第142話完敗

「なんだか今日はよくない事が起きそうな予感……」


 目の前でヒビの入ったグラスを見つめながら、エルピスはだらっと身体を倒す。

 海神のところに行ったのが二週間前、王子達の会議に連れて行かれたのが三日前、当初の目的で有る海神とのパイプ造りと各国の情勢の把握ができたエルピスからすればここでする事はもう余りない。

 明日にでもこの島を出て帝国領へと向かいたいところでは有るのだが、エラ達の部活動の兼ね合いや、何より頼まれていたルミナの彼氏探しもまだまだ始まってすら居ないのだ。

 まだこの島を出る事は当分できないだろう。


「やめてよエルピス、君がそう言うと本当になりそうなんだけど」

「もしそうなったら庇ってくれよ灰猫……って今日も勉強してるのか、流石だな」

「これくらいやらないと勝てないからね」


 ーーそれに灰猫とフェルの事もある。

 エルピスの目の前でいくつも教材を出して勉強している灰猫にいくつか茶菓子を出しながら、エルピスは灰猫が見ている教科書の内容をいくつか盗み見ていく。

 やっている事は理解できるし再現しろと言われれば簡単に再現可能だが、それを求める為の計算式だの魔法陣だの魔術式だの、これら全てを覚える事などエルピスには到底できそうもない。

 その後も勉強をする灰猫の横でエルピスが本を読みながらゴロゴロしていると、ふと廊下の方から人がやってくるのが感じられた。

 扉を開けに行っても良いのだが一度決まった体制から動き出す気になれず、机に突っ伏したような体制のまま顔だけを出入り口の方へと向ける。


「ーーちょっとエルピス! 大変よ!!」

「絶対ろくな事じゃない気がするするけど、どうしたのアウローラ」

「すっごい美人でクールな如何にも厨二病っぽいお姉さんが港でエルピスを呼んでるの!」

「海龍の次のお客様がそれってうちの学園の港凄いな!? 分かったすぐ行く! 灰猫はどうする?」

「僕は勉強してるよ。行ってら」

「分かった、行ってきます」


 おそらくやってきたのは仙桜種の使いのものだろうが、なんだか嫌な予感がしなくもない。

 好奇心とほんの少しの不安感を抱きながら、エルピスは漁港へと向かうのだった。


 /


 たどり着いてみれば港にはかなりの人だかりが出来ており、何が起きているのかここからでは見えないが、ハリのある元気な声だけはエルピスの耳にもよく届いていた。

 人混みの最後尾に並び、なんとか見えないかと軽くジャンプして見物人達の目線の先を見てみれば、息を飲むほどの絶世の美女がそこにはいた。

 身長はおよそ170前半といったところか、今現在パーティー内でエルピスを除き最も身長の高いセラで160後半であることを考えると、かなり背は高い方だ。

 白いシャツには戦闘でできたであろう汚れがうっすらと見え、その上に羽織る黒いローブには隠れているが血痕がいくつか点在している。

 ジーパンのようにも見えるズボンには毒が付着した痕跡が見られ、相当の戦闘を経験してきた事がその姿から窺い知れた。

 エルピスと同じく黒い目と黒い髪をしているが、転生者というよりは先祖返りに近い雰囲気を感じる。

 外見の美しさに関していえばアウローラが美人でクールというだけあって、つり目と長身の外見は黙っていればクールなのだろうが、今目の前で口を開いて大衆の目を引く彼女には人懐っこさすら感じるほどだ。


「いつの間にかこんなにも人が集まって随分とまぁありがたい事で、でしたら私のとっておきのお話を一つ……と行きたかった所ですがおあいにく様、お時間がやってきてしまいました。ご縁があればまた話す機会もございましょう、それではまた」


 そう言いながら彼女が軽く踵を地面にぶつけると、目にも止まらぬ速さでエルピスの首根っこを引っ張りながら遥か上空へと飛びだす。

 他の生徒達からすれば急に消えたように見えただろうが、引っ張られている等の本人であるエルピスは首が絞められている事に不快感を抱きながらも無抵抗のまま上空へと引っ張られていた。

