ゼロから始まる勇者学
ホメオスタシス
プロローグ(1) 勇者と魔王
「この世界の裏には、瓜二つの形を持った裏の世界が存在する」
ふいに誰からかそう告げられたら、皆はどう答えるだろうか。
もちろん、それを聞いた者のほとんどが耳を疑うことだろう。
自分に陶酔した勝手な妄想だと、聞く耳を持たない者も然り。
逆にその根拠を尋ねる者も一握りにはいるはずだ。
内心では、根拠を尋ねるなど無駄だと一蹴しながら。
当たり前だ、問いかけに見合う根拠など、この世には存在しないのだから。
この世界の構造は科学が支配している。科学で立証できない推論を信用する者はまずいない。根拠などないのだ。
しかしだ。もし仮にその言葉に根拠があったのなら、皆はどう答えるだろうか?
*
──裏日本
そこは、私たちの住まう世界とは似て非なる異世界。
見かけは同じ日本としての像を形成しており、同じ姿の人間も大地に生を落とす。
だが、裏日本の人々の生活環境は、私たちとは大きく異なる。
具体的には、文明レベル、それによる生活手段、そして私たちにはない、自然現象などが挙げられる。
まず、人々の生活環境に車や電車、洗濯機や冷蔵庫といった、私たちの世界で言う生活必需品と呼ばれる機械たちは存在しない。
もちろん、スマホやテレビ、ゲームもない。
まるで一昔前の私たちの暮らしのようだ。
しかし、この世界には“機械”に置き換わる、いやもしくはそれ以上に、“優れた”現象が存在する。
──魔法
それは、無から有を生み出す奇跡の御業。
あらゆる科学を無視したその秘術を使い、人々は生活で食事を作り、洗濯をし、食べ物を冷やす。
魔法で水を造り、飲み水に。炎を造り生活に明かりを灯すこともできる。
そのため、文化も異なる。
人々はヨーロッパ様式の家に住まい、移動手段には馬を使う。
それはさながら、ファンタジーを体現した世界。
ただ一つの共通点は、私たちのいる“表日本”のように平和だった、ということ。
だった。すなわち、裏日本の平和はある時を境に、音も立てずに崩れ落ちた。
“魔王”
後に人々からそう呼称される者が、裏日本の世界を支配しようと目論んだのだ。
魔王は突如、裏日本中に“魔獣”を放ち人々を襲った。
“魔獣”は人々を見境なく喰い殺し、多くの人々がその命を奪われた。
そして人々は魔王の存在にひれ伏し、絶望した。
人々が行使する
故に、人々には──魔獣に抗う手段は持ち合わせていなかった。
魔王は暇もなく裏日本中を進行し続け、その大地は全て、魔王によって支配されようとしていた。
そんな、時だった。
“勇者”
そう名乗る者が、どこからともなく現れた。
その者は、ある村を魔獣の危機から守った。
その者は魔獣に襲われそうになる人を救った。
その者は誰も見たこともない強力な魔法で、人々を勇気づけた。
次第に勇者はどんどんその数を増やし、いつの間にか裏日本には勇者対魔王という構図が作られた。
その均衡は、約四百年に渡って続いていく。これからも、ずっと……
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