第200話会議前

 時刻は夜。

 魔界の夜は温度変化が更に激しくなり、外に出るものは殆どいなくなる。

 そうして家の中で行動していると眠気が徐々に頭の中を占領していくものであり、そんな中でアウローラは暖炉の火の温かさを感じながら聞いた言葉が本当にそうなのかという確認を、どうせそうなのだろうなという確信を持って改めて口にする、


「それでとんでも種族だったフェルを連れ戻しに悪魔たちが来て、そこの人達がやってきたと」


 アウローラが半分閉じかけていた視界をなんとかあけながらテーブルの方に目を移すと、おそらくエルピス達に連行されてきたのであろう悪魔が肩身の狭そうな思いをしているのだろう、周りの挙動にいちいちとびくびくさせながらアウローラの言葉にしっかりとうなずいた。

 ぎしりと音が聞こえてそちらの方に目を移してみれば、椅子に腰かけたエルピスが話を続ける。


「理解が早くて助かるよ。師匠は知ってたの?」

「ああ。一応私は元々世界の管理を任されている身だからな、エルピスが知らなかった事の方が驚きだ」

「確かに。邪神なのに自分に近い存在のこともわかんないのね」

「うっ、そこまで言わなくて良くない? 帝国の谷にいる長老の時も気づくの遅れちゃったんだよね」


 帝国の谷といえば龍の谷の事だろうか。

 何かをしに行ったという話はアウローラも聞いていたが、まさか龍の谷の長老も龍神に近いだけの素質を持っていたとはアウローラにしては驚きである。

 エルピスは思い当たる節がいくつかあるのか目に見えて落ち込んだ様子を見せると、それに対してフェルが仕方ないとフォローを入れた。


「なれる可能性があるとはいえ、なっていないので分からないのは当然ですよ。それに可能性があるとは言っても適正が0か0に果てしなく近いかの違いですし」


 可能性があるのとないのとでは大きな差異ではあると思うが、数千年は生きてきたであろうフェルですら己が邪神になれるのはまだ数億年は先の話だろうと考えているほどだ。

 とにかくはまず期間、それこそが神になるのに必要な工程である。

 途方もない程の長い期間を必要とするのは悪魔が寿命を持たない種族であるからであり、だからこそ悪魔は他の生物たちと違い神になるのに長い時を生きて寿命という逃げられない死の恐怖に近い恐怖を体にしみこませる必要がある。


「ほらフェルもこう言ってるし仕方がないよ」


 だからと言って分からなかったことを肯定する理由にはならないのだが、エルピスは出来たばかりの言い訳をそのままアウローラへと提出した。


「……まぁ別に追求しても何か変わるわけじゃないし良いけど、それでこの人達が来たのはフェルを連れ戻したかったからって理由だけ?」

「我々が来たのは協議会からの召集もかねてでございます」


 てっきり喋らないものかと思っていた悪魔の口から拙い人間語が話されるのを聞きながら、アウローラはそう言うことかと事の顛末を理解する。

 評議会といえば人類でいうところの世界連合のようなもの、どこの地域の組織であってもエルピスの扱いは困るところなのだろう。

 その扱いをどうするかを測られている等の本人はそのことに何も気が付いていないようだが。


「評議会? えっとなんだっけ、最古の魔物が集まって作ったとかなんとかフィアが言ってた記憶が……」

「僕と同じような始祖総勢9種からなる統治組織です、僕も一応加盟はしていますが一番大切なのは始祖同士の戦闘の禁止ですね。それさえ守れば出頭義務は基本ありません、毎回参加してるのも二、三名ですし」

「始祖の魔物か、私も一応御伽噺で聞いたことくらいはあるけれど、実際に目にしたことはないわね」


 評議会の実態は魔界でもふんわりとしか伝わっていない。

 それは目に見えた権力を評議会が保有していないことも関係しているが、なにより遥か太古の時から常にそうしてある評議会を世界のルールのように捉えている者も少なくないからだ。

 始祖種といえば人類の中でも存在するだろうと噂される程度の存在であり、その力の強大さが語られていることは勿論その不老に近い寿命が関係してかいくつかの物語にも出てきている。

