飛散のあわいに

ウワノソラ。

工芸科

 瀬戸内海からほど近い場所に「高松工芸高校」という県立校がある。その名のとおり、工業や工芸の専門学科が集結する高校なのだが、私はそのうちの伝統工芸を学ぶことのできる「工芸科」の生徒だった。


 クラスでただ一人、島からフェリーで通学する勤勉そうな生徒がいた。それが遥月はつきで、入学当初から私と同様にぽつねんとクラスで浮いていた子であった。

 初めて彼女をまじまじと見たとき、アザラシの子どもみたいだと思った。なぜなら茶色がかった瞳は、白い肌とあいまって愛くるしさが滲み出ていたし、まるみを帯びた小さな体は見るからに柔らかそうだったから。

 いつしか私は遥月と友達になり、弁当を一緒に食べるようになる。段々と調子付いてくると、彼女を揶揄ってやろうとしてよく抱き付くようになった。

 そうする度、「もう、怒るからね!」とお決まりのように大声があがる。

 私は腕のなかでもがく遥月をなだめつつ、逃げ出さぬように腕をきつくまわしてへらへら笑っていた。

「うち、抱きしめられるの苦手やのに……」

 白い肌が、耳が、赤くなっていくのを眺めているのが好きだった。


 一年の冬、隣のクラスの良輔りょうすけに連絡先を聞かれた。彼とは実習などの合同授業で顔見知りだったが、ほとんど話したことがなかったのでなにごとかと思う。そして二年になろうとする春先に、良輔に告白された。

 彼のことをまだよく知らなかったが、付き合ってみてもいいかもしれないと思った。直観的にそう思ったのもあるし、まだ誰とも付き合ったことのなかった私は付き合うというのがどういうものなのか興味もあった。付き合うのを承諾すると、彼はさっそく私の手を掬い取り握った。その手がやたらに熱かったのを憶えている。

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