意味がわからん

エリー.ファー

意味がわからん

 愛してくれてありがとう。

 そんな手紙が届いた。

 誰から送られてきたのか、分からない。

 私が誰も愛してこなかったということはない。間違いなく、ありがとうを言われるくらいの愛し方をしたことはあるだろう。

 でも。

 不気味ではないか。

 それを言葉にして手紙として相手に渡す。その気持ちが全く理解できない。

 受け取った側がどのような気持ちになるのか、理解できていないのだろう。

 それは、私も同じか。

 相手がどのような気持ちで、言葉を連ねたのかなど想像もできていない。お互いが歩みっていないのだから、行動を起こした方だけに減点を与えるのは正しくはない。

 誰かに相談するべきだろう。

 電話を手に取る。

 何も考えずに電話をかける。

「あのさ、ちょっといいかな」

「うん。何」

「実は、愛してくれてありがとうって、手紙が来たんだ」

「ほう」

「誰宛てかも分からないし、結構気持ち悪いんだ」

「それを送ったのは俺だよ」

 一人目で犯人が見つかった。

「あ、君なんだ」

「でも、俺は愛しているだけじゃなくて、憎しみも同じくらい持っているよ」

 そして、かなり壊れていた。

「なんで、手紙なんか送ったんだよ」

「だって、ほら。そういうものだから」

「自分の思いを完璧に伝えるとしたら、手紙がいいだろうって思ったってこと」

「それもある」

「他には」

「特にない」

「じゃあ、それだけだよ」

「なんか違う」

「そう。例えば」

「別に伝わらなくてもいいと思ってた」

「なんで」

「だって、言葉だし。言葉ってそういうものだから」

「まぁ、意味は分かるよ。なんとなくね」

「言葉を文字にして、それが手紙になって相手に届いて解釈が発生する。自然的なものではなく、人工的で、凄く丁寧な感じがするんだ」

「それは、人間がそこに介入しているから」

「たぶん、そういうことだと思う。汚い話かもしれないけど、それが良いなぁって思って。手紙を使ったんだ」

「びっくりした」

「そうか、ごめん」

「いや、いいんだ。言葉が残るっていいね。特にそれがプラスの感情ならなおいいよ。すごく幸せな気持ちになれる。今は、まだそうじゃないけど。でも、あと一時間、一日、一週間、一か月、一年過ぎれば、あぁ、こんなこともあったなあ、なんて思い出すと思う。思い出すって尊いよね。感情の乗った過去が存在している証明になるから」

「ありがとう。そういわれると、手紙を送った甲斐があるよ」

 電話はそこで終わった。

 急に切れたのだ。

 私はまた電話をかけた。

 その時には泣いていた。

「もしもし」

「あんたどうするの。もうすぐお葬式始まっちゃうよ」

「うん、分かってる」

「喪服は持ってるの、あんたは」

「持ってる、持ってるよ。すぐに着て、すぐに行く。遅刻はするかもしれないけど、ふけるなんてことはしないよ」

「あんた、泣いてるじゃん。もう、泣くくらい悲しいなら、そもそもお別れに遅刻なんてしちゃだめでしょ」

「うん、そう思う。ごめん、お母さん」

「はい、じゃあとにかく来なさい」

「あのさ、お母さん」

「何よ」

「手紙は駄目だね。思い出しちゃうよ」

 そこで電話は切れた。

 私は電話を思いっきり壁に投げつけるとそのまま目を瞑った。

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