 飛び始めてから10秒ほど、雲に隠れて見えなくなった学園の方を見下ろしながら、エルピスは首の拘束を解き足下に魔力の足場を作り出しながらゆっくりと口を開く。


「ーー随分な引っ張り方ですね、首もげるかと思いましたよ」

「痛かったかい? それなら悪かったよ、謝ろう。とは言えラインの伯父様が負けた相手だ、これくらいで死にはしないだろう?」


 そう言いながら微笑む彼女の姿は先程までの陽気な姿とは違い、最上位の種族である仙桜種として相応しい冷たさと獰猛さを兼ね備えた笑みだった。

 思わずその笑みに軽く鳥肌が立ちながらも、エルピスはいつ戦闘が起きても良いようにゆっくりと自分達の足元に足場確保用の障壁を張っていく。


「そのラインさんから貴方が来た理由は伺っています、本来は村に行かなければ行けないところをわざわざご足労いただいて、ありがとうございます」


 エルピスも若干忘れかけていた存在ではあるが、彼女がここに来たのは彼女の口から出た通りラインという名の仙桜種をエルピスが一騎打ちで倒したからだ。

 仙桜種の村には仙桜種に勝った人物を招き入れ総当たりをする不思議な習慣があるらしく、そのためいつかはエルピスもその村にいかなければいけなかったのだが気を使って向こうからこちらに来てくれたのである。

 村の代表としてここに来たからはおそらく仙桜種最強かそれに近い物、実力だけで言えばエルピスの方が上のように思えるが仙桜種相手に力の差はあまりあってないような物だ。

 彼等の戦闘に関する技術力には目を見張るものがある。


「ーーなるほどなるほど。あ、いえすまない予想していた人物像と少し離れていたものだからな。ラインの伯父様を倒したものだから、てっきり力に全てを捧げた修行僧のような人物かと思っていたのだ。自己紹介が遅れた、私の名はアーコルディー・レネス・ティア・アーベスト。純血の仙桜種にして仙桜種最強の父と母の娘、レネスと呼んでくれれば幸いだ。手加減は為されませぬよう」

「できる相手じゃ無いですよ、それと私の名はエルピス・アルヘオと申します」


 虚空から刀を出現させ、腰を深く落とした彼女の姿を見ればエルピスに油断出来るほどの余裕は無くなる。

 開幕の一太刀はどちらが行ってもおかしくは無い、相手に隙が生まれたと思った方がその一瞬を切り結ぶだけだからだ。

 海神相手に邪神の障壁が簡単に破られた以上ーーとは言ってもあの時のアレは非戦闘時のものではあったがーー仙桜種である彼女が破れないと思う方がおかしなはなし、エルピスは貼り直した障壁を過信せずにゆっくりと相手の出方を待つ。

 そんなエルピスに痺れを切らしたのか、それとも元々そうするつもりだったのか、レネスがゆっくりと口を開いた。


「では開幕の一太刀は私から行かせていただこう」

「良いですねそう言うの、嫌いじゃ無いです」


 腰を深く下ろした姿勢から、彼女はさらに上体も深く下へと落とす。

 刀身はまだ鞘に収まったままであり、所謂所の抜刀術を前にしてさしものエルピスも対処に困り障壁と鱗の強度を高め相手の出方を伺うことしか出来ない。

 抜刀術はエルピスの記憶が確かならば刀を抜いていない状態から素早く切り出す為の技、こちらが抜くのをわざわざ待ったと言うのに武器を抜かなかったという事は、つまり彼女の戦闘スタイルが抜いた状態よりも今の状態の方がなんらかの利点があるという事の証明である。

