第13話 現行犯

ーーこのやろー!!


胸ぐらを掴んですぐ、拓海は相手を殴り付けた。相手が驚いてひざまづく。

殴った相手の名前すら知らないのだから、怖いものだ。

相手は胸ポケットから何かを取り出す。

暗闇の中で、それはキラリと光った。


ーー凶器だろう。

拓海には一目で、それとわかった。


だが、拓海には凶器などいらなかった。これまでのケンカで一度だって使った事はない。

だから今回もーー。

そう思っていた。

しかし、揉み合ううちに、相手が持っていたナイフが相手の腹部を貫いた、、。


はぁはぁ。


そのケンカを覚めた目で見ていた人が、救急車を呼んでくれた。

相手を刺してしまった事に動揺して、俺もひざまづく。


「おい、あんた、、大丈夫か?」


そう声をかけて来たのは、白髪でメガネの老人だ。


「俺、、俺、、」


体が震える。

初めての体験だった。

人を刺して、ケガをさせるなんてーー。


「ーー大丈夫だ。あんたは悪くない。ケンカをやめさせようとしてたんだから」


白髪の老人が拓海の肩に手を乗せる。

その温もりが伝わってきた気がした。


数分後。

救急車とパトカーが到着した。周りにいた住人たちがその時の状況を警察に話してくれている。俺は相変わらず、震えたままうずくまっていた。


「山崎拓海、傷害事件の現行犯で逮捕する」


そんな事はこの街ではよくある話だ。だが、俺には初めての事だ。だが、世の中そんなに甘くはない。ケンカをやめさせようとした俺が、相手に重症を負わせ、そのまま警察に連行された。


ーー彼はどうなっただろうか?


まだ心臓がバクバクしている。


ーーそして俺はこれからどうなるんだろう?

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