第1話
さてさて皆さま。
突然だが皆さまは異世界転生というものをご存じだろうか?
当然知っていると思うが一応簡単に説明しよう。
異世界転生とは、死んだら、生きていた頃いた世界とは違う世界に転生、要は別世界に生まれ変わるというもの。ラノベの設定でよく使われ、流行っているジャンルだ。
異世界転生というのも様々で、色んなものがある。
例えば普通に異世界に生まれ変わる。
性別が変わるTS転生。
スライムとかみたいな魔物への転生。
剣とかみたいな無機物への転生なんてものもある。
こんな感じに多種多様な転生が生まれるくらいには、異世界転生というジャンルは人気なのだ。
なぜこんな話をしているのかって?
そりゃ俺が、
何と、
まさかの、
ガチで、
異世界転生したからである。
しかもしかもだ。ただの異世界転生ではなく、性転換。男から女への転換転生。TSしてでの異世界転生である。
まだ幼いが、黒髪でとてもかわいらしい容姿である。
なぜTS転生で喜んでいるかって?
そりゃ人それぞれかもしれないが、俺にとっては転生自体が喜ぶような体験だ。それに仮に異世界転生するにしろ、特に変哲のない転生より、何か変化のある転生の方が良い。ただ、さすがに無機物転生は結構・かなり・すごーく大変そうだ。魔物とかの転生もなかなかに大変そうである。
だがTS転生はどうだ。生前と体の勝手が違うという欠点はあったりするが、それ以外は特になし。TS転生が最も大変さが薄く、面白そうな転生ではないだろうか。
てなわけで俺はTS転生し、大変喜んでいます。
まぁ転生って言っても、前世の記憶とか全然ないんだけどなぁ。
なんとなく「あっ、そういえば私……死んだんだった」て何となく思い出した程度。生前の細かい記憶なんてほとんど覚えてない。覚えている範囲の記憶もなんかテレビとかで見てるって感じで自分の記憶という実感もあまり湧かない。てかこの口調も少し疲れる。
今世ずっと「私」で喋ってたせいで「俺」が何となく慣れない。
という訳で普段通りの「私」に戻します。
転生については置いといて。
私はアマツカエ・ウイという名前で今世で生を受けた。
私の生まれたアマツカエ家というのは結構な権力というのを有している。そして細かい話は省略するが早い話が当主争いというやつでドロドロの睨み合いや争い合いが起きている。一族内でもそんななのに本家、分家との仲も悪く、分家の方々もそれに干渉してくる。
それぞれが敵対しまくり、敵の敵は味方ではなく、敵だったりしたりもする。そんななので本当にドロドロだ。ドロッドロのカオス状態。
しかもひどいことにその争いは当主候補の思惑外でも勝手に起きるし、まだ当主候補じゃなくても巻き込まれる。本当にひどい話である。
そしてその争いに先日、私――ウイは見事巻き込まれたのでした。
いい迷惑である。
屋敷歩いてたら優しそうなお兄さんがいて、その人が飴をくれるって言うんで、私は大喜びで貰いまして。食べてみたらびっくり、その飴、薬入りだったみたいで、スヤスヤ眠っちゃいました。そしてその隙に見事に誘拐されてしまいました。
飴は薬特有の苦みも感じないほどの甘さでおいしかったです。
いや~やっぱり知らない人から何か貰っちゃだめだね~。
これからは気を付けないとだね。
反省、反省。
……。
……。
……。
いや前世あるんだろ!
肉体年齢より高い精神年齢だろ!