 みしりと彼女が足を踏み出したその瞬間に、エルピスは無詠唱で爆破魔法を唱えお互いの間に超高熱の爆風を呼び出し、遥か後方へと龍神の翼で飛翔した。


「ーーッ上か!!」

「遅い」


 タイミングは完璧、飛翔の出だしも後から追いつける速度ではなかったはず。

 だが〈神域〉には確実に付いてきている彼女の姿が確認され、上から刀を振り下ろそうとするレネスに対して滑り込ませるようにエルピスは刀を入れる。

 瞬間レネスの言葉と共に耐え切れないほどの圧倒的な力によって、エルピスの身体は遥か下まで身体がばらけてしまう程の速度を持って叩き落とされた。


「ーーグッ、ガハッ!」


 気がつけば周りは遥か海の底、上空から叩き落とされたことを考えるとかなりの距離を吹き飛ばされた事になる。

 痛みを堪えるために奥歯を噛み締めては見るものの、あまりの衝撃に叩きつけられた瞬間肺にあった空気が全て外へと押し出されていく。

 神人であるエルピスには呼吸が必要ないので空気がなくなっても問題はないが、叩きつけられた衝撃によるダメージは計り知れないものがある。

 獰猛な笑みを浮かべこれ以上ない殺意を持ってこちらに向かってくるレネスに対し、エルピスは周りの海水を全て押し退け刀を大きく上に構えた。


「いってぇなぁ! やってくれんじゃねぇの!!」


 直後空から目にも留まらぬ速さで降ってきたネレスの刀をエルピスが受け止めた事で、海底に大きな峡谷が作り出される。

 それはレネスの力とエルピスの防御力が如何程なのかを物語っており、魔法でなんとか動かないように堪えながらもこんな攻撃を先程受けたのかとエルピスは冷や汗を流す。

 大声で叫んでわざと隙を作り出してみたもののその隙に反応してくれるほど甘くは無いらしく、じっくりとこちらを見据える彼女の目はどう料理しようか考えているようにも思える。

 現在は魔神の権能を重視して使用しているので、魔法を発動させる事に関して言えばなんの問題もありはしない。

 お互い軽く距離を取り合った瞬間にエルピスが軽く右手を振るうと、光の速度で矢のような魔法がネレスの方へと飛んでいくが、多種多様な光線がその柔肌を傷つける事なく過ぎ去っていく。


「魔法はそちらに分があるか、だが当たらなければ問題はない」

「まだ終わってないぞ、遠隔起動〈爆〉!!」


 エルピスが起動の命令を出した瞬間に、付近の海水が蒸発してしまうほどの圧倒的な熱量による爆発が発生する。

 一つ一つの爆発が国級魔法にも匹敵するであろうそれは無数ともいえる回数の爆発を辺りに撒き散らし、魔神の権能によって魔法による攻撃を受け付けないエルピスを除き付近の生物全ての命を蹂躙していった。


「ーー来ると思ったよッ!!」

「これを避けるか、面白いッ!」


 だがその爆炎の中からまるで何事もなかったかのようにレネスに対し悲鳴にも似た声を上げながら、エルピスは痛みに耐える覚悟を決める。

 刀を真っ直ぐエルピスの方へ向け、突きの動作を始めたネレスの刀にエルピスは刀ではなく自分の掌で対抗した。

 いくら龍神の鱗を持つエルピスと言えど掌はその鱗の守備範囲外、それでいても硬いはずのエルピスの肌はまるでそれがそうあるべきかのように簡単に切り裂かれ骨を絶たれ上腕まで刀が達してようやく勢いが止まる。

 そうされることも織り込み済みだとでも言わんばかりに刀を即座に引き抜こうとするレネスに対し、エルピスは魔神の力で腕を超高速で回復させると刀が刺さったままの腕でネレスの顔を思いっきり殴り飛ばす。

 海水を押し退けぶつかった魚を肉片に変えるほどの勢いで水中を勢いよく吹き飛んで行ったレネスを追いかけるようにして、エルピスは深く海底を蹴り飛ばして先へと進んでいく。


「戻れ沈丁花じんちょうか

「ッッ!! 痛いんだよ誰が戻すかお前に!」


 主人の呼びかけに反応しているのか急激にレネスの方へと引っ張られる刀を、肉を切らせながらエルピスはなんとか抵抗して引き止める。

 回復して直しての繰り返し、精神にかかる疲労は尋常なものではない。

 なんとかしてこの刀を使い物にならなくしたいのだが、鍛治神の知恵を持ってしてもこの武器を変質させることは不可能だった。

 権能を使えれば話は別だろうが、今この場に置いて生産職の神の権能を使用できるだけの余裕はエルピスには全くない。

 強引に回復で誤魔化している間にもエルピスは左手で、相手は素手での戦闘は行われ圧倒的な戦闘経験の差を、持ち前のポテンシャルと勘のみでなんとかエルピスも食らいついていた。

