今回も片想いの誕生日
夜桜
誕生日
「日向とお泊りだー!」
「…声、でかい」
耳元で叫ばれ、反射的に耳を塞ぐ。
まったく、二人しかいないのだから声をそこまで張り上げなくていいと思うんだけどな。
そんな事はお構いなしに、深雪は楽しそうに私の手を引っ張ってくる。
「もっと楽しそうに笑って!今日の主役なんだから、ね?」
「たかが誕生日にそこまでしなくても…」
「日向、誕生日は楽しまなくちゃ駄目なんだよ!」
深雪の言ってる事を私は理解できないが、そんな深雪と一緒にいるのは心地が良い。
自然と頬が緩む。
「日向が笑った!私、日向の笑顔、可愛くて好き〜」
「なっ、可愛くなんかないし」
「照れてる?そういうとこも可愛いぞ〜」
こういうこと言うから、調子は狂うけど。
深雪は私の誕生日のために色々と準備をしてくれたみたいだ。
週末によく私たちはお泊り会をしている。
それほどに仲が良い。
今日もいつも通りの集まりだと思っていた。
だから、まさか誕生日を覚えてくれていたなんて、嬉しい気持ちでいっぱいになっていた。
深雪の部屋には、所々に可愛らしいパステルカラーの風船があり、部屋の壁にはHappy Birthdayの文字がシールで貼られていた。
部屋の中央の小さな机には、二人で食べ切れるほどのケーキが置かれていた。バースデーケーキらしく名前を書くプレートに『日向』と書かれている。
「これ全部、深雪がやったの?」
「うん!いい感じでしょ」
「すごい…」
「えへへ」
褒められて嬉しいのか、深雪が少し頬を赤らめ笑った。
あぁ、やっぱり可愛いな。
深雪の笑顔を見ると、深雪を好きになった頃の記憶が頭をよぎる。
あの時も、こんな笑顔を見せてくれた。
「日向?そんなとこに突っ立てないで隣おいで〜」
「あ、ごめん」
私がボケっとしているうちに、いつの間にか深雪は机のそばに座っていた。
私もそばに行き、深雪の隣に座る。
「よしっ、誕生日と言ったらケーキだよね!」
「まぁ、多分?」
「と言うことで、ロウソクさして火をつけます!」
「はーい」
楽しそうに、ケーキにロウソクをさしていく。
長いロウソクを1本、短いロウソクを7本。これで17歳を表している。
ロウソクをさし終わり、ライターで火をつけていく。
「できた!」
「じゃあ、消していい?」
「まって、電気消してない」
部屋の電気が消える。
ロウソクの心もとない明かりだけが、辺りを照らしている。
「ねぇ、日向。誕生日の歌、歌ってあげようか?」
「いや、いいよ」
「そう?…あっ!」
「何?急に」
「願い事、考えた?」
「あー、願い事、ね」
誕生日ケーキのロウソクを願い事を一つ思い浮かべながら消すと、その願いが叶うと言われている。
昔は私だって信じていた。でも、願い事は自分で叶えなきゃいけないこともあると言う事を知ってから、こんなの迷信だと思うようになっていた。
それでも、心ではそう思っていても、私はこの迷信に頼りたい気持ちが少しだけあった。
「願い事、考えたよ」
「それじゃ〜、日向。お誕生日おめでとう!」
深雪のお祝いの言葉と共に、ロウソクの火を一息で消した。
辺りが暗くなる。
深雪の拍手の音が聞こえる。それからしばらくして、部屋の明かりがついた。
「日向、すごいね!一瞬で消えてたよ〜」
「まぁ、ロウソク8本だったし」
「ところで、日向は何をお願いしたの?」
「…秘密」
「えー。まぁ、人に願いを言ったら叶わなくなっちゃうかもしれないもんね」
「そうそう」
私が神にもすがる思いで願ったもの。
それは、『深雪に想いを伝える勇気がほしい』たったそれだけ。
ずっと親友として隣を歩いてきた。
でも、いつの日か深雪のことを意識し始めていた。私は、親友を好きになってしまったのだ。
好きになってから、この関係が壊れることを恐れるようになった。
だから、きっとこの気持ちは一生伝えられない。
神がこの願いを叶えてくれるまでは。
今回も片想いの誕生日 夜桜 @yozakura_56
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