等馬鹿にされるかもしれないが、しょうがないだろ。
せめて言い訳を聞いてくれ。
そのときの私はまだ前世とか転生とか思い出していなかったんだ。肉体年齢9歳。精神年齢も9歳。まだまだ幼いのだ。
それに教育とかもまだろくにされてなかったし、しょうがない。しょうがないのだ。
……。
これもちょっと置いといてだ。
決して不都合だからとかではない。
決してだ。
今話したいのはこんなことではない。
私が記憶を思い出したのは誘拐され、助けられたときである。
そのとき私が見た光景が私に前世を思い出させたのだ。
私が見た光景。
それは戦いだ。
剣戟だ。
めっちゃカッコいい戦いだ。
アニメみたいなすごい戦いだ。
何を隠そう前世の私は戦いというやつが好きだった。
アニメとかで戦闘シーンがある度に、それを興奮しながら見てた。手に汗握り、ハラハラドキドキ、しながら見ていた。
そしてそんな戦闘シーンでも特に剣戟が大好きだった。技とかなんかに詳しくはなく、ガチファンから見ればニワカかもしれないが……それでも私は剣戟が好きであった。
中でも綺麗な女の人が刀を振るう姿というのはもう最高だ。そんなもの見たら大興奮の大喜び。簡単に言えば、いわゆる性癖なのだ。
今でもあの日の光景が脳裏に映る。
雨の中、背後から迫る男を華麗に切り伏せるその姿。
息の乱れもなく、容赦もなく、切り伏せるその姿。
流れるような刀の動き。
素人目で見てもわかる、技の凄さ。
斬られたところから遅れるように吹き出る血。
血が二人を中心に雨水によって広がっていく光景。
ちょっとばかしショッキングではあったが、その光景は本当にかっこよかった。本当に綺麗だった。美しかった。自分の乏しすぎる語彙では言い表せないぐらいすごかった。
あの全てが私の琴線を刺激したのだ。
そして私は前世があったことを思い出したのだ。
ショッキングな光景による精神ダメージで思い出したのかもしれないが、きっと違う。それは夢がないから絶対違う。絶対違う。
失礼、少々脱線した。
まぁ、そんなこんなで私は前世を思い出したのだが、それと同時にある思い今世の私に抱かせたのだ。
それは、
私もこんな風に戦ってみたいだ。
雨が降る中、向かい合う私と敵。
両者の肉体は雨によって冷やされてる。だがしかし、その心は戦いの熱によって熱く熱く燃え上がる。
ぶつかり合う両者。
剣と剣の衝突音が響く。
技と技がぶつかり合う。
互いの血が水たまりへ散っていく。
互いに一歩も引かずぶつかり合う。
泥だらけになりながら、その果てについに決着する。
妄想であるが、こんな風である。
私はこんな風に戦ってみたい。
こんな思いを私に抱かせたのだ。
ふへへ……。
ちょっと想像しただけだが、なんか顔がにやけてきた。
……。
失礼……。
兎も角だ。どこかの奇妙な漫画で主人公がギャングスターに憧れたように、私はあの戦いに憧れたのだ。
だけどそれって強くないと良い感じにならなくないか?
女の腕力で男と戦えるのか?
ご安心ください。そんなものは問題なし。
別に自分の格下とやるわけではないし、女とだけやるわけではない。しっかりと強い奴と戦って叶えるのだ。
強さに関しては私が努力すればいい。
夢というのは諦めずに努力し続ければ叶うというものだ。どこかの漫画の悪役だったが、その人もそんなことを言ってた。
それに何より、この世界には魔力というモノが存在しているのだ。
そう、異世界転生お約束の魔力である。この世界の人間は皆、魔力というモノを持っており、それを使えば例え非力な人間でも、魔力で肉体を強化することでいかようにも、強くなったりできるのだ。
前の世界では男と女では身体的に差があった。この世界でも基本はそうだ。ただし、ここでは魔力がある。
魔力があれば自分より身体能力が高い相手とも互角に戦うことは不可能ではない。
つまり男と女の差など問題なしなし。
私がめげずに頑張り続ければ必ず叶ういうのがほぼ確定したのだ。
そういうわけで私アマツカエ・ウイ9歳、TS転生者。今世の夢は『雨の中でカッコよく刀を振るう』です。
えっ?
雨は必要なのかって?
必要に決まっている。雨があるからこそかっこよさが増すのだ。
つまりはロマンだ。
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