第1話:クロネコ、失踪する
1-①
遡ることちょうどひと月ほど前。
雑居ビルの二階に構える「明智探偵事務所」で、
私、明智耕助は、テレビから流れてくるニュース番組をBGMに、微糖のコーヒーを飲みながら漫画を読んでいた。
世間の最近の関心事といえば、政治家の失言のほかには、BCと呼ばれる銀行強盗が遂に三カ所目の銀行を襲ったことだが、私の事務所の中は至って平和なもので、浮気や身辺調査の依頼すら全く来ない非常に退屈な日々を過ごしている。
そんなダラダラとした毎日を過ごしていた私の元に、ひとりの男性が訪ねてきた。
「クロネコさんを探してください!!」
チェックのシャツをズボンにしっかりインし、背中のリュックにポスターを差し込んだいかにもという格好をした彼は、部屋にはいってくるなりそう叫んだ。
「黒猫…?」私は尋ねる。
「そうです!覆面漫画家クロネコ!歴史上最高の魔法少女漫画である『セーラーハート』の作者さんです!あなたのハートを撃ち抜くぞ!で有名な!」
ああ…と私は頷くと、手にしていた漫画を彼に見せた。
「これですね!」
「それです!!!」
………
彼を部屋の真ん中にある古びたソファーに座らせ、温かい微糖のコーヒーを入れて応接机に置くと、向かい側に座った私は、改めて彼に依頼内容を訊ねた。
「依頼内容は、漫画家のクロネコさん探しですか?」
「はい。今世紀最高の漫画家であるクロネコさんは、自分が社会人であるという情報以外は、公式での公開情報のない覆面漫画家です。
これまでは一度も休載することなく、毎週欠かさずに新作をアップしてくれていたのですが…」
そこで、彼はコーヒーを一気に飲み干すと、応接机をドンッとたたき、まくしたてた。
「ここ1ヶ月!たったの一本たりとも新作が出ていないのです!それどころか、公式の磯スタグラムの更新も完全に停止してしまっていて!!もう心配で、心配で…」
「なるほど…」私は腕を組みながら、答えた。
「磯スタグラムにすら更新がないとなると、少し心配ですね。事件に巻き込まれ、スマホが使えない状況に陥ってしまっている可能性すらある。」
「ああ…無事でしょうか…クロネコさん…」
「安心してください。『セーラーハート』は私も大好きな作品です。この新作が読めないのは非常につらい。必ず私がクロネコさんを見つけ出しますよ。」
こうして、私はクロネコ探しを始めることとなった。
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