第38話 [完全記憶能力]
俺がトイレから戻ると、静音を無理矢理連れ出そうとしている田辺を発見した。そんでもって、そいつを追っ払うことに成功した。
この前、俺を襲おうとした連中があの男の差し金で、それに失敗したと聞かされたことで俺の強さを思い知ったと言ったところかな?
というか、なんで自ら嫌われるような行いをするんだ? あの男は静音のことが好きなはずなのに……。やっぱ、恋愛とかはよくわからないな……。
「強谷……?」
「ん、ああ。なんでもない。次はどこ行く?」
適当にショッピングモールを回ろうと言われ、歩き出そうとしたその時。
『Gu……o……oo……!!』
「今のは……」
空から何かの鳴き声が聞こえてきた。空から魔力も感じられたのだが、何も見えなかった。
「なんだなんだ?」
「今なんか聞こえなかっかた?」
「気のせいだろ」
「いや、でもな〜んか変じゃ……」
周りの人たちも異変に気付いているようだ。静音ももちろん気づいているが、わかってはいないようだ。
「強谷、何、今の……」
(【
心の中で魔法の名を唱える。
すると、ショッピングモールの真上にある窓の外で、暴れながら飛んでいる黄色のワイバーンがいた。
ワイバーンは、前世ではポピュラーな存在の魔物だ。足は二本で、残りの二つは羽となっているものでドラゴンとは違う。
(ああ、成る程……〝ウィンドワイバーン〟か。姿を消す魔法を持っている種類のやつだな)
ワイバーンは姿を消していて、周りには見えていない。不幸中の幸いだな。
このまま放っておくいたら絶対周りに被害が広まる……。やれ、行くか。
「静音、少し様子を見てくる。ここでじっとしててくれ」
「私も行く」
「……だめだ」
「なんで?」
「危険かもしれないから」
「それなら、警察とかでいいんじゃ?」
「ぐむぅ……」
厄介だな。どうやって切り抜けるか……。
『GAaa……!!』
(くそっ! 時間がなさそうだ……!)
このまま行っても、後々面倒になる。記憶を消したとしても、感情が残ってしまう。すると、『静音の機嫌を直す』という目的が水の泡になってしまう。
と、なると……。
「行くぞ! 静音!!」
「へ」
俺は静音をお姫様抱っこして駆け出す。
記憶を消すのなら、静音に十分満足させてからにする。
その満足感でもう付きまとわれることもなくなる可能性有り。
一石二鳥だ!
俺たちはショッピングモールを一瞬で出て、近くの立体駐車場の一番上まで魔法を使って一気に登った。
「強谷、すごい身体能力……!」
「よ〜く見て満足しとけよ、静音」
あの上空にいるワイバーン、ただ倒すのはもったいないな。そうだな、喰らうか。
ソフィを【
「〝捕らえろ〟!」
上空に手をかざしてそう唱える。すると、手からソフィが使っていた鎖が飛び出て、ワイバーンをぐるぐる巻きに縛り上げた。
『GuUUOOO!!』
「安心しろ、すぐに楽にしてやる」
鎖を手のひらに戻すのを利用し、ワイバーンをこちらに引き寄せる。そして――
「【範囲結界・
俺のもう片手をワイバーンに向け、そう呟いた。その腕が漆黒に染まり、巨大化して爪が鋭くなった。
手は、漆黒の鱗を持つ竜の顎のようになっていた。
そして俺はその手でワイバーンをバクンと喰らった。
「ご馳走さま♪」
舌なめずりをしながらそう言った。
このスキルは結界であるが、相手を閉じ込める専門の結界である。
この結界に入ったものは、死ぬまで閉じ込められる。そしてその中で死んだもののスキルなどは全てスキル発動者に吸収されるのだ。
「きょ、強谷……今の、何……?」
「今の、というか、全てを話して満足させてやるよ」
俺は、今まで隠してきて全ての秘密を静音に話した。
前世の記憶を持っていること、魔法が使えるということ、最強賢者だということ。洗いざらい、全てだ。
「お、おお……! やっぱ、強谷はすごかった……!」
「ああ、ありがとう。そして――全部忘れろ」
「え……?」
「【
静音の額に人差し指を当て、魔法の名を唱える。
悪いな、静音。これはお前を危険な目に巻き込まないためだから、仕方がない――
「何を忘れる? 全部覚えてるよ。強谷はすごい魔法使ーい」
「はッ!?!?」
ば、馬鹿な……。俺の魔法は完璧に発動したはず……。もう一回だ!
「【
「これも魔法なの……? ……効いてないけど」
「な、なんでだ……?」
魔法が効かない体質? いや、そんなことはないはず……。魔法を受け付けない体質だったとしても、魔法はちゃんと発動するはずだ。じゃあなぜ……。
「あ……もしかしたら私が持ってる〝能力〟が原因かな……?」
「の、能力?」
「私――〝
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