子守唄を歌って

嶋 徹

第1話 母の通院

「おかあさん、もう死にたい?」


 実家にはふたりだけだった。病院から戻り母の耳のそばで聞いてみた。母は何も言わず、表情だけがみるみると怒りへと豹変した。

「ごめんなさい」

 今日の病院の診察で内蔵は全く問題なく100歳目指せますよ、と診断された。その時の母の表情が愛想笑いで返答していたが僕にはとても悲しく見えた。母は生きたいのか?それとも……死にたいのか?わからない。僕は今にでも死にたい……無責任に。


  母は隣町から嫁いで来た。本当に橋1本の距離だ。アル中の父との間に3人の子供をもうけた。父は再婚だった。アル中ではあったが給与袋に手はつけなかったと聞いている。酒はつけで飲んでいたようだ。幼い頃、母が酔った父から叩かれているのをよく見た。まだ幼い兄を背負って実家に帰ろうとしたが橋の真ん中で引き返したとも聞いたことがある。私の精神科の主治医はこの幼児体験が今の私の精神疾患に関係しているとよく話す。ああ、そうですかと答える以外ない。

 「お母さん、帰るね。また、来月。寒かったら暖房つけないかんよ」「ありがとう。車、気をつけてね」

 杖をついて歩いているが、私が手を引く時に感じる力強さにはびっくりする。

「まだ生きるな。先には死ねないよな」車の中で来月の受診日を兄に知らせるためにラインをしようとスマホをみたら「Re:Birthのお知らせ」との発信元不明の文書を受信していた。

「ん?」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る