 その中でももっとも始祖達の強さを知らしめたのは数千年前に起きた人類にとっての惨事、国家殲滅夜と呼ばれる一夜のものかだりだろう。


「俺もみたことあるよ。四大国クラスの巨大な国が一夜で滅んだらしいけど、実際のところはどうだったの?」

「滅ぼしましたよ。魔界の領土を寄越せとあまりにもしつこかったので、あの時はスッキリしましたね」


 何気なく聴いたエルピスもエルピスだが、まさかの当事者であったフェルはあっけからんとしてそう口にした。

 一体何人の人間が犠牲になったのか、それを考えると背筋を冷たいものが伝っていく。

 人類が生きて来れているのは上位種の期限を損ねていないからであり、機嫌を損ねてしまえばこうなるのだと見本を突きつけられたようだ。 


「そう聞くとフェルも途端に怖い悪魔に見えるわね」

「酷いですよアウローラ。僕はこんなに善良な悪魔なのに」

「善良な悪魔って単語自体胡散臭さが勝ってるけどね」


 だがいまさら会話していてみる目が変わるほどにアウローラも頭が硬いわけではない。


「──あの、フェル様。そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」

「いいよ、ここで話して」


 割って入った悪魔に対してほんの少し嫌そうな顔をしながら、フェルは顎を前に出して話を始めるように指図する。


「──ですが」

「話して」


 内部情報を外部に漏らすことを恐れた悪魔が躊躇いを見せるものの、始祖達との契約よりもフェルの一言の方が彼にとってはよほど恐怖に値するものだったらしい。

 渋々というような顔をしながら悪魔は本題を話し始めた。


「分かりました。今回評議会では来たる邪神復活に備えてどちらの側に着くか、その会議が行われる手筈となっております。悪魔の代表としてフェル様にも強制出頭が命じられております」


 邪神復活という単語を耳にして部屋の中の緊張感は上がっていく。

 エルピス達以外にこの情報を持っているのは破壊神の信徒だけ、だとすれば始祖達に信徒が接触している可能性も濃厚になってきた。


「ふん、面白くないな。強制出頭を要求してきたのも面白くないが会議でどちらにつくか決める? あいつら人間と接しすぎて考えまで寄ってきたんじゃないか?」

「君もだいぶよってきていると思うけれどね。フェルはああ言っているが面白そうじゃないかエルピス、形骸化して滅びゆく定めにある集団の最後は醜くて素晴らしいよ」


 悪魔としての立場を揺らがせないフェルに対し、数多の戦争を経験し様々な思惑を見てきたニルは余裕を見せながらそんな事を口にする。

 面子を集めるだけのトップと達成目標のない集団は、それらをまとめ上げる事実上の影のリーダーを失うか外的要因を与えられると存外簡単に崩れてしまうものだ。

 ましてや彼等は始祖と呼ばれる太古の魔物達、そんな彼等が約束を守っている現状の方が奇妙な光景であると言える。


「ニル悪いところが出ているわよ。とはいえ私も興味はあるわね、まずは悪魔の住処にあるものからかしら」

「ニルさんにセラさんまで参加したがるんですか? あんなの参加したところで意味なんかないですよ」

「二人がああ言ってるんだし参加してもいいんじゃないか? 俺もフェルの実家は気になるしな。友達の家って行ったことあんまりないんだ」

「……分かりましたよ。今日の夜我が家に招待します、ほんっと、これが最後ですからね? マルフェンに用意するよう言っておいてくれ」


 何故か乗り気な二柱の女神にお願いされてしまえば、さすがにフェルも相手が悪いというものだ。

 悪魔に対して雑に指示を出しながら自分も会議に出る準備を始めるのだった。


 /


「中々ですねこれは」


 そんな事を呟いたのはエラである。

 エルピス達がいまやってきているのは魔界の奥地にある悪魔達が住まう場所、そこに居を構えているのはフェルだ。

 王城よりも大きいのではと思えるような城は見事な西洋建築で建てられており、よく見てみれば仙桜種の村で見たのと似たような建築技法が使用されたのも見て取れる。

 相当古い時代の建物だろうという事は想像に難しくなく、そんな城を見ながらふとアーテが思い出したように話を始めた。


「アルヘオ家の本邸もこれッくらい大きな家を建てる話があッたッて話だぜ?」

「こんなに大きかったらメイドや執事のみんなが大変でしょ」


 確かに本邸を大きく立てるくらいのことは出来るだろうが、大きくなればなるほど管理というのは大変になる。

 あの本邸ですら虫や魔物の影響で一週間に一回は本格的な大掃除を結構しなければ家としての綺麗な外観を保てなくなるのだ、目の前にある城ほども大きい家を立てて仕舞えばどうなるか想像するのはそうむずかしくない。


「姉さんとのジャンケンにも僕勝ったしウハウハだね。人数多いと分割しないといけないのが嫌なところだけど」

「連れていく流れで置いてかれたセラに比べたら『出オチに使われた──っ!』って叫んでたアウローラもまだマシかな」

「仕方ない、私もついてくることになってしまったからな。セラには場所を開けてもらわなければ」


 今回のメンバーはエルピス、ニル、レネス、エラ、アーテの5人。

 全員できても良かったのだが、これから始祖達を相手にする手前フィアを危険に晒してしまう可能性がほんの少しでも存在するというのはよくない。

 もちろんクリムが常に側には居るものの、イロアスは調査のために出かけてしまっているので人数で押さえ込まれてしまうとどうしようとなくなってしまう。

 それを防ぐためにもある程度の人数は向こうにいてもらう必要があったのだ。


「まぁあっちはあっちでなんかするらしいし、手持ち無沙汰にはならないんじゃないかな。エラは何か聞いてる?」

「エルがこの前話してたくっ付ける計画と、あとフィア様の強化訓練をするとは効いているわ」

「フィトゥスも早く付き合えば良いのにね、まぁ本人達の意思が一番大切だけどさ。フィアに関しては頑張れとしか言えないなぁ、母さんの訓練は俺も嫌だし」


 結局やろうやろうと言っていたフィトゥス達をくっつける話もまともに進んでいないまま、物語というのは気がつかない間にずるずると先へと進んでいっている。

 母親の訓練を思い返しそれと同じことをするであろう妹の辛さを想像しながらも、時間があるようでないいまの現状にほんの少しだけ憂鬱な感情がふんふわと心の中で浮かび上がってきていた。


「──お待ちしてました。どうぞ中へ、主人がお待ちです」


 そうして歩いているといつのまにか目的地には付いているもので、黒い釣り目が特徴的な男の悪魔がエルピス達を出迎える。

 人相は凶悪そのもの、街中で出会ったら顔を逸らしてしまいたくなるほどだが悪魔と思って見ていれば逆にこういった手合いのほうがエルピスとしては楽だ。

 飄々として何を考えているか分からない悪魔というのはどうにも苦手である。

 言われるがままに後をついて行ってみれば長い廊下の先に見慣れた人物の顔があった。


「待ってましたよエルピスさん、この城やけに豪華な内装で落ち着かないです、けどこっちの方はそうでもないのでこっちに」

「フェル様困ります。お見受けしたところそちらの方はフェル様の召喚主というだけで無く邪神でもある様子、最高級の礼儀を持ってして対応することこそが私の仕事です」

「悪魔ってほんっと頭硬いよね、金遣いは荒いけどエルピスは庶民思考だからカーペットの値段のとか考えちゃうんだよ」


 最高級の場所へと用意されることに億劫さを感じていると、隣にいたニルからなんとも言えないフォローが入り目の前にいた悪魔からほんの少し微妙顔をされてしまう。

 払える金銭があるのと払うのはまた別問題だ、わざわざ消費しなくてもいい金銭を消費する可能性を考えると億劫になるのは、けして自分が庶民的感覚を持っているからではないはずである。

 そう言い聞かせていたエルピスの前で悪魔はそれならばと案内先を変更した。


「分かりました。失礼しましたエルピス様、どうぞこちらへ」

「気にしないでください。招待してもらっただけでありがたいです」

「エルピスはもっと胸を張っていていいんだよ? 邪神は彼らにとって創造主に当る神なんだからさ」

「ニルさんがそれを言うとなんだかなァ…ッて感じはするけどな」

「うるさいよアーテ」

「まぁニルの言いたいことも分かるけどね」


 自分を信じる者達に対しては堂々とするべきというのは、ニルのこれまで生きてきた中で培ってきた神としての感覚だろう。

 エルピスにはそれがまだまだ出来ていない、神としての立ち振る舞いをしようにも何かのモノマネくらいしかいまのエルピスにはどう頑張ったって無理だ。


「それにしても素晴らしい内装だな、村にもこんなに綺麗な品はそうはないぞ」

「そちらは数千年前にストゥディウム氏から頂いた品です」

「あの偏屈爺さんか、確かに良いものができたと昔転げ回っていたな」


 レネスの口ぶりからしておそらくは桜仙種の内の誰かなのだろう。

 ストゥディムという名前を耳にしたエルピスはそれが誰なのか予測を立てながらレネスが素晴らしいと褒めた作品に目を通してみる。

 確かに綺麗な壺だ、芸術的価値がどれほどのものなのかエルピスには分からないが値段が高そうなことくらいは理解できる。

 見てみれば廊下の先にもいくつか同じように作品が飾られており、その素晴らしい作品群に目を通しているとふと見たことのある作品がエルピスの目に留まった。


「人類の残していった品も多くあります。そちらなどはエルピス様がお造りになったとか」

「俺が昔フェルに用意した魔水晶。こんなところに置いてたの?」

「それ僕の身近に置いておくと悪影響が出るので、おかげさまでこの家の執事やメイド全員進化しちゃいましたけどね」

「確かに出てるね悪影響」


 あの時のできるだけの事をして創り出した魔水晶は、いま見るとあまりにも粗雑な作りではあるがそれに込められた魔力量はやはり魔神の権能を使って作っただけあり驚愕に値するだけのものである。


「それではこちらの部屋へどうぞ」


 まねかれるままにそうして部屋へと入ったエルピス達は、あまりにも生活感に溢れたその内装にほんの少しだけ違和感を感じる。

 貴族として育てられたエルピスはこれでも様々な貴族の家に遊びに行ったこともある、そんな経験から応接室というのがどういうものなのかなんとなくではあるが理解しているのだ。

 だが綺麗に整えられてはいるものの誰かが寝た後のあるベットや誰かが使ったのかほんの少しだけ出ている椅子、どちらもこの部屋の違和感を作り出すのには十分な条件である。


「ここは…応接室じゃないよね?」

「僕の自室です。普通は人を入れないんですけど、まぁこれだけ旅を共にしてきたらいまさらですよね」


 なるほどフェルの自室ならばこの部屋の内装も納得だ。

 昨日ここで寝泊まりしているから生活感が出ているというよりは、たまに何度かエルピス達の知らないところで帰っていたのだろう。

 部屋の中に入り適当なところに自分の居場所を作り始める各々であったが、そんな中でニルは椅子に腰を掛けるとフェルに対して目線を向ける。


「それで部屋に通してくれたのは良いけどさ、僕達に話があるんでしょ? ここなら誰にも話は聞かれないだろうし」

「さすがニルさん、よく分かってますね。そうです、この城なら誰にも聞かれませんから。部屋に呼んだのはまあ親愛の証ということで」

「一応魔法的にもいくつか妨害はしておいたよ」

「ありがとうございます。これでこの場はどの様な情報を垂れ流しても構わない場所に変わったわけですね。早速の報告になりますがおそらく魔族の意思としては人類との戦争を望みます」

「人類との戦争か、穏やかではないな」


 フェルの言葉に対してレネスの反応は冷ややかなものだ。

 そこに含まれた感情は侮蔑のそれにも近いものを感じざる負えない、わざわざとこのご時世に戦争をおこそうというものに対して冷たい目線を向けるなという方が難しいだろう。

 悪魔であるフェルの口から人類種としての戦争を望むという言葉が口に出たという事は、評議会の会議の方針が始まる前にほとんど人類と戦う方向に固まってしまっているのだろう。

 人や亜人種との契約を人生の大半とする悪魔たちですら抑え込めないほどに膨れ上がった戦争意欲は、いったいどうやって生まれたものなのか。


「我々魔族と呼ばれる知性ある魔物は亜人種達よりも更に実力至高です、力を持つものが正義であり弱者が淘汰されるのは当然であるとすら考えている。

 そんな彼等でも手出ししにくかったのが人の土地、人の土地は何かと融通が効きますので出来れば欲しい、だが真っ向から勝負を挑むと負けてしまう可能性がある」

「だから破壊神の力を借りてそれをなしとうげようと?」

「エラさん正解です。他者から受け取ったろくに扱えもしない能力を使用しようとするその豪胆さには僕も興味を感じますが、他人の力で戦っておきながら己達は何も害されることがないと思っている始祖達には吐き気すら感じます」


