第39話 [権利]
「えーっと……。完全記憶能力?」
「ん」
聞いたことあるな。見たもの全てを完全に記憶できる能力……とかだっけか。
だが、人間に身についた能力が魔法を無効化できるのか? ……何はともあれ、やばい状況――というかもう
「でも、他は?」
「え、なんのことだ?」
静音にまた質問された。
俺は洗いざらい全て話したはずだ。魔法以外にも、ソフィや仙式のことも。
「それ以外にも、強谷は何か持ってる……。私は、それが気になってる」
「それはマジでわからないな」
「そう……」
ソフィの予想が当たったのかもしれないな。自分でも理解できていない、自分の中にある何か。
とても唆るが、それよりも今がピンチ。
「でも、なんで今まで内緒だった? 私、口堅い。信用されてない……?」
「そんなことはない。秘密にしてたのはただ……危険なことに巻き込みたくなかっただけだ」
「なんだ。なら、大丈夫」
「? 何が??」
「強谷、秘密言ってくれた。だから私も、とっておきの話したげる」
そう言うと、静音はスマホをタップして誰かに電話していた。すると数秒後、この場に黒色の高級車がやってきた。
「え、乗れってこと?」
「ん」
「どうも……」
こうなったらなるがままで行こう。〝ケ・セラ・セラ〟ってやつだ。
そう思いながら、俺は車に乗り込んだ。
###
「到着ぅ」
「ここは?」
車に揺られること数分、到着した場所で静音に質問をした。眼前に広がるは、俺の家より数十倍でかい屋敷だったからだ。
「私の家。父母にさっき連絡したら、強谷に会いたいって」
「……もうちょいちゃんとした服装の方が良かったか?」
「いや、二人とも優しいからだいじょぶ。いこっ」
静音の背中を追い、屋敷の中へと入る。中はもちろん広く、豪華で、メイドさんに数人会った。さすがお嬢様と言ったところか。
そしてとある一室に連れてこられる。中には、静音に似た女性と、厳格そうな男性が高級そうなソファに座っていた。
「私の両親。母が
「初めまして、クラスメイトの最上強谷です」
とりあえず軽くお辞儀をしながら自己紹介をしたが、静音の父親――倫太郎さんがめちゃくちゃ俺のこと睨んでるな……。
「まあとりあえず座りなよ」
「あ、はい」
静音のご両親の前にある机を隔てたソファに、俺たちも腰を下ろす。
そして、倫太郎さんが口を開く。
「いくつか質問させてもらうよ。私の娘と知り合ったのはいつだね?」
「知り合ったのはつい最近ですね」
「どうして仲良くなったんだい?」
「静音……さんとは、そうですね……成り行き?」
なんだこの質問は?
その後も質問をされ、謎の面接を続けていた。
「ふぅ……やれやれ。もういい、わかった」
倫太郎さんは呆れたような溜息を吐いて立ち上がる。そして静音の方に近づき、手首を掴んでぐいっと引っ張った。
「父……? どうしたの、今日なんか、変……」
静音の父親は優しいとついさっき聞かされたが、全く正反対な気がするな。
というか、『お父さん』とかじゃなくて『父』呼びとは珍しいな。
「静音、お前には失望したよ」
「え……?」
「男女共学なのが悪かったのかね。早速女子校にでも転校させるか」
「ま、待って……なんで急にそんな……」
「こんな奴となど認められない。自由にさせたらこんなにもダメになってしまうとは……。将来の職場や、結婚相手も私たちの方から決めさせてもらうよ」
「や、なんで……!」
倫太郎さんは静音の手首をぐいぐいと引っ張り、そのまま部屋から出ようとしていた。アホ毛も垂れ下がっている。
俺は迷わず、静音の手首を掴む倫太郎さんの腕をガシッと力を込めて掴んだ。
「……なんのつもりだね」
「倫太郎さん……よ〜く聞いといてくださいよ」
ギロリと倫太郎さんの目を鋭い視線で見つめ、俺は口を開く。
「親はもちろん、〝子供を育てる権利〟がある。けど、〝子供の道を歪める権利〟なんて親には無い。自分の〝道〟は自分で決めるものだ。勝手に一人の人間の道を歪めようとしてんじゃねぇよ……!」
自分でも驚くぐらい、この時の言葉には殺意が込めていた。言葉に殺意を込めるのは久しぶりだった。
倫太郎さんが静音を掴む手を振りほどき、俺を睨んでくる。
「家の事情に首を……いや、全身を突っ込んでくる〝覚悟〟が、君にはあるのかね」
実質、こうなったのは俺のせいだ。俺が家に来なければ、こんな言い争いにもなっていなかった。
責任転嫁などしない。前を向くだけだ。
「覚悟なんか、とっくにできてますよ」
一触即発。この部屋全体がピリついていた。
そして――
「合格〜〜ッ!!!」
「――…………へ?」
倫太郎さんは満面の笑みでそう言い放った。さっきまでのピリついた雰囲気が嘘みたいに晴れた。
「いやっは〜、試すような形をしてすまないね、強谷くん」
「は、はぁ……?」
「君は果たしてふさわしいのかっていうのをちょいと試させてもらったよ。いや、いい子だね、強谷くんは! 母さんもそう思うよね!」
すると、ソファに座っている透子さんはコクコクと首を縦に振った。というか、さっき一言も喋ってなかったな。
「疑って悪かったよ! さ、私たちの面接は終了〜。楽しみたまえ〜」
「え? え??」
何が何だかよくわからないまま、俺たちは部屋を追い出された。
「……静音、どうゆうことなんだ?」
「私にもさっぱり……。父、たまにおかしくなるから、まあ大丈夫だと思う」
「へー……」
「でも、さっきはありがと。嬉しかった」
少しだけ口角を上げていた。
「長くなっちゃった。私の秘密、教える。部屋いこ」
「へいへい」
###
強谷たちが去った部屋で、倫太郎はニコニコとした表情で作業を行なっていた。
「いや〜、静音が連れてきた彼氏くんがいい人でよかったな、透子」
「…………」
無言でコクコクと首を縦に振る。
「今日は赤飯か……いや! 『覚悟はできてる』って言ってたし、もう結婚祝いをしてもいいかな!」
強谷と静音が知らない間に、勝手に話が進んでいるのであった。
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