第103話夜襲

 王国内に存在する六つの大きな街の一つ、商業街ルンタ。

 普段なら国外から訪れた商人や、他国を回る冒険者など様々な国籍の様々な人達で賑わう活気溢れる街なのだが、今日限りは普段の楽しげな空気もなりを潜め、静けさだけが街を覆っていた。


「静かですね……人間の気配どころか、小動物の気配すら感じません」

「昨日の内にグロリアス主導の下全員逃したからね。

 この街に残ってるのは軍関係者と王族の人達。あと俺達だけだよ」


 疑問を投げかけてきたフェルに対してそう言いながらエルピスは眼前に迫る亜人達の群れに技能〈威圧〉を使い、こちらに向かって弓を射ろうとして居た者に対して牽制をかける。

 いま眼前に広がる軍勢がこの街に到着したのは今朝日が登って少ししてからだったが、この軍は亜人達の本軍では無く別働隊。


 それでも五千はいるが二万以上の亜人種がいる本軍は時間的に言えば明日辺りには到着する見込みで、それまでの無用な戦闘はこちら側の被害を増やすだけなので、こうして睨み合いとなって居るのだ。


「あんな距離から狙って弓やなんて当たるものなの? 銃ならまだしも──ひぅッ!?」

「油断してると危ないよ? この世界で銃が発達しなかったのは、龍などの硬い鱗がある生物に対して効かないていうのももちろんあるけど、一番の理由は弓で撃った方が早いからだよ」


 アウローラの頭に向かって一切の躊躇なしに撃たれた弓を、すんでの所で掴み呪いがかけられた矢をへし折りながら、エルピスは警戒する様に言う。

 これもこちらより数が少ない相手に対して、わざわざ戦わない理由の一つなのだ。


 本来なら下から撃つより上から撃つ方が強くそれは射撃戦の常だと聞いたのだが、なに分空を飛んだり物理法則に従わない矢を放ったりする相手に対して、城壁の上から弓を打てる防衛側の利点など相手が見やすいくらいしかない。

 それにしても──


「森霊種がいるのは分かってたけど数も多いね。ひっきりなしに打ってくるからおちおち人も上げられないよ」


 城壁から陣地までかなりの距離があるのだが、どうやら1キロ以内の距離であれば彼等からすれば眠っていても当てられる様な距離らしい。

 既に見張り台に立っていた人物が三名以上負傷しており、防具を着込んでいたおかげでなんとか即死を免れて生きているが戦線離脱は確定だ。


 これ以上無駄に兵士を減らさないためにこうしてエルピス達一行が見回りをしているのだが、避けられると分かっていても森妖種達はストレスを与えるために時折矢を放ってくる。


「それにしても珍しいですね、森妖種エルフが性濁豚と行動を共にするとは」


 疑問を口にしたのはフェルである。

 悪魔として長い年月を生きてきた彼の視点から見ても珍しいのだ、いかに稀有な事例か判別は難しくない。

 そんなフェルの言葉を肯定する様にしてセラも同じく疑問を感じている様だ。


「確かに森妖種と人から呼ばれる程に精霊と親和性が高い彼女達が、性濁豚オーク達の言いなりになるのは珍しいわね。

 精霊は醜く汚い物を心の底から嫌うし、精霊と仲のいい森妖種エルフもあそこに入るのは嫌だと思うのだけれど」

「えっ!? 森妖種エルフって性濁豚オークと最も仲のいい種族のうちの一つでしょ!?