 同じ始祖でありながら始祖としての誇りを胸に抱いて生きているフェルとそれ以外はまた違うものなのだろうか。

 唾を吐き捨てんばかりの勢いでそう口にしたフェルを見ているとどうやら相当に呆れているらしい。

 人の土地というのは確かに気候の変動が激しいこの土地に住む悪魔たちからしてみれば据え膳の代物なのだろう、人類が新たな土地を求めて魔界を侵略するよりもよほど彼らの方が新天地を求めていたのだ。

 最高位冒険者という人の盾であり剣でもある英雄たちや人類種の国と交易を結んでいる亜人の国を相手にするほどの欲はなかったらしいが、破壊神という増幅剤が入ればそれもこれだけ簡単に崩れてしまう。


「だが始祖の魔物ッてェと強いんだろ? 敵に回しちまッても良いのか?」

「構いませんよ、あいつら大したことないですし。それに神の力を頼りにしてる敵に比べて、こっちは神が居ますからね。戦力差自体は考慮すべきではありません」

「そんなに信頼されても勝てるかどうかは分かんないけどね、精一杯頑張るよ」


 自信に満ち溢れているように見えながらこう言った戦闘では確実な勝機を求めるアーテの言葉に対して、フェルは大したことがないと断言しきった。

 エルピスが居る時点で確かに相当のハンデではあるのだが、そもそもフェルは始祖の中でも最強の存在である。

 フェルに近い実力を持っている者や一定時間だけフェルを超えられる人物もいないわけではないが、始祖同士の戦闘は自らの派閥に属している者達の総力戦なので最底辺でも一定の実力を保有している悪魔を統べるフェルは今まで負けたことなど一度もない。


「勝てますよ、本当にあいつら弱いので。おそらく今回の邪龍復活の件ですが、復活をわざと遅らせていたのは始祖のうちの誰かでしょう」

「復活をわざと遅らせる?」

「はい。エルピスさんのお父様であるイロアスさんと人類が予想していた期間から既に十年、龍種や我々からすれば瞬きの様な時間ですが確かに復活は遅いです。だとするとエルピスさんがこの場に来るまで復活を延長させていたと言う考えもできなくはありません」

「俺が来るまでわざわざ復活を……そうなってくると雄二の仕業か?」


 自分が来るまで龍を待機させておくことのメリットとデメリットを頭の中でこねくり回し、雄二のしようとして言う事を考えてはみるもののエルピスにはどうやっても考えつかない。

 視線をニルの方に移してみれば何かつかみかけているような表情をしており、セラの方を見てみればいつもと変わらない微笑を浮かべているばかりである。

 どうやらまだ何も対策は組めなさそうだと諦めたエルピスはフェルの言葉にひとまず意識を元に戻した。


「そうかもしれませんね。可能性は低くありません、事前に交渉していたとすればおかしい話ではないでしょう」

「もうさエルピス、評議会の会議に乗り込んだ方が早いんじゃない?」

「僕もそれを立案しようと思っていました。全員締め上げて言うこと聞かないやつから滅して行けば敵も減りますし楽ですよ」

「それ逆に敵増えるんじャあ…」

「まぁそうなるとは思ったよ。分かった行こうか、会議はいつから?」


 好戦的なニルやフェルが提案してくるのは予想していたが、エルピスとしても面倒ごとはさっさと終わらせてしまいたい。


「今日の夜です。あいつら早く来いってうるさいんですよね、食事を終えたらすぐに行きましょう」

「雰囲気もクソもないな」

「魔物なんてそんなもんなんですよ、本当に残念ながらね」


 心の底から残念だと口にしたフェル。

 だが彼が落胆するのはこれからの事だ、会議が終わりを迎えた時には彼の中で始祖たちは過去の産物となってしまうのだろう。

 戦闘に向けて準備をしながらエルピスはそんな事を思うのだった。

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