相談
食パンにバターをつけてトーストにした、簡素な朝ごはんを食べ終え、二階の一番奥にある姉の部屋へ向かった。俺の身長ほどの高さのガラスケースに並べてある数々の表彰状やトロフィーは部屋に入った大体の友達を驚かさせるらしいが、並べてあるものが増えていく様を見ていた俺からすればもう見慣れたものである。それと共においてある高校卒業まで使い古されたシューズは、姉がどれだけ努力してきたかを物語っている勲章のように見える。
神崎 早織__高校はたいして有名な陸上部でないにもかかわらず、数多あまたの賞を持ち前のセンスとプライドで獲ってきた俺の姉だ。今年の春に俺の二個上の大学1年生となり、スポーツマンだった姉は今まで気にしてこなかった言葉遣いやファッションにも気を遣うようになった。少し焼けた肌に、俺と同じ遺伝的な茶髪、少しつり上がった穏やかな目は現役だった頃のスパルタな風格を感じさせない。長年一緒に住んできただけに可愛いとは思わないが、よくここまで化けたなあと思う。馬子にも衣装といったところか。
「ゆう、お前なんか失礼なこと考えてるだろ」
部屋に入って約5分、俺が話そうとする気配が感じられなかったのか、姉から話しかけてきた。一瞬心が読まれたかと思い、ビクンとなったが平静を装う。
「え、全然、これっぽっちも?」
「…………そうか」
「まどろっこしいのは嫌いなんだよ。話すなら早くしてくれ」
この姉に恋愛相談ができるかは定かではないが、覚悟を決め、昨日の一部始終を話した。
「なるほど」
「それはおかしいな……。話を聞いているとまだ相手の子はゆうを好きなように思えるけど?」
「えっ……。いや、それはないよ」
何せあんな冷たい目をしていたし、一日経った今でもあの時の彼女の表情が鮮明に残っている。
きっと俺が気が付かない内に愛想をつかされるようなことをしたんだろう。何度か考えても、それ以外に思い当たる節はなかった。
「でも、今まで順調にやってきたんじゃないの?約半年ほど付き合って、何の原因もなく別れるなんてのは、いくら恋愛に疎い私でも信じられないけど」
「いや、俺が悪かったんだよ。思えばそもそも俺と夢咲じゃ釣り合ってないし、なんで付合えたんだろうって感じだったし、……」
「へぇ、夢咲って子なんだ」
はっ…!気づけば名前が出ていた。恥ずかしいから名前は伏せておいたのに………。
「まぁ、話を聞く限り、私には原因は分かんないな」
「はぁ?なんだよそれ。まぁ元々期待してなかったけど」
「私より先に大人の階段を登ったからって調子に乗ってるなぁ?私ももうすぐ彼氏くらいできるんだからな!」
ビクッッ
「え、う、うん、そうだと思う」
大人の階段?
登ってるわけないだろ!まだ付き合って半年だぞ?しかも実質的に、一緒に帰ったり、弁当食べたりしだしたのは付き合い始めて1か月後くらいだし。俺がどれだけチキンか分かってないな我が姉よ。だが、当たり前のように言われては否定できなくなってしまう。別に童貞なのが恥ずかしいとかではない。決して。むしろ童貞も守れない男に何が守れるってんだ。
「…………もしかしてゆうって童貞?」
少し考える素振りをして、爆弾発言をした姉はにまにまと口元を緩ませている。
くそっ…………。なんでこんなに勘が鋭いんだ。大学の授業以外はランニングばっかしてる運動バカのくせに……。
「なんにも隠すことないじゃーん。今時ゆうの年で童貞なんて珍しくないぞー」
顔を俯かせ、冷や汗を流しながら沈黙を貫いていることを肯定と捉えたのか、フォローする気のない顔でフォローを入れてくる。
「もう...分かったからっ!」
解決には至らなかったが、話を聞いてもらって、少し楽になった気がした
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