 近接戦をやめさせ遠距離戦に移行しようと遥か彼方に飛ばしてみるが、不思議な移動方法で気がつけばいつのまにか背に廻られている現状に、エルピスも手を焼くしかない。


「はぁっはぁつ、セラよりもキツい相手は初めてだ、さすが神を殺せる種族だな仙桜種は。もう立ってるのもやっとだよ身体は痛いし戦闘は長いし異様に避けるし硬いし、それに殺す気満々じゃないか」


 聞いていた話と違うと言えば負けを認めてしまったようで嫌だが、こちらを殺すつもりは無いのではなかったのだろうか。

 もし本当にそうなのだとしたら、剣を重ねるごとに笑みを浮かべ不気味な声と共に殺意の衝動を高めていく彼女をどうにかして止めて欲しいものである。

 半ば暴走状態になりかけている彼女を前にしてエルピスの心にも若干の恐怖心が湧いてくるが、それをなんとかグッと飲み込み再び剣に集中していく。


「ーーァハっ! 良いじゃない野暮な事を言うなよ、殺し合いをしに来たんだそうだろう? 武器を持った戦士が二人、どちらか強いか決めるために来てるんだ、殺しあわなければ意味が無いじゃないか! もっと限界を! もっと高みを! もっと死力を尽くして殺しに来い! それとも君はそんなものなのかい? エルピス君」


 レネスが吠えたのには訳がある。

 彼女もどちらかと言えばエルピスの様に冷静に、相手を囲い策略に落とし何もできないようにしてから安全に一つ一つ牙を落としていく方が性に合っているのだ。

 だが今回レネスがここに来るにあたって叔父からエルピスの強化も、もし可能であれば行えと言うふうにお願いされている。

 数多の戦闘経験から予測するにエルピスは本来戦う事を楽しむタイプだ、いつの間にレネスと同じような戦闘形態に移行したかは不明だが、おそらくは神の力を持つ事による余裕が安定した勝利を得る為に今のエルピスの戦闘方法を選択させたのだろう。

 悪い事ではないがそれでは更に上には辿り着けない、愛するものを失った時の怒りに勝る方法はないが、同程度の実力を持つものとギリギリの戦いをし続ければ何か上に登るための物を見つけてくれることは、この数度の撃ち合いで既に把握した。


「すぅーはぁーっ、煽るなよ剣先がブレるじゃないか。言われなくても本気でやるよ」


 なんの躊躇いもなく腕に刺さった刀を引き抜くと、エルピスはレネスにそれを投げ渡す。

 わざわざ刀を渡しても自分が不利になるだけなのはエルピスも理解しているが、もし今勝ったとして刀があったらなどと言われても無いと思うがしゃくに触る。

 それならば完全に言い訳のできない状況で、完璧な勝利を得る事こそが今のエルピスのなすべき事である。

 自由になった右手で左手に持った刀を軽く指でなぞると、エルピスの指先から漏れ出た黒い液体が刀をゆったりと伝っていき次第に刀を黒く染めた。

 邪神の毒と呪いの合成体、生物が触れればその瞬間に命を取られかねないそれを不老不死相手に振るう。


「ーーッ!」


 初めてレネスが膝をついた。

 膂力はそれ程変わっていない、変わったのは殺意の質だ。

 訓練のような実践のような、不確定な殺意の狭間にあったエルピスの心を、痛みと怒りで無理やりこちら側の殺意へと引っ張ってきた。

 無駄をなくせばそれだけ力は研ぎ澄まされ、力が研ぎ澄まされれば戦闘において無駄は減っていく。

 怒りに身を任せなかったのは予想の範囲外ではあったが、これはこれで悪くない。

 エルピスが強くあれば、強くなればそれだけで構わないのだ。


「ーー危っ!? お前ら何してんの!?」


 吹き飛ばされた先にいた海神を押しのけレネスは前を見据え刀を構えなおす、先ほどまでの剣ならば切られても一度死ぬだけで済むだろうが今のエルピスの剣に切られれば何度死ぬか分かったものでない。

