俺には記憶がない。生まれたときに森にいたのだ。育ての親は魔物である。魔物というのは人間と敵対する勢力だがその魔物が俺を育ててくれたのだ。育ててくれたのは熊である。そしてその熊の個体はデビルベアーで、Aランクの魔物だ。それが分かったのは俺が成人した後でのことである。「どうして俺を育てたのか」俺は育ての親のデビルベアーに聞いた。「どうしてもその無邪気な笑顔にね」と父ベアーのベアリアルが言った。俺は納得した。デビルベアーは知性が高く、人語を話せる。俺はそのデビルベアーに言語を習った。「人間を殺したことはあるのか?」母であるベア子に聞いた。「いいえ、ないわ。でもそのせいで私たちはデビルベアーの種族から追い出され、追われ者の身なの」とベア子は言った。そうなのか。俺はこのデビルベアーに育てられたからこそ助かったのだ。ほかのデビルベアーだったのならば、殺されていたのであろう。「人間と魔物のどっち派だ?」

俺は少し意地悪な質問をした。「それはどっちとかはないわ。私たちは仲良く暮らせたら良いのよ。一生を幸せにね」そんなこんなで幸せな時間は続いて行った。しかし、やがてそれは一夜で崩壊する。「デビルベアーの他の奴らがこの場所を探し当てたみたいだ」父が言った。「どうしてわかる」「魔力探知だ」デビルベアーは魔法能力にも秀でていた。

「どうやらお前ともこれでもうお別れのようだな」「どうして」「ここにいてはお前を巻き込んでしまう」「お前はこの川に船で移動してもらう。もちろん強制的にだ」「いやだ」「わがままを言うな」「でも……」「大丈夫。俺たちはデビルベアーの中では上位個体なのだ。負けはせん」「お前は今は弱い。しかし才能はある。それにお前には基礎はすべて教えてある。魔法の知識もな。まだ実践はしたことないがやがて開花するだろう。だからまたいつか会おう」父ベアーはそういって俺を魔法船に閉じ込め川を下らせた。「それは川が緩やかになり、危険が無くなったとき解除される船だ。俺のオリジナル魔法だぞ。感謝しな」がははと父ベアーは言った。俺は涙をこらえながら父と母の見送りをただ眺める事しかできなかった。

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