婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします

結城芙由奈

第1話 婚約破棄宣言

 どうやら私は相当婚約者から嫌われているらしい―。



 私は放課後、今日も1人残って学園の家庭科室でドレスを縫っていた。今私が縫っているドレスは来月学園で開催されるダンスパーティー用のドレス。私は被服科に通っているので自分で作ったパーティードレスを着る事に決めていたからだ。


美しいサテンの青い生地に1針1針心を込めて縫う。私は裁縫をしている時間が大好きだ。このドレスが仕上がった時の事を考えるだけで胸が躍る。


その時―


ガチャッ!


ノックも無しにいきなり、乱暴に家庭科室の扉が開かれた。驚いて顔を上げると、そこに立っていたのは私の婚約者であり、同じ学園に通うこの国の王子…。


「こんにちは。ローレンス王子」


「おい、座ったまま俺に挨拶をするとは…随分生意気な女だな」


銀の髪をかき上げ、アンバーの瞳でジロリと私を睨み付けて来た。


「申し訳ございません。では少々お待ち下さい」


膝の上に乗せていたサテンの生地をテーブルの上に置き、待ち針に縫い針を差し込むと、立ち上がって膝を折って挨拶をした。


「こんにちは。ご機嫌如何でしょうか?ローレンス王子様」


そして深々と頭を下げる。


「…おい、顔を上げろ」


「…?」


言われた通りに顔を上げると、ローレンス王子はますます不機嫌そうな顔で私を睨み付けている。


「お前…俺を馬鹿にしているのか?」


「いいえ?」


一体何を根拠にそんな事を言うのだろう。


「いーや、絶対に馬鹿にしてる。そうでなければ言われたらすぐに立ち上がるはずだからな」


「すぐに立ち上がったではないですか」


「それは違うな。お前は膝の上の布をテーブルの上にゆっくりおいて、右手に持っていた縫い針を慎重に待ち針に刺したんだ。それだけで30秒は有していたぞ?」


ローレンス王子は細かい人物だ。


「30秒は大げさです。せいぜい20秒程ではありませんか?」


「いいや、違うね。俺はちゃんと時計の秒針をみていたんだ。正確には立ち上がって挨拶するまでに32秒かかっていた」


まさか秒針を見ていたなんて…。


「何て…」


下らない…。


すると私が途中で言葉を切ったのが気に入らないのか、ローレンス王子はズカズカと教室に入って来ると私の眼前でピタリと止まった。


「おい、今途中で言いかけてやめたな」


「いいえ、やめておりません」


「嘘をつくな。俺は知ってるんだぞ」


「知ってるって…何をでしょうか?」


「お前は俺にこう、言おうとしていたんだ。『何てくだらない』と。どうだ?違うか?」


凄い、当たってる。思わず黙ってしまうとローレンス王子はフンと鼻で笑った。


「ほら見ろ、お前の考えなど御見通しだ。全く…本当に可愛げのない女だ」


あ…。またこの前振りが始まった。そして次に出て来るその言葉は…。


「お前のような生意気な女はうんざりだ!ミシェル・カレッジ!お前とは婚約破棄させて貰う!」



ローレンス王子は本日、3回目の婚約破棄宣言をしてきた―。




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