックに書いた。
『そろそろ家を出たいって言うと思ったのに、全然言ってこない』
そう言って、桜田さんと連絡を取り合っているスマホを睨みつけた。
『それじゃあマンションに誘えないね』
私が書くと、
『最後の手段……使うしかないかも』
『最後の手段?』
『優太君をクラスのみんなでイジメようと思う』
「……え」
どういう意味だろ。
でもきっと、真理ちゃんの事だから、きっと何か考えてるんだよね。
―
数日後、真理ちゃんは首を横に振っていた。
「駄目だった。こんどこそ最後の最後の手段」
「最後の最後の手段?」
「うん」
数日後、真理ちゃんが私に優太君とのやり取りを見せてくれた。
【天満梨花:まずは証拠を掴んで、ギッタギタにしてやりましょうよ。数日ください☆】
「証拠を掴んでギタギタにするの? 私が?」
「そう。でも実際、ギタギタにされるのは優太君で、きっと辛くて逃げ出すから、そこを梨花ちゃんが優しくフォローしつつマンションに連れてきて欲しい。そして二人で住んで」
「わかった」
「これでダメならマンション誘うのは諦める」
「でも証拠なんてあるの?」
「ないけど、あるって言えばあることになるんだよ」
「何を言ってるの?」
真理ちゃんは、誤魔化すコツを教えてくれた。
―
数日後、私は初めて一橋さんと対面して話をした。
怖い。
最初に感じたのは恐怖だ。
狂気に満ちた顔で、桜田さんに酷い言葉を浴びせ続けている。
信じられなかった。
あそこまで悪意を人にぶつけられる人間がいるのかと思った。
真理ちゃんも、一橋さんと一緒になって桜田さんに酷い事を言い続けていた。
桜田さんは耐えていた。
けど、私は耐えられなくて思わずテーブルを叩いていた。
「帰りましょう、優太さん」
――
私は桜田さんを連れ出して、頭を撫でて、必死に笑顔を作った。
このままでは、彼が壊れてしまうと思ったから。
やりすぎだよ真理ちゃん。
何考えてるの?
「頑張ったね。すごく偉い」
「私は優太さんを見放さないし、絶対にそばにいるから」
彼が壊れないように、私は必死に声をかけた。
「優太さんは頑張りました。だから休みましょう。少し休んで、心が回復したら、一緒に一歩ずつ歩いていきましょうね」
でも、
「いや…………僕は一人で歩くよ」
え?
「天満さんは僕を守ってくれた。いい子いい子してたくさん甘やかしてくれた。おかげで僕は決定的なダメージを負わずに済んだ。天満さんがいなかったら、どうなってたか考えるだけで恐ろしい。だから……本当に感謝してる。ありがとう」
「……」
「でもね。それって自分の足で立ったことになるのかな? 僕は自分の足で歩きたいんだ。このまま一緒にいたら、僕は二度と自分の足で立ち上がれない」
……驚いた。
数日前。
私は、この人が真っ青な顔で、ただ地面を見ている事しかできなかったのを知っている。見ている。
凄いな。
本当に同じ人なのかな。
涙が一滴。私の頬を流れた。
さらには、
「天満さん。うちの学校の生徒じゃないだろ」
え?
それだけじゃない。
彼は、それだけじゃなかった。
「そ、それってどういう意味ですか?」
「最初におかしいと思ったのは、IMなんだ」
「IM?」
「うん。天満さんって、IMのメッセージをたくさんくれるよね?」
「あ。はい。迷惑でしたか?」
送っていたのは真理ちゃんだ。
でも、そんな事は言えないので、そんな風にごまかした。
「迷惑じゃないよ。ただ、ちょっと気になってね」
「何が気になったんですか?」
「IMがたくさんある日は、天満さんとは会えなかった。でも、天満さんと会える日はIMが朝から1件もないんだ」
「……」
それは、私と真理ちゃんで決めておいたルールの1つだった。
実際にIMで連絡をとるのは真理ちゃんなので、真理ちゃんからの連絡漏れがあると、私と桜田さんの会話に齟齬が生じる。
それを防ぐために、私が会う日はメッセージを送らないルールだった。
……気付いてたんだ。
「あとは天満さんが僕にくれた休んだときのプリント。風邪の予防をしっかりしようっていう内容だったよね?」
「あ、はい」
「よく考えたら同じクラスじゃ無いのにプリントを持ってくるのはおかしいよね?」
た、確かに。
「なんか変だなと思って先生に聞いてみたんだ。そしたら、そんなプリント配ってなかったって」
「そ、それは……実は理由がありまして……」
「別にいいんだよ。それは気にしてないから」
「え?」
「それからその制服。新しすぎるよね。まるで新品だ」
「そ、それは……あんまり学校に来てないので……」
「そして、あのタイミングで野球部室に来るのは、どう考えてもおかしい。僕は手紙に呼び出されて言ったんだ。誰にも知らせてない。なのに天満さんが、丸で僕がいる事を知ってるみたいにして来た」
「……」
「僕の後をつけてた? ならもっと早く話しかけてたはずだよね」
「それは……」
「だから僕はこう思ったんだ。天満さんの背後には、天満さんを僕の所によこした人物がいるんじゃないかなって」
「……」
「だから、それが真理だったらいいのになって思ったんだ……そんなわけないのにね。真理にはそんなことをする理由がないもんね」
「……」
「だから、本当の事はぜんぜんわかんないんだ。でもね。だからといって天満さんを責めてるわけじゃ無いよ。天満さんが、優しさでや同情で僕に優しくしてくれてたのは本当だから。それによって、僕は傷を負わずに済んだ。だから、本当に感謝してるんだ」
この人…………。
たったあれだけの情報で、ほとんど正解にたどり着いてる。
これ。
ちょっとしたきっかけがあれば、全部わかっちゃうんじゃないだろうか。
真理ちゃん。
本当に、この人に話さないままでいいの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます