サンタのいない星

清水らくは

第1話

「ママー、あのねあのね、サンタさんには自転車がほしいってお願いしたー」

「あらあら、靴下に入らないでしょ」

「えー、ママがおっきな靴下縫ってよ!」

「もう、無理言わないで」

 毎年、この時期になると憂鬱だった。クリスマスに向けて、子供との駆け引きが始まるのだ。何をプレゼントしてほしいのか、それがあげられるものか、それとなく聞き出さないといけない。これまでさんざん仕事でいろいろな交渉をしてきたが、正直子供相手が一番難しい。限度を知らないのである。

「じゃあじゃあ、小屋! マリアちゃんの家はねー、勉強する用の小屋があるの。入れ欲しい!」

「靴下がもっと大きくなっちゃった。ママね、あなたのセーターを編んであげたので今年の編み物は終了したの。本当に欲しかったら、来年までにあなたが靴下編んでおきなさい」

「えー」

「じゃあ、仕事行ってくるから。おとなしくしていなさいね」

「うん。いってらっしゃい」

 娘は、ぶんぶんと手を振っている。それを見ながら、私は家を後にする。



「リシェ、IFAAから依頼が来とったぞ」

「IFAA?」

 ボスに伝えられたのは、これまで全く付き合いのない相手だった。国際家庭機構、国連内の一組織である。

「君の手腕を期待してのことだろうなあ」

「実績なんて残すもんじゃありませんね。こういうのは報酬もそんなに高くはな……」

 送られてきたメールを開いて、私は固まってしまった。そこに書かれていたのは、予想の十倍以上の報酬額だった。

「どうした」

「ボス、これ見たんですか?」

「まあ、俺宛でもあったからな」

「どう思います?」

「わからん。前例がない」

「二つの初めてが入ってますね。一つは弁護対象が戦犯。まあこれは、事例としてはあるわけですが」

「まあな」

「もう一つが問題ですよ。その戦犯……宇宙人ですよ」

「まあ、とはいえ人ではある」

「そうですが……」

 これまで、宇宙人の弁護をした人は世界中でもごくわずかだろう。何せ、五年前まではその存在すら知られていなかったのだ。さらに言えば、知られたのちにそのほとんどは死んでしまった。

「勉強にもなると思うがね」

「この報酬で断られたくないってことですよね」

「それもある」

 ため息をつく。断ることは、できなさそうだった。

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