二人【一話完結型】

華夢

【一話完結型】

 季節外れの雪が降る、もう冬だねと僕は彼女に声をかけた。幼い頃からずっと一緒、幼稚園も学校も、いつも一緒だった。あの子は長くて綺麗な黒い髪を一つに結んで、だから何? と冷たく僕に言い返してきた。

「とっくに冬だよ、十一超えたら冬なんだ」

 冬は嫌いだと、彼女は小さい頃から言っていた。寒いし、風邪をひくし、海に行けないし、何より火傷をしてしまうから。それに、制服は可愛くないし、暖房をつけたら値段が高くなる、文句を言わせたらきっとテレキャスターの台本以上に長くなるだろう。

「夏にも同じこと言わなかった? 」

「夏も嫌いなの。中途半端なのよ、春とか秋とか、中間地点の季節を見習ってほしいの、あの辺りは寒すぎないし暑すぎない、穏やかなの。私はそういうのが好き」

 彼女はテーブルに突っ伏して、お腹の音を鳴らしてた。何か食べる? と聞いてもお腹空いてないと嘘をつく。面倒臭い、食べる行為そのものがだるい、中途半端なのはどっちなのだろう。どう見ても彼女の方なのに。

「冬生まれなのが嫌なんだ」

 彼女は小さくぼやいていた。

「冬ってね、師走。忙しい季節でしょ、だから私一人なの、誰もいないのよ。忙しい季節に生まれちゃったの、悪いと思ってるの」

「僕は夏生まれだよ、でも忙しかったってさ」

「いやね、冬はもっと忙しいのよ」

 彼女は小さな声で、ご飯食べたいと呟いた。僕は仕方ないからと、その辺の段ボールを漁った。

「悪いね、いつもいつもお邪魔しちゃってさ」

「良いよ別に。幼馴染なんだから」

 インスタント食品は気が楽だ。お湯に入れるか注ぐかすればすぐ食べられるから。僕は待ってる間、彼女と話すことができるのだから。


「冬になるとさぁ、こうして他人の家に遊びに行くいろんな人が街の中にはいてさ、その中でいろんな関係が生まれていくのかなぁ」

「そうだろうね」

「出会いがたくさんある季節って感じでもあるのかなぁ」

「だと思うよ」

 彼女は大きく息を吐いて、世知辛いなぁと冷たく笑っていた。

 彼女の両親は、毎日毎日仕事で忙しかったようだ。僕はいつも、君と一緒に遊んでいたけど、君が両親の名前を呼ぶのはあまり見たことなかったな。

 彼女は見た目も性格も、強気な一面を露わにしようとしていた。でも実際は、寂しがり屋なところがある。だからきっと、冬が嫌いなんだろう、夏が嫌いなんだろう、中途半端は君にとって、自分をどこに追いやればいいのかわからない存在なのだろう。


美樹ミキは冬が嫌いなんだね」

「何回も同じことを言ってるよ」

 彼女は呆れた顔をしていた。インスタント食品を持ってきて、二人でいただきますと声を出した。

 乾いた喉を潤すにしては、あまりにも濃すぎる味だった。二人とも、この時期になるとよく食べる懐かしい醤油の味がする。

「……隼人フユト、美味しそうな顔して食べるよね」

「美味しいからね」

「あんたのそういうところ、私は嫌いじゃないよ」

 彼女はいつもそうやって笑う。孤独感を隠すための笑顔なのか、それとも別の感情があるのか、僕にはこれっぽっちもわからない。


 僕は彼女と違って、綺麗な顔はしてないし、運動も勉強も人並み以下。家族も、僕をあまり良い目で見てくれない。

 だけど僕は中途半端が好きだった。だからこそ憧れた、何にもなれない平凡以下の僕は、中途半端に強くてかっこよかったら良いなぁっていつもいつも願ってた。

 彼女は運動も勉強も得意だし、綺麗に整った顔をしてる。両親は忙しいから、滅多に会うことはできないって言うのを除けば、凄く恵まれた才能を持っているのだろう。

 でも、彼女はいつも本音を言わない。僕と一緒にいる時に、こうして文句を言う日はあるけど、それ以外には特に。寂しいなぁとか、そういう事はあまり聞かない。

 僕は、君が何かを思ってると勝手に決めつけて、勝手に行動する。僕は君が、彼女が、僕と一緒にいる時間を唯一の娯楽だと思ってるんだろうなぁって錯覚してる。


「……やっぱり、冬は嫌いかも」

 彼女は窓の外を眺めていた。その間には涙が流れてて、思い出しちゃうなと苦笑していた。

 テレビでは、事故のニュースが流れていた。冬になると、車が滑って衝突する事故とかもあるらしい。彼女は涙を拭って、気を取り直して食事を続けた。

「隼人は、好き? 」

「……普通かな」

 僕は君の質問に、曖昧に答えることしかできなかった。


 君はいつも強情で、あまり僕には素直になってくれない。だから、僕の気持ちは君に届かないんだろう、君はいつも変なふうに僕の気持ちを捉えてしまうんだもの。

 僕は彼女に対して、いつもありのままの気持ちを伝えようとしている。それなのに、彼女はそれを聞いたところで、いつも素気なく返事をしたりとか、余計に酷いことを言い返してくるだけだった。

 捻くれ屋だなぁ、と言えば彼女は怒る。本当のことだよと言ったら余計怒る、でも僕が何も言わないと、何か言いなさいよと言わんばかりに睨んでくる。


 僕は君と一緒に過ごす四季の時間は、どんな時間も楽しくて好きだ。冬の君はやけに素直だし、だからこそもっと続けばいいと願ってしまう。

 でも、それを伝えたところで君は何も理解できないだろう、だから僕は彼女には何も伝えない。


 ――今年も相槌を打つだけの、寂しい冬が訪れる。

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二人【一話完結型】 華夢 @kyouka0711

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