  だって本だとあっは~んでうっふ~んな感じに良くなってるじゃん」

「随分とまたニッチな同人誌読んでるねぇ」


 随分と古臭い表現で表して居るアウローラに対して、心なしか先ほどより増えた矢を防ぎながらフェルがその問いに答える。


「そんな事絶対起きませんよ。もし森妖種エルフ性濁豚オークに捕まったりしたら、その瞬間に自身に即死魔法かけて終わりですよ」


 何処か苦い記憶でも思い返す様な顔をしながらそう言ったフェルの言葉に、そう言われればそれもそうかとアウローラは納得する。

 自分だってもしあんな奴らに捕まって、エルピスに対して醜態を晒すなら潔く自決するだろうと思いながら。


 だからアウローラはその思考の中で生まれた疑問を、そのまま口に出す。


「じゃあなんで彼処に居るんだろうねぇ」

「……さぁ?」


 答えたのはエルピスかフェルか、誰にも分からない問いは数分その場の空気を支配した後に何処かへと霧散していくのだった。


 f


「偵察の結果、敵には森妖種エルフだけでなく他亜人種数種も居ることが判明しました」


 円卓の机に座りながらこちらを見る数十人の視線に答える様にして、エルピスは声が震えない様に気をつけながら書類を読みつつそう口にした。

 本来ならこんな書類など見なくともこの程度の内容なら暗記出来るのだが、正直書類を読んでいるフリでもしていないと大勢の前で話すのは恥ずかしい。


 そんなエルピスの心情を知ってか知らずか、紅葉が頬をぷっくりと膨らましながらエルピスに対して不満げな表情を向ける。


「エルピスはんの中ではあれが偵察ゆうんかい?

 女の子と手ぇ繋いで偶に庇ったりしながら相手さんを見るのが偵察……私にはそうは思えんのやけど?」

「いやさ、その…今回は偶々そう言った感じになっただけであって、普段はこんな感じではないんだけど……」

「別にうちだって顔真っ赤にしながら怒っとる訳やない。

 単純に聞いとるだけや、エルピスはんはあれが正しい偵察の仕方やおもて、やっとったんやな?」

「はい、もうなんかそんな感じです」


 エルピスが口論の際に最も言われるのが苦手な、怒っているわけでは無いと言う単語に無意識的に頭が口論を諦めて、素直に認める事にする。


 ぶっちゃけ普段からあんな感じではあるし、攻めちゃダメとグロリアスに言われている以上はあんな感じになるのも仕方ないと思って欲しい所ではあったりするのだが……。


 周りから見ればいつの間に仲良くなったのかと言いたいところではあったが、紅葉がエルピスと仲良くなろうとしていたのを中学の時から見ていた遥希はその光景を微笑ましそうに見ていた。


「じゃあ今度私とも偵察に行こか。同じ方法の偵察にな」


 紅葉の背後に見える鬼の仮面を被った何かを必死に意識から外しながら、エルピスは全力で首を縦に振り自身の生存権を取得する。


 触らぬ神に祟りなしだが、近づいて包丁を振り下ろす寸前の鬼神にはむしろ触り倒して謝り倒すくらいがちょうどいい。


「それで話は振り出しに戻るわけだが、敵の本隊は明日辺りに着くんだろう?

 ならなんで俺達を呼んだんだ? もう夜だってのに」


 敵が動くであろう範囲と距離を紙に書いて事前に渡していたので、それを見ながら遥希はエルピスに対して疑問を投げける。


 確かに表向きには戦闘は明日からとなっているし、グロリアスにも明日から動くという旨を伝えた。

 そして今の時刻は日本の時刻で夜の11時。

 正確な時間こそないが今日が終わりに近づいてきた時間帯だ。


 つまり何が言いたいかと言うと、正直な話王国騎士団が前線に出ると死ぬ確率がかなり高いので、エルピス達が先に敵の部隊を可能な限り削っておこうと言う作戦である。


 昼間はグロリアス直々に勝手に攻撃しちゃダメですよと言われていたので、森妖種エルフに攻撃された時もやり返さなかったのだが、あと一時間経てば王命で動く事ができる。

 つまりエルピスはグロリアスの意見を尊重する事が出来て、グロリアスもエルピスに対して文句が言えない。

 一石二鳥とはこの事だろう。


 だがその事を察したであろう一部の──主に後方支援しか出来ないニ人の顔が見る見るうちに青ざめる。


「ま、まさかいまから戦闘とか無いよな」

「………っ!!」

「小林くんこの時くらい喋ろうね。

 それでだけど遥希の言う通り実際に今から攻めます。そして相手がどんなもんか見極めます、異論は認めません」

「どんまい旬斗、ああなった晴人はもう誰にも止められねぇよ」

「いや止めろよ! 一番仲の良かったお前が止めろよ!? 俺死んじゃうよ!?」

「大丈夫大丈夫。よっぽど相手を殺さない限り、基本的に向こうは捕まえてこようとするから」


 まぁその性濁豚オークに捕まろうものならば、想像したくもないほどの地獄が待っているわけだが。

 言外にエルピスがそう言ったのが伝わったのか、旬斗は青ざめた顔を更に青くしながら誰か止めないかと辺りを見回すが、既に周りの人間は戦闘服に着替え始めていた。


 全員分の服と装備をエルピスがオーダーメイドで作った為、並大抵の装備とは比較にならないほどの性能を実感できる代物になっているはずだ。

 なんせ一つ作るのに一時間近くかかったのだから。


「ほら行くぞ旬斗。和人と俺が守ってやるから大丈夫だ」

「まぁ秋季と和人守ってくれるなら、多少は恐怖心も和らぐけどさ……まぁ死なない程度に頑張るよ」

「男子の友情はなんだか暑いわねぇ…私達は何をすれば良いの? 遊撃部隊みたいな感じ?」

「麻希は魔法を使って、出来るだけ相手の声を出せないように出来る?

 紅葉さんは男子の援護に回ってあげてほしい」


 紅葉と麗子が頷いたのを確認してから、エルピスも自身が持つ装備に着替える。

 とは言っても適当な鋼材を適当に組み合わせた剣を収納庫ストレージから取り出し、その次に耐火性のあるローブを着込むだけだが。


 聖剣や魔剣、神の権能などは今回の戦闘では使用しない。

 使えば疲れるのもあるが、一番はこの先行隊に対して遥希たちがどれくらい対処できるのかを見たいからだ。


 軽く振ってみれば丈夫さを目的にして作ったからか、聖剣よりもはるかに重たい感触が腕全体にのしかかる。

 単純な加工技術が故の問題ではあるが鍛治神の権能を解放できない以上は一日そこいらでどうにかなる問題ではないだろう。


 この一件が終わったら土精霊ドワーフの所にでも行くかと考えながら、エルピスは部屋を後にするのだった。


 24:00


 上空に突如として現れた何かを察知して、性濁豚オーク達を筆頭にまるで蜂の巣を突いたかの如く多種多様な亜人種が宿泊していたテントの外に飛び出る。

 そして全ての亜人種はおもむろに空を見上げた。


 何故なら上空を飛来しているその何かは自分達の脅威足り得る存在であり、今すぐにでも排除すべきものだからだ。

 だがその排除すべき敵は、その身体とは不釣り合いなほどに大きい翼を使って空を飛びながら、なんの攻撃も仕掛けてこない。


 数分の時が経った頃、一人の性濁豚オークが我慢の限界を迎えたのか、その何かに向かって吼えたてると、その何かはいきなり虚空に消えたかと思うと何かがその場で爆ぜた。

 そして太陽の光とも錯覚するほどの光を撒き散らしながら、その何かは暗闇に慣れてきた目を鋭い光で潰す。


 もし転生者もしくは転移者の軍事オタクが居れば、照明弾の危険性を事前に察知してその場からいち早く逃げようとしただろう。

 だが獣に異世界の知識など存在せず、それ故にただの目くらましだとしか思わなかった獣達はその瞬間地獄を見ることになる。


「殺すのが目的じゃないから今回は軽めに。国級魔法〈流星雨〉」


 一体どこから聞こえたのか分からない囁きの如く小さな言葉は、しかし何故かその周辺にいた魔物全ての耳に届いた。

 そしてその声を追うようにして、超質量の物体が魔法の力によって大気圏外から無理やり引っ張られ、最終的に小石程度のサイズの隕石が地面に誰も視認できない速度で突き刺さる。


 その瞬間爆風が辺りを包み込み、怒号と悲鳴が辺りにこだまする。

 何故なら一瞬で宿泊地に居た大半の物がその命を消失させ、それ以外の生物も上位種でない限りどこかしらを欠損してしまっているからだ。


 身を隠そうにも闇は取り払われてしまい視界は開けてしまっており、逃げる場所などどこにもない。

 この戦場を眺めれば狩る側と狩られる側、それを判断するのは容易い事だった。


「さぁ敵の士気などもう既に無い、瓦解した部隊では連携など夢のまた夢だ。

 いまから君達がするのは一方的な虐殺、蹂躙だ。恐れず進め戦士達よ、戦争開始だ!!」


 魔法を放ったであろう者の嬉々としたその言葉と共に、いくつもの影が上空にいるその何かの影から飛び出し、戦場に躍り出る。

 黒い装束に身を包み闇と同化するその姿は正に死神という言葉が相応しく、敵であるはずなのにいっそ神々しさすら感じられた。


 だが神々しかろうと敵は敵。

 一流の戦士らしく一瞬で装備を整えた一部の亜人達は、部隊再編の時間を稼ぐ為にその影の前に壁の様に立つ。


「ゴルンダ族族長! ナルタ・オルタ、参る!!」

「おっと! 危ない危ない。スキル発動拘束バインド

「首は俺が貰うよ。〈神速〉〈抜刀〉!!」

「クッ! 卑怯なっ…」


 性濁豚オークの中でも一対一で戦えば、右に出る者がいないと言われるゴルンダ族。

 その長と人間の体格差は、二倍や三倍でも聞かないだろう。

 だがそれをなんの障害でも無いように影はその動きを止めると、もう1つの影が死角から現れ、首だけを綺麗に刈り取って行く。


 完璧な連携とそれ相応の実力に裏付けされたこの様な戦闘が行われているのはここだけではなく、他の場所でも数人が固まり確実に指揮官クラスだけを狙って性濁豚オークの相手をして居た。


「オラァ!! オラァ! オラオラオラァ!!!」

「………っ」

「なんで俺こんなにキャラ濃い奴らと組まされてんの!? 援護魔法追いつかねぇんだけど!」


 2m近い大男がその剛腕を振るうたびに数匹の性濁豚オークは空高く吹き飛ばされ、影が魔法を放ったかと思うと吹き飛ばされた性濁豚オーク達は空中で溶けていく。

 まさに蹂躙という言葉が相応しい二人はいま戦って勝てる相手では無い。


 そう判断し、側に控えるひ弱な男から殺そうと性濁豚オーク達はその身体をへし折る為に歩を進める。

 だがそれを許す二人ではなく、結果かなりの数の性濁豚オークが無意味な突撃を強いられることになった。


 大局的に人間側が有利に見え、圧倒的とすら言えるこの戦いだが、実際は少し異なって居るという事に、この場にいる誰も気がつく事すら出来なかった。


 &


 [セラ援護遅い!! フェルはそのまま敵の注意を引いて! ニルは相手の魔法を警戒!]


 アウローラの怒号が耳では無く脳に直接聞こえ、エルピスは回避行動を取りながら全域を見渡す。

 こちらに向けられる殺意の数は三桁近く、その全てからエルピス達に向かって一切の躊躇い無しに魔法や剣撃、更には弓から呪いまで多種多様な攻撃が放たれる。


 しかも魔法や剣撃が狙っているのはエルピスでは無く、どうせ当たらないのならとエルピスの周囲一帯全てを巻き込むものへと変わっていった。


 それによって速攻アウローラは前線から下がる事になり、今は街に被害がいかないよう相手を街から離す事に専念してもらっている。


 [エルピス! 奥の森霊種部隊潰せる!?]

