第30話 面会室
「こちらでお待ち下さい」
看守さんが橋爪さんを呼びに行く。
するとすぐ、橋爪さんが現れた。拘置所の中はそんなにも密着しているのだろうか?
出てきた時の橋爪さんは、手を拘束されていたが、面会室の椅子に座る前に、拘束をほどかれていた。
「ーーは、橋爪さん」
拓海が笑った。
直人には、以前よりも清潔感があった。ホームレスとして生きていた時よりも、目がイキイキとしている。
「ーー拓海、、手紙が遅くなってごめんな」
直人が呟くように言った。
「それはいいんですけど、、どーしてこんな事をーー?」
それは、罪を押し付ける台詞ではない。
看守の前では言えないが、どーして俺の身代わりになって捕まったのか?
そう言う意味だ。
「ーー拓海、俺はな、、」
直人の口から大きな吐息が漏れる。
俺は黙って、次の言葉を待っていた。
「ーー退かないで聞いてくれるか?」
真面目な面持ちで、直人が言う。
「はい。そんなに改まって、どうしたんですか??」
俺は答える。
「俺な、拓海の事を「友達」とか「同僚」とか「後輩」ーーそんな風に思った事ないんだ」
ーーえ?じゃ、どんな関係なんだ?
疑問符を浮かべたまま、直人が話す言葉を待った。
面会時間は15分まで。
少しでも直人の言葉を聞いておかないと。
次は会ってくれないかも知れない。
「俺、、オレ、、拓海の事が、、す、、好きなんだ」
ーー好き?
ーー人間として??
ーーん?
「ーー好きって、人間として、でしょ?知ってますよ。俺も橋爪さんの事、人間として好きですよ」
「ーー違う。俺が言ってるのは、そう言う意味じゃないんだ」
ーーどういう事だ??
ーー俺の思考がその言葉の意味を、探しているうちに、面会時間が終わってしまった。
それは「面会終了」と言う看守の言葉で、15分が経過した事を知った。
「ーーごめんな。今日はこれまでだ、、」
直人が呟く。
そして俺も言った。
「直人さん、また会いに来ます。必ずーー」
「あぁ。待っている」
そう言った直人さんの表情に、暗い影が落ちた気がした。
結局、俺はこの日、そのままの俺を生きる、と言う事すら、橋爪さんに伝えられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます