【改訂版】最強賢者の逆転生 〜未知と強者を求めて転生したら男子高校生でした〜
海夏世もみじ
プロローグ [逆転生]
――ここは、剣と魔法が支配する世界。
そんな世界で頂点に立ち続けている一人の男がいた。初級魔法から極級魔法まで、使えない魔法はないのにも関わらず、魔法なしでも敵なし。生きとし生けるものは彼にひれ伏し、戦おうという気すら起こさせないほど。
さらにはこの世界の神との親交もあったりする……と、最強と謳われるには相応しい実力の持ち主であった。
そんな男の名は――クラトス・オーガスト。
また彼の異名は、この世界の頂点に相応しい、〝最強賢者〟という名であった。
そんな最強にも、誰にも知り得ない苦難があるのだった――
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人っ子一人寄り付かないようなとある山岳地帯。隆起した地形や、ゴツゴツとした岩肌が特徴の地帯だ。
そんな場所に、黒いローブを羽織っている男がいた。サラサラの黒髪に、宝石のように美しい琥珀色の目を持っているが、どこか異端さを孕んでいた。
『グルルルァァアアアア!!』
……今、俺の目の前で耳を穿つような咆哮を上げているこの黒い鱗のドラゴンは〝カオスドラゴン〟という。
冒険者間では、『Sランク冒険者でも倒せない!』と言われているほど強い魔物で、倒して素材を持ち帰れば英雄と呼ばれる……とかなんとか。
だが――
「はぁ……またお前か」
強靭な前足で地面を揺らしながらこちらへ走ってくるカオスドラゴン。俺はふぅ、と呆れ混じりの息を吐いた後に手をかざす。
そして、ボソリと魔法の名を呟いた。
「【
ドラゴンの咆哮よりも巨大な音を立てながら、ドラゴンは爆発した。煙が晴れると、そこにはドラゴンの骨一つ残っておらず、地面にはクレーターが出来上がっていた。
「ああああッ! なぜこうもこの世界の魔物は弱いんだ! どんな縛りを己に課そうとも弱すぎて相手にならんッ!!」
俺ことクラトス・オーガストはとても退屈している。
俺はもっと強くなりたいのだが、この世界の人々からは畏怖の象徴とされ、『最強賢者』とか言われたりしていて誰も相手になってくれない。魔物も瞬殺できるぐらい弱い。
未知を求めようにも、世界中の文書を読み漁る旅に出て数百年、もはやこの世界で知らないことはなくなったと言っても過言ではない。
(完璧……か。くそっ)
心の中でそう呟く。
――〝完璧〟。
人々は俺のことをそう讃えるだろう。
だが讃える人々は知らない。俺が、最強と歌われている俺が、この二文字にどれだけ苦しめられているのかということに。
完璧とはもうそこから伸びないということ。
できないことがあったとしても、そこからできるようになるからこそ楽しい。知らないことがあるから、『知りたい』という欲求に駆られて追い求めるのも楽しい。
完璧になってしまったら……それら全てが楽しめなくなってしまうのだ。
近くにあった岩に腰を下ろし、頬杖をつきながら目先にある岩肌と俺の間にある虚空をぼーっと眺める。
(この虚無感や喪失感を分かち合える仲間すらおらん……)
俺にも昔、仲間や弟子がいた。
だがその仲間たちも、俺に恐怖を覚えて離れて行ったり、『ついていけない』と言われたりして解散した。
弟子は愛情を込めて育て、門出を祝ったりしたが、一年後あたりに命を落としたと聞かされたり……と。俺の絶望はさらに加速した。
だから仲間も、弟子も、もう誰もいらないと思った。
「せめて、〝魔王〟や〝邪神〟が生き残っておればなぁ」
この世界を恐怖の色で染め上げた存在だ。
魔王は魔物を統べて人間の国を襲い、邪神はただただ破壊を尽くしていた。
だが不幸にも、その存在がいた時、俺は数十年の間地下で魔法の研究をしており、二つの存在は〝勇者〟という存在に倒されてしまったらしい。
「勇者とも戦いたかった……。はぁあ、あの時文書を読み漁りながら魔法を研究しなければ……。ん? 文書……?」
刹那、俺の脳内に古い文献文字が蘇ってきた。
「異世界、転生……!」
古い文献に書き記されていたことだ。
〝異世界転生〟。それは、別の世界に改に生まれ変わること。
文献に書いてあったことを元に魔法を作り上げたのだが、一度も使用したことがない魔法がある。
「そうだ――異世界転生しよう!!」
岩から立ち上がり、雲を貫くように拳を天に上げた。
別の世界からこの世界に転生してきた者は何万と見てきたが、逆にこの世界から転生しようとする者は指で数える程度しか見たことがなかった。
だが、俺もしてやるのさ……〝逆転生〟を……!
「ぃよ〜っし! なんで俺はこんな大事なことを思い出せなかったのだ? まあいい! ワクワクするな〜♪」
先程までの鬱屈とした気分はガラリと変わり、晴れやかな気分となった。
昔作り上げた転生魔法を少々改良し、無事に完成した。
「よし、完成したぞ! 転生魔法の完成だ!!」
以前の転生魔法だと本当に別世界に生まれ変わるだけだったが、少し改良して条件を付け足した。
一つ目、記憶をそのまま持っていける。
二つ目、生まれてからきっちり十六年経ったら記憶が戻る。十六歳はこの世界で大人だからだ。
三つ目、安全の確保の為、記憶が戻るまでは魔力などを全て封印しておく。
大体の条件はこのぐらいだ。
「『思い立ったが吉日』と言うが……最後にあの吟遊詩人の詞曲を聴きたいし、あの甘味も食べたいな……」
俺が好きなのは音楽を聴くことや、甘いものを食べることだ。
歌はまあいいが、この俺が甘いものを食べていると、ギョッと驚かれることがある。そんなに変なのだろうか?
「……いやッ! これから向かう世界の歌や甘味を堪能するために今は我慢しておこう」
邪念を取り除き、俺は魔法を発動させるために集中を始めた。
「スゥー……。よし、行くぞ!!」
地面についている足元に魔法陣が展開され、それが黄金に輝き始める。
その魔法が発動した瞬間、俺は微睡みに飲まれ、そのまま意識を手放した。
俺がたどり着いた世界は――
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