 [もちろん。少し時間をもらうよ]


 出された指示をこなすために足早に戦場を移動しながら、エルピスはついでとばかりにいくつかの情報をアウローラに送りつける。

 何故わざわざこんな事をしなければならないのかと言うと、それにはまず国家級魔法について改めて説明しなければならないだろう。


 エルピスが普段使っている戦術級魔法もしくは国家級魔法は、本来なら一撃で戦略に匹敵したり、国を滅ぼせたりするものだ。

 それをエルピスが見境なくやたらめったら使っているのに、普段は周辺への被害があまり無い理由──それは迷宮でも話に上がった通りただ単純にエルピスが周囲を巻き込む威力の魔法を、無理やり制御して対個人用に使っているからだ。


 今回の場合では相手が軍勢規模なので戦術級魔法を一切の躊躇い無しに使ってしまいたいところではあるが、使ってしまえその瞬間に同級生含めて戦場にいる仲間が全員死亡する。


 さすがにそれはまずいのでエルピスが代わりと言ってはなんだが一番敵の注意を買う位置についているのだが、逃げる敵の前に立ち同級生達に背中を撃たせられる様に注意を引きつけているせいで以上なほどの数の魔法が飛んでくるのだ。


 もしここに同級生の誰かが居れば数秒持てばいい方だと思いながら、エルピスはいくつかの魔法を構築していく。


「魔法防御が得意な割に、随分と装甲が薄いな森妖種エルフ!!」

「このデタラメ野郎が!! 三重術式! 死ねクソ猿がっ!!」


 眼前に迫る三つの業火を邪神の障壁で防ぎながらエルピスが詠唱を唱える魔法は、この世界に来てからエルピスが考えたいくつかの魔法の内の一つだ。

 効果はシンプルだが、だからこそ強い。


 遥希達の戦い方や戦闘の癖はある程度分かった、ならばわざわざ時間を伸ばす必要もない。

 使用する予定ではなかった権能の講師に少々くらりとする頭を押さえつけ、少々の吐き気と共にエルピスは魔法を放つ。


「──ッ! 絶対にあの魔法を撃たせるな!! あれは不味い! 不味すぎるっ!!」

「おそいよ森妖種エルフ。神級魔法〈死凪虐ヴリトラ〉」


 時魔法を使用した時の様にエルピスの手の中にいくつかの魔法陣が現れたかと思うと、まるで魔法を失敗した時の様に魔法陣は中空に溶けて消え、一陣の風が吹く。


 そして森妖種エルフを含むこの場に居合わすエルピスが指定した以外の全ての生物が緩やかに生命活動を停止した。

 痛みは無く苦痛もなく、自身が死んだとすら知覚させずに殺すこの魔法の効果は、邪神と魔神の能力によって作られた超高濃度の毒と呪いを辺り一面に散布し、その場を死の世界に変える魔法だ。


 事前に使う事を知らせて居た灰猫含む仲間以外は、全てその身体をチリすら残さず消え去っていった。

 戦闘が終わった事に実感を抱きながら、一人範囲外でギリギリ生き残って居た性濁豚オークに留めをさして、エルピスはその場を後にした。


 if


 辺りを漂う不穏な風はもし少しでも吸おうものなら、自らの命を一瞬にして消し去ると本能で感じ取り、性濁豚オークは足早にその場を後にする。

 彼は性濁豚オークの中でも10年に一度程度の間隔で生まれる、特異種と呼ばれる存在だった。


 本来なら苗床となった女の種族にかかわらず、その子供は性濁豚オークになるのだが、この性濁豚オーク不死者アンデットの特性を色濃く継いでいた。

 だから一度死んだのに生き返ることが出来たのだ。


 そのまま性濁豚オークはある程度の距離を走った後に、毒が来ない事を確認してから震える膝を止めようともせず、地面に足をつく。

 痛みならば耐えればいい、死んだなら他の性濁豚オークが自身を祖霊として召喚し、共に戦うこともできるだろう。


 だが彼奴に殺された仲間達の魂は、全て彼奴に食われた。

 だから性濁豚オークはただただ仲間達の安息を願いながら、恐怖に震えるのその身体を起こし、無理やり走らせるのだ。


 毒に塗れたその体で、呪いに汚染されたその体で、何も知らない仲間の元へと。

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