第2話 天翔の見たもの(編集)
家族という存在が嫌いだと思っている。
何故.....そんな心情になるかと言えば簡単だ。
親父が俺たちを遺して自分だけ死んだから、だ。
自分だけ死にやがったから、だ。
自殺。
幾らうつ病とは言えそんな事なら俺達も巻き添えにして死んで欲しかった。
俺と母親を遺すなんて、だ。
俺だって親父が死んだ時に死にたかったのに。
その事を思いながら中学生で親父の葬式の日、俺は親父を酷く嫌悪する。
親父の事を2度と思わないと思っていた。
だけど天龍ちゃんと天翔ちゃん達を見ていると。
遺された俺にも意味はある。
その事を.....きっかけを掴むのを初めて認識した気がする。
天龍ちゃんに縋られて、だ。
俺は.....何を思っていけば良いのか。
そして.....何を考えれば良いのか。
家族とは何なのか。
それを考えながら.....生きていこう。
そう思えた気がした。
☆
「初めまして。ゴメンね。紹介が遅れて。僕の名前は八重田。.....八重田翔(やえたかける)って言います。宜しくお願い致しますね。.....和奈君」
「.....はい」
とは言え。
考えても見てほしいのだが。
赤の他人がいきなり家族.....。
それは.....流石に俺もドン引きなのだが。
どうしたら良いのだろうか、と思う。
あまり知らされてなかった事もあるしな。
ずっと2人で戦ってきたのにその間に入って来たこの人達。
俺は.....どう接すれば良いのか。
「お父さんは良い人だよ。兄貴!」
「そうなんだな」
「だから.....仲良くしてね」
「.....ああ。努力はする.....まあ取り敢えず」
そんな会話をしていると。
リビングのテーブルの翔さんの横に腰掛けて本を読んでいる女の子が翔さんに促されてそのまま頭を下げて挨拶した。
私は天翔です、と言いながら、だ。
俺はその姿を見ながら頭を下げてみる。
だけどそれだけ語ってからその少女はそのまま口を硬く閉じた。
まだ.....緊張しているのかどうなのかは分からないが、だ。
多分違うだろうけど.....この様子は。
俺は思いながら.....天翔から視線を外してからそのまま母さんを見る。
母さんはビクッとしていた。
「ゴメンなさいね。和奈。こんな形で紹介して」
「正直まだ認めた訳じゃない。.....だけど俺は認める努力はしたい。.....天龍ちゃんが頑張ってくれたんだ」
言いながら俺は天龍ちゃんを見る。
天龍ちゃんは嬉しそうにそのまま俺にしがみ付いてから。
笑顔をニコニコと浮かべた。
俺はその姿に少しだけ控えめになったが笑みを浮かべる。
すると天龍ちゃんは、ねえ!ゲームしようよ!、と促した。
そして俺の手を引く。
「.....ゲーム?」
「そう!家族が仲良くなるゲーム!」
「そうだね。それは良いかもしれないね。参加するかな?天翔」
「私はいい」
その様に言いながら椅子から降りてから。
そのままリビングのドアを開けて去って行った天翔ちゃん。
苦笑する翔さんと母親。
俺はそんな天翔の後ろ姿に、そりゃそうなるわな、と思いながら天龍ちゃんを見る。
天龍ちゃんは怒った顔をしていた。
俺は?を浮かべながら見る。
「天龍ちゃん。落ち着いて」
「兄貴?」
「大丈夫。俺が何とかするよ。.....まあ言うだけなら簡単だけどね」
「うん。期待してる」
そんな俺の言葉だったが。
天龍ちゃんは笑みを浮かべてくれた。
そしてゲーム機のリモコンを持ってから俺に渡してくる天龍ちゃん。
俺はそのリモコンを受け取りながらそのまま、何で遊ぶ?、と聞いた。
すると天龍ちゃんは、じゃあマ◯オ!、と笑顔で言う。
定番だな、と思いながらもだったが俺は頷く。
それからテレビ画面を点けた時。
母親が話してきた。
「和奈」
「何。母さん」
「その。本当にゴメンなさい。今になって.....こんな事を」
「ゴメンな。正直俺はまだ認めれない。母さんに対してはショックだった。だけど俺は.....天龍ちゃんも天翔ちゃんも家族も。みんな.....認めたい。だから頑張るよ」
「和奈。貴方.....本当に良い息子に育ったわね。昔からずっと思っていたけど」
「.....そんな事はないけど」
正直言ってそれは無いと思う。
ただ俺は守るべき対象を守っていただけだ。
その為にこうしなければいけない事ぐらいは分かっているつもりだ。
だから天龍ちゃんを.....天翔ちゃんを。
俺は大切にしたいという気持ちを何とか持とうとしているのだ。
すると翔さんが向いてきた。
それから柔和に笑みを浮かべながら.....真剣な顔になる。
何だろうか。
「.....和奈君。.....君なら.....きっと.....」
「.....え?」
「天翔を変えられるかもしれない。きっとね。.....期待してる」
「天翔.....あの子は何がどうして.....あんな感じに。.....どうしたんですか?」
「母親の自殺の遺体を見たんだよ。あの子は」
「!」
俺はかなりのショックを受けた。
それから.....翔さんにそのまま聞く。
それはつまり遺体発見者の一人目ですか!?、と。
すると翔さんは何も言わず静かに頷いた。
それから、あの子は首を吊っている母親の姿を見たんだ、と。
「.....それから心を閉ざしたんだ。心療内科に行ったけど。治らなくてね」
「そんな事が.....」
「天龍はまあだから.....明るくしようと頑張ってくれているんだ」
「だけど.....上手くいかないって事か。.....天龍ちゃん」
「.....そうだね.....兄貴。空回りだよ」
アタシは頑張っているけど.....もう無理だからね。
でも兄貴。貴方ならきっと.....助けられる。
と苦笑しながら俺を見てくる。
何だろう。
俺にそんな淡い期待を背負わせても意味無いのだが。
そもそも.....無理だ。
そんなに傷付いてしまうと.....。
治らない気がする。
「.....天翔は.....本当に良い子だ。優しくてね。.....だけど心が傷付き過ぎたんだ」
「.....」
「.....だから今は遊ぼう。兄貴」
「そうだな」
天翔ちゃん、か。
そんな事があったなんてな。
俺よりも傷付いているじゃ無いのか。
思いながら俺は.....唇を噛みながら。
とにかく明るく接してくれる天龍ちゃんに応えた。
「和奈。あまり背負わないでね。.....翔さんも一気に話し過ぎよ」
「そうだな。.....ゴメンな。和奈君。馬鹿だった」
「いえ.....俺は」
俺は.....翔さんを見ながら.....俯く。
それからリビングのドアを見る。
何を捻くれているんだ俺は。
もっとショックを受けている子も居るじゃないか.....。
思いながら俺は.....拳を握った。
大人が何をしているんだ、と、だ。
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