 この少ない戦闘時間で早くもエルピスがレネスの剣に慣れ体術や魔法まで使用してくることに鬱陶しさも感じつつ、一瞬のスキを縫う動作で右足をエルピスの腹にたたきつければ骨が折れる感触とともに内蔵の柔らかさも感じられた。

 だが神相手にこの程度の傷有って無いようなものだ、膨大な魔力とでたらめな鱗の固さに加えて尋常でない精神力は、生半可な傷では致命傷を与えることもできない。

 神相手に最も警戒しなければならないのはその耐久性、彼らを倒すには一撃でしかも一瞬でなくてはいけないのだ。


「失礼しますよ海神! 少しこの女性に痛い目見せないと気が済まないのでね!!」

「吠えることが出来る体力を残しているのならば重畳、やれるものならやってみろ!」

「いいじゃねえかやってやんよ! 後悔しても遅いからなこんにゃろう!」

「人の話聞けるほど余裕なさそうだなったく。命の危険みたいだけど仙桜種とやってるって事はさてはあいつらお得意の試練か、レヴィ周辺を閉鎖しろこれ以上被害を出されても面倒だ」


 海神によって周辺が見る見るうちに結界に覆われ、先ほどかあちらこちらに吹き飛ばされていたエルピス達もこれでようやく決まった範囲で戦える。

 海龍が周辺の生物を追い払ったことでさらに二人の戦闘は加速していき、余波だけでも十二分に他の生物を殺せるだけの暴力が辺りにまき散らされていった。

 お互いに感じてから相手の攻撃を防いでいるので、何もわからないものが見ればお互いに事前に何をするか知っているように映るだろう。


「次が最後の一手です、覚悟はよろしいですか」

「もちろん」


 最初と同じくネレスが上体をゆっくりと下すと、エルピスは母から教わった通りに身体を半身にし刀を握る右てを前に出して、開いた左手で途方もない数の魔法を同時に起動する。

 身体強化から始まり目潰し弱体化、状態異常などなど、パニックに陥ってもおかしくない状態に追い込まれていながらもレネスに一切の動揺は見られない。

 ただ次の一撃を確実に決めるため、必勝の一撃のために己の全てを込めてその刃をエルピスに向ける。


「行きます」

「ああ、来い」


 ーー結果から言えばエルピスは完膚なきまでに敗北した。

 父と母を除けば本気の戦闘で負けたのは初めてだ、自らの力がまだまだであることは分かっていたが、それでも神以外に負けることは無いとタカを括っていたのだ。


「完敗だよ、全部やったのに負けちった。あーやだなぁ……悔しい」

「龍の息吹を撃たれていたらさすがに危なかった、それに危険な場面は無かったわけじゃない」

「当てられなきゃ意味が無いんだよ、それに龍神の息吹だって邪神の呪いだって全部当てて初めて成立するもの、当てる技術がない時点で負けは負け。あと敬語やめて調子狂う」


 ここで自らに言い訳をし、運が悪かっただけで次回やれば勝てるかもなどと思わせてしまえば、まず間違いなく今回の敗北の意味がなくなる。

 安いプライドを守る為だけに今回の敗北を軽いものにしてしまえば、次同じような実力者が殺しに来た時間違いなくエルピスの首は飛ぶことになるだろう。

 だからエルピスは負けを認める、ここで認めて次に勝てればそれで良いのだ。


「えっとさ……こう言うのはなんだけどもう一戦どう?」

「もう一戦か、良いとも。何度でも屠ってあげようじゃ無いか、それこそ君が望む間はね。終わりがいつになるかわかった物じゃ無いけれど」

「死ぬまで、ですかね」

「なるほど、良いねぇ面白い。ほとんど不死身に近い神を殺せるのかどうか、私も少し気になってきていたところなんだ付き合うよ」

「おいおいここでまだやるのか? ったくしょうがねぇなお互い頭に血が昇ってるから話も通じないだろうし、つまみと酒持ってくるからちょっと待ってろ」


 少し落ち着けばエルピスの身体は戦闘前と同じ状態に戻っており、負けてすぐ恥知らずではあるがすぐにレネスに戦闘を挑む。

 心持ちは入れ替えた、経験値増加Vによってこの戦闘の速度にも慣れてきている。

 次こそは絶対に勝つと意気込むエルピスの側で、海神はため息をつきながら見物を始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る