来ないはずだった幸せ

 カーテンの隙間から、気持ちの良い朝の日差しが顔に当たり、大きく欠伸あくびと共に僕は目覚めた。

 体は羽が生えたと勘違いしそうな程に軽く、疲れが全て抜けていたようだった。

 時計を見ると午前七時を針が指ており、起床の予定時刻よりかなり早かった。

 

 二度寝をしようと思ったのだが眠気はどこにも無く、少しの間目をつぶっていたが寝付けなかった。

 二度寝は諦めて、皆を起こさないようにこっそりベットから抜け出し、優雅な朝風呂に入る事にした。

 山頂は雪が積もっており幻想的だった。

 湯船に浸かり北海道の街並みを見ると、車が沢山走っており皆今から仕事だろうか。

 それとも遊びに行くのだろう。

 活動的になった街は想像を掻きか立たせる。

 

 「ハルトおはよう」


 後ろを振り向くとパジャマ姿のラウが、浴槽のふちに座り山を眺めていた。


 「すまん。起こしたみたいだな」

 「大丈夫。朝から話せて良かったし。横おじゃまして良いかしら?」

 

 ラウは僕の返事を待たず、少しおしりが濡れたパジャマを水着に変えてピンと伸びたつま先から湯船にスっと入ってきた。

 その様子は綺麗で現実味を帯びておらず、周りの山々と合わさり一枚の絵画のようだった。


 「見とれてるの?」

 「別に」


 ラウは昨日と同じように、わざわざ肩をくっ付けて横に座り込んできた。

 その肌は柔らかく暖かくてちゃんと人間だった。


 「綺麗ね」

 「ああ」

 「私の事好き?」

 「ああ。って何言わせてるんだ!」


 ラウはイタズラをしてクスリと笑い、指を絡ませ顔を肩に乗せてきた。

 それ以上は何もしてこなかったのでそのままにしておいた。


 「話聞いてなそうだったから」

 「それはごめん」

 「許します」


 昨日の初めて会った時とは正反対の見た目は、美人で怖そうな姿から柔らかくカワイイ系の姿に。

 話し方はツンツンして取っ付き難い感じから、フワフワとして優しそうに変わり若干の心の高まりを感じた。


 「それが本当の姿なのか?」

 「まぁね。流石に若くはしてるけどフラット状態よ。年齢も戻してみる?」

 「いや、辞めとくよ」

 「そう」


 この見た目から成長したら、世の中の人々が嫉妬するほどの完成された女性になるだろう。

 流石にそんな姿で今と同じように寄られるとどうなるか分からないので遠慮した。


 「ハルトありがとうね。私を連れ出してくれて」

 「ラウが選んで着いてきたんだ。僕は何もしてないよ」

 「違うよ。ハルトがいなかったら、今もダンジョンで一人ぼっちでモンスターの本能に向くまま暴れていたと思う。それに比べて今の心は落ち着いて、好きな場所に行けて好きな物が出来て、大切な人が出来た。全部のあなたのおかげ。私を連れ出してくれてありがとう。大好きよハルト」

 「それなら良かったよ」


 最後一言に僕は戸惑い、なんと言っていいのか分からず答えてあげられなかった。

 けれどラウは何も言わず、幸せそうに僕と一緒に山を眺めていた。


 「ハルトいた!二人で何してるのよ!私も入れなさい!」

 

 リンはふわふわと飛び僕達を探していたらしく、見つけると弾丸のように真っ直ぐ飛び込んできた。

 その時リンは小さな体が光り、段々と体が大きくなっていった。

 体が大きくなるのだが、スピードが落ちなかった為大きく音と飛沫しぶきを上げて湯船に着水した。

 そしてその中心には、一人の女性が